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D社シルバー社員雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- D社シルバー社員雇止事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 - 平成5年(ワ)第42号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1995年03月24日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告は、諸機械、器具等の製造販売を主たる目的とする株式会社であり、原告(昭和4年生)は、国家公務員を退職後、昭和63年11月21日から被告の「フレンド社員」という名のパートタイマーであった者である。
原告の採用後、原告と被告は毎年6ヶ月ごと、4月1日及び10月1日に本件労働契約を更新してきたが、被告は平成4年9月10日頃、原告に対し同月末日以降の雇用契約の更新をしない旨の通告を行い、話合いの結果、雇用期間を同年12月末日までの3ヶ月とする雇用契約を締結し、被告は同日以降の原告の就労を拒絶した。
原告は、(1)本件労働契約は期間の定めのないものであり、更新拒絶は解雇に当たるところ、整理解雇の要件を満たしていないこと、(2)「人員整理を行う場合はパート労働者より協力会社の派遣社員から先に整理する」との採用時の約束に反すること、(3)原告は平成4年12月末日で辞める気持ちがないことを被告に対し明確に伝えているから、合意解約は成立しないこと等を主張し、被告の従業員としての地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告が被告の従業員の地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、平成5年1月以降、毎月25日限り金14万5600円の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は10分し、その1を原告のその余を被告の各負担とする。
5 この判決の第2項は、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件労働契約及び本件雇止めの法的性質
原告は被告事業場において、シルバー人材の活用を目的として、10人程度の員数を採用する予定で募集した従業員の一員であったこと、原告採用時のシルバー社員の募集は、事業場における組織的、制度的なものであって、欠員の補充を目的としたものではなかったこと、原告が従事した職務は特定の職種・作業に限定されていたわけではなく、配置換えが幾度か行われ、作業内容も変更されたこと、原告は一般の従業員同様、現場作業全体を対象として、仕事の繁閑や作業員の配置状況を考慮して適宜配置される役割を担う労働者としての処遇を受けてきたこと、本件労働契約の更新状況についても、採用後7回にわたって更新を繰り返し、平成4年9月30日の段階において、既に約4年近くの間継続して被告の命ずる職務に従事してきたものであることが認められる。
右のごとき本件労働契約の特徴からすれば、本件労働契約は、必ずしも短期の雇用を前提としたものではなく、原告が被告の従業員として相当期間労務提供することが当初から予定されていたものであって、その意味で、期間の定めにもかかわらず、特段の事情のない限り、労働契約が反復更新されて原告の雇用が継続されることが、本件労働契約の内容となっていたというべきである。したがって、本件労働契約は、当初、原・被告間において期間の定めのある雇用契約として成立し、外形的にはこれが更新されてきたに過ぎないものであるとしても、本件雇止め当時は、既にその性質を変じ、実質的には期間の定めのない雇用契約と異ならない状態で存続していたものというべきである。それ故、被告から解雇の意思表示がなされた場合はもとより、単に更新拒絶の意思表示がなされた場合においても、少なくとも解雇に関する法理が準用され、更新拒絶における正当事由及び更新拒絶権の濫用の有無が検討されなければならないというべきである。そうすると、本件雇止めにより労働契約の期間が満了したとして、原告が被告従業員の地位を喪失したとの被告主張は採用できない。2 解雇権の濫用等
被告は、バブル経済の崩壊によって、売上高が伸び悩むようになり、平成4年頃合理化の必要性が存したことが認められ、その合理化の一環として事業規模の縮小を選択し、その手段として、人件費を削減するべく従業員を雇止めすることにも一応の合理性があるものというべきである。そして被告は、協力会社からの派遣社員を人員削減の対象とし、実際に相当程度削減したことが認められる以上、パートタイマー(パート)を雇止めの対象とすることも、右パートが一般に正規の従業員と比較して企業に対する依存度が低く、また雇止めが本人に与える影響が相対的に低いこと等からして不合理とはいえないが、本件雇止めが整理解雇の色彩の強いものであることを考慮すると、整理の対象として原告を選択したことについては、以下のとおり合理性が認められず、本件雇止めは権利の濫用であって無効といわざるを得ない。
(1)被告事業場においては、本件解雇頃パートが相当数就労しており、その後も必要に応じてパートを募集していたのであるから、被告にパートを削減する抽象的な必要性があったとしても、単に原告がパートであるということのみをもって原告を整理の対象とすることは許されない。
(2)原告が正規従業員の定年年齢たる60歳を超過していることについても、原告が被告に採用されたのが59歳のときであること、本件労働契約は相当期間反復更新されることが予定されたものであったこと、原告採用時の募集対象年齢が55歳から65歳程度までであったこと等の原告の採用の経緯に照らすと、被告がこれを選択基準にして原告を整理の対象とすることは、原告との間の信義則に反し、著しく不合理であって許されない。
(3)一般に加齢とともに人間の身体能力や判断力等が減退することが経験則上認められることが明らかであっても、被告はもともと「シルバー社員」として定年退職者等を活用するため、原告を59歳のときに採用したのであり、原告と同時に採用された者もほぼ原告と同年齢であって、被告は原告ら「シルバー社員」を採用するに当たって、原告らが現場作業に従事する能力を有すると判断したというべきであって、採用時において有していた能力が採用後著しく欠け、業務の遂行に支障を生じる程度となる等の事情が存する場合は格別、ただ単に年齢が高いため若い従業員と比較して身体的能力が劣る等、採用時に予測可能であった程度の労働力の低下をもって整理の理由とすることは信義則に反するものといわなければならない。そして、本件雇止め当時、原告に加齢による労働能力の低下ないし劣化がある程度存したことは確かであるが、労働能力の阻害の程度は、原告採用当時被告において予想可能な範囲であったというべきであって、他に原告において、業務遂行に耐えられない程度の能力欠如その他の欠格事由を見出すこともできない。3 本件合意解約の成否
原告が期間満了日を平成4年12月末日とする本件労働契約の更新の契約書に署名したこと、これは従来の6ヶ月の更新とは異なり、3ヶ月の期間を定めたものであること、事前に原告と被告担当者との間で更新に関する交渉がなされたことが認められる。また従前の更新と異なり、事前に原告と被告担当者との間で更新に関する交渉がなされたこと等の事実が認められる。右事実によれば、原告も右期間の満了をもって本件労働契約が更新されないとの認識を持ちながら、右期間の更新に応じたと見る余地がないではない。しかしながら、原告は平成4年9月30日に至る更新に関する交渉の中で、被告に対して引き続き雇用を継続するよう要望していたことに加え、同年12月末日までの期間の定めのある雇用契約を締結したことをもって最終的な解決ではなく、雇用期間延長に関する交渉を今後も継続する意思を有していることを被告担当者に対して伝えたことが認められる。
右のとおり、原告が同年9月30日の調印において、被告を退職する旨の明確な意思を有していなかったことは明らかというべきであり、被告担当者も、原告が12月末日をもって退職するとの明確な意思を有した上で右調印に至ったものでないことを十分認識していたものというべきである。そうすると、たとえ被告の担当者において、今回の更新をもって最終契約とするとの意思を原告に伝え、右意思を示す契約書に原告が署名押印したとしても、何ら合意解約の成立を意味するものではないといわなければならない。したがって、本件合意解約が成立したため原告は被告の従業員の地位を喪失した旨の被告の主張は採用できない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例678号47頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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