判例データベース
M社雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- M社雇止事件
- 事件番号
- 奈良地裁 − 平成9年(ヨ)第61号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年10月17日
- 判決決定区分
- 却下(即時抗告)
- 事件の概要
- 債務者は、主としてダム等の製造を業とする会社であり、債権者(昭和17年生)は平成4年1月20日に債務者に嘱託社員として採用された者であって、奈良工場において主として旋盤作業に従事していた。
債権者は、平成4年3月1日から平成7年2月28日まで、6ヶ月ごとに契約更新を繰り返し、その後同年3月1日から10月18日まで更新した後、翌19日から平成9年4月13日まで6ヶ月ごとに更新を繰り返した。債権者は少なくとも、平成7年9月頃1件、同年10月頃2件、同年12月頃1件、平成8年1月頃2件、同年5月頃1件、同年8月頃1件、同年9月頃1件同年11月頃2件、同年12月頃1件、平成9年2月頃1件の加工ミスをした。債務者においては、当日の朝に連絡して休む「ポカ休」一掃運動に取り組んでいたところ、債権者は平成8年に8回、平成9年に3回のポカ休により欠勤した。
平成8年9月21日、債務者のマネージャーらが債権者と面接し、同年10月14日から翌年4月13日までの次回契約をもって雇用を終了する旨債権者に告知し、平成9年2月24日、債務者は同年4月13日以降雇用契約を更新しない旨改めて債権者に告知した。
これに対し債権者は、本件契約更新が自動的に行われていたこと、作業の種類・内容の点で正社員と差異がないこと、採用後5年間10回にわたって契約が更新されていたこと等に照らすと、本件雇用契約は実質的に期間の定めのない契約と同視することができるところ、解雇を正当化するに足りる合理的な理由はなかったとして、従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求める仮処分を申し立てた。 - 主文
- 債権者の本件各申立てをいずれも却下する。
申立費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 債務者においては、嘱託職員との雇用契約の期間満了に先立って、所属長が当該社員と面接した上で記した契約更新についての意見のほか、過去6ヶ月間の出勤状況や所属部門長の総合所見を記載した契約更新伺という文書に基づいて、当該社員の契約更新の可否を審査し、これを決定する手続きを取っている。そして、債権者との更新に当たっても、契約更新伺が作成されていたが、平成8年8月12日付けの更新伺には、「ベテランの機械作業者としてはミスが多く、ミスに対する反省や歯止めに対する意欲が薄い。雑談が多く、当日電話による欠勤が多い等勤務態度も余り良くない。もう少し良い人と入れ替えていただきたい」旨記載されている。この事実によれば、債務者においては、嘱託職員との雇用契約期間満了に先立ち、当該社員の契約更新の可否を実質的に審査し、これを可とする判断をした場合に雇用契約の更新を行っており、債権者についても、本件雇止めに至るまでこのような審査の結果雇用契約の更新が行われてきたことが一応認められる。
債権者は、雇用期間満了の1ヶ月前頃に所属長との面接が行われていたことは認めつつも、形式的でほとんど自動的に契約が更新されていたと主張する。しかしながら、契約更新伺には、債権者の技能を始めとして、その勤務態度や職場に与える雰囲気に至るまで、雇用契約の更新の可否を判断するに当たり必要と思われる一応の事項について、所属部門の責任者の意見が詳細に記されており、しかもその記載内容が形骸化していないことからすると、債務者は日頃の債権者の仕事ぶりを観察して嘱託社員としての適格性を不断に注視し、慎重に吟味した上で契約の更新を行っていたものと認められるから、契約更新が自動的に行われていたとは認め難い。そうすると、債権者について、従事する作業の種類・内容の点で正社員と差異がなく、採用後5年間にわたって契約更新がなされてきたことを考慮に入れても、債務者との雇用契約が実質的に期間の定めのない契約と同視できるとはいえないから、本件雇止めについて解雇の法理が類推適用されるべきであるとの債権者の主張は採用することができない。
債権者はまた、債務者との雇用契約は、期間満了後の雇用継続を合理的に期待させるものであり、信義則上、更新拒絶にはそれが相当と認められる特段の事情を要するところ、本件ではこのような事情は一切ないから、本件雇止めは信義則に反し無効である旨主張する。しかしながら、債権者は既に平成8年9月21日には、生産本部マネージャーらから、次回契約をもって雇用を終了する旨の告知を受けていたものであるから、従事する作業の種類・内容の点で正社員と差異がなく、採用後5年間にわたって契約更新がなされてきたことを考慮に入れても、債務者との雇用契約が期間満了後の雇用継続を合理的に期待させるものであったとはいい難い。のみならず、平成8年2月26日付けの契約更新伺の記載内容からすると、債権者は同年4月13日を終期とする雇用契約の期間満了に先立ち、所属長から、加工ミスを含め厳しい注意を受けていたことが窺われるところ、債権者がその前後を通じて、少なくとも加工ミスを繰り返し、「ポカ休」等の一掃運動が行われていたことを知りながら、当日朝の電話連絡による欠勤を度々していた事実があるから、債権者の態度に問題がなかったとはいえず、平成7年後半からの債務者の業績が芳しいものではなかったことをも考慮に入れると、信義則上、債務者による本件雇止めが不当であるということはできない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例72918
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
奈良地裁 − 平成9年(ヨ)第61号 | 却下(即時抗告) | 1997年10月17日 |
大阪高裁 − 平成9年(ラ)第971号 | 棄却(確定) | 1997年12月16日 |