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ホテル配膳人雇止控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
ホテル配膳人雇止控訴事件
事件番号
東京高裁 - 平成14年(ネ)第2160号
当事者
控訴人・被控訴人(1審被告) 株式会社
被控訴人・控訴人(1審原告) 個人4名 A、B、C、D
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年11月26日
判決決定区分
1審被告控訴認容(上告)
事件の概要
 第1審被告(被告)は、ホテル経営等を目的として設立された株式会社であり、第1審原告(原告)らは配膳人紹介所からの紹介により、昭和59年から昭和63年にかけて日々雇用の形で被告に勤務していた配膳人である。

 被告は、バブル崩壊後のビジネス需要や消費減退により経営が悪化したため、正社員だけではなく配膳人に対しても、団体交渉を経た上で通知書を交付し、賃金支給の対象とされていた食事及び休憩時間を賃金支給の対象としないこと等労働条件の引下げを通知した。
これに対し、通知書を交付された配膳人の大部分は労働条件の変更に同意したが、原告らは労働条件変更を争う権利を留保しつつ変更後の労働条件で就労した。ところが、被告は平成11年5月11日、労働条件改定に関する同意書未提出の者は同日をもって就労が終了する旨の文書を貼り出し、同月10日付けの離職票を作成して、原告らを雇止めをしたことから、原告らは、被告に対し従業員としての仮の地位を定める仮処分を申し立てるとともに、原告らが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、原告ら各人につき200万円の慰謝料の支払いを請求した。
主文
1 1審原告らの本件控訴をいずれも棄却する。

2 原判決中1審被告の敗訴部分を取り消す。

3 前項に係る1審原告らの請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じ、1審原告らの負担とする。
判決要旨
1 1審原告らと1審被告の間の雇用契約における期間の定めの有無等

 当裁判所も、ホテルヒルトンでのスチュワード業務に関し、1審原告(原告)らと1審被告(被告)が期間の定めのない雇用契約を締結したとは認められず、原告らと被告は同業務に関し日々個別の雇用契約を締結している関係にあったものと判断する。また、原告らと被告の間の日々雇用の関係が長期間継続していたからといって、原告らと被告の間の雇用契約が期間の定めのない契約に転化したとか、原告らと被告の間に期間の定めのない雇用契約を締結したのと実質的に異ならない関係が生じたということはできないものと判断する。2 本件雇止めの効力

 原告らと被告との間の雇用関係について、(1)原告らは本件雇止めまでいずれも約14年間という長期間にわたり被告との間の日々雇用の関係を継続してきたこと、(2)被告も本件資格規定を定めるなど配膳人の中に常用的日々労働者が存在することを認めるとともに、原告A及び同Bを常勤者に、原告Dを準常勤者に、同Cを一般にそれぞれ指定したこと、(3)原告らは遅くとも平成8年以降は週5日勤務を継続していたこと、(4)被告と組合は、原告ら組合員の勤務条件に関して時間額や勤務条件に関する交渉を定期的に行い、常用的日々雇用労働者について他の配膳人より高い基準での合意をしてきたこと、(5)本件雇止め当時、原告らにおいて被告における勤務条件と同程度ないしそれ以上の条件で、他のホテルにスチュワードとして勤務することは困難であったこと等の事情が認められるのであり、これらの事情を総合すると、常用的日々雇用労働者に該当する原告らと被告の間の雇用関係においては、雇用関係のある程度の継続が期待されていたものであって、原告らにおけるこの期待は法的保護に値し、このような原告らの雇止めについては、解雇に関する法理が類推され、社会通念上相当と認められる合理的な理由がなければ雇止めは許されないと解するのが相当である。

 原告らと被告の間の雇用関係が簡易な採用手続きで開始された日々雇用の関係であること、ある日時における勤務は、原告らが被告から強制されるものではなく、原告らが希望し、被告が採用して初めて決定するものであること、原告らは配膳人からスチュワード正社員になる道を選択せず、配膳人であることを望んだこと等の雇用関係の実態に照らすと、本件雇止めの効力を判断する基準は、期間の定めのない雇用契約を締結している労働者について解雇の効力を判断する基準と同一でなく、そこには自ずから合理的な差異があるというべきである。

 原告らと被告は日々個別の雇用契約を締結している関係にあったのであるから、本件労働条件変更に合理的理由の認められる限り、変更後の条件による被告の雇用契約更新の申込みは有効である。そして、これに対する原告らの本件異議留保付き承諾の回答は、被告の変更後の条件による雇用契約更新の申込みに基づく被告と原告らの合意は成立していないとして後日争うことを明確に示すものであり、被告の申込みを拒絶したものといわざるを得ず、原告らはこのような条件付き承諾の意思表示は有効と解すべきであると主張する。しかし、条件付き承諾の意思表示を本件のような日々雇用契約における労働条件変更の申込みと承諾の場合に類推して、本件異議留保付き承諾の意思表示により雇用契約の更新を認めることは、そのような意思表示を受けた相手方の地位を不安定にするものであり、終局裁判の確定時における当事者双方の利害の調整を図るための立法上の手当てもされていない現状においては許されないと解すべきである。
 以上、原告らと被告の間の雇用関係の実態に即して判断すると、本件労働条件変更は、大幅な赤字を抱え、ホテル建物の賃貸人から賃料不払いを理由とする明渡請求を受けるという会社の危機的状況にあって、会社の経費節減の方法として行われたもので、その労働条件変更の程度も、同様に不況にあえぐ他のホテルにおいても実施されている程度のものであって、会社の危機的状況を乗り切るには止むを得ないものと認められる。したがって、本件労働条件変更に合理的理由があること、被告は本件雇止めに至るまで約半年前から組合と交渉を開始し、原告らに対して繰り返し本件労働条件変更の合理的理由を説明したこと、被告は正社員の組合に対しても賞与の引下げ等を提案し、同組合もこれに同意していること、原告らは正社員となることを希望せず、あえて日々雇用関係という身分に甘んじてきたこと、そのような雇用形態にある原告らの本件異議留保付き承諾の回答は、被告の変更後の条件による雇用契約更新の申込みを拒絶したものといわざるを得ないこと、それにもかかわらず、そのような意思表示をしている原告らの雇用継続の期待権を保護するため被告に対し原告らとの日々雇用契約の締結を義務づけるのは、今後も継続的に会社経営の合理化や経費節減を図ってゆかなければならない被告にとって酷であること等の事情によれば、本件雇止めには社会通念上相当と認められる合理的な理由が認められるというべきである。したがって、本件雇止めは有効であると認められる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例843号20頁
その他特記事項
本件は上告された。