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さいたま労基署長(Kセンター)経営者自殺事件【うつ病・自殺】
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- さいたま労基署長(Kセンター)経営者自殺事件【うつ病・自殺】
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成19年(行ウ)第376号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 国 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年01月29日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- K(昭和12年生)は、株式会社Kセンター(センター)の創業者で代表取締役であったが、 センターでは取締役会も株主総会も開かれたことがなく、Kは同社の営業、給料の決定、業務指示等をほとんど一人で行っており、経理は妻が行っていた。
Kは、平成14年3月26日、商業登記簿上退任したほか、65歳になった際、年齢を理由として、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失確認届を提出した。Kの退任後、Cが代表取締役に就任したが、その地位は形式的であり、Kは退任後も引き続き実質上代表取締役の地位にあって業務全般を取り仕切っていた。
センターは、バブル崩壊後売上げが大幅に落ち込み、全盛期の半分にまでなったため、Kは営業のため連日全国を出張して回るようになったところ、多忙さや心労からうつ状態となり、死亡する1年前からは会社にも毎日は出勤しなくなり、自宅にCや従業員を呼んで指示するなど、疲労の度が大きい様子であった。
Kは、平成14年4月14日から広島支店長と契約履行に関する打合せのため広島に出張していたが、同月21日、滞在していたウィークリーマンションの1室で縊死しているのが発見された。
Kの妻である原告は、Kの死亡は業務に起因するものであるとして、労働基準監督署長に対し、労災保険法に基づき、遺族補償給付及び葬祭料の支給を申請したところ、同署長は、Kが労災保険法にいう労働者に該当しないとして不支給処分(本件処分)とした。原告は本件処分を不服として、審査請求をしたが棄却され、再審査請求をしたが3ヶ月を経過しても裁決がなされないことから、本件処分の取消しを求めて、本訴を提起した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 労働者災害補償保険法7条1項は、同法による保険給付として、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡に関する保険給付(1号)等を掲げる。同条にいう「労働者」とは、労働基準法9条にいうそれと同一であると解されるところ、同条は、「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業所又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいうと定め、使用者の指揮命令を受けて労働に服しその対償としての賃金を得る、いわゆる従属労働に服する者をいうと解される。したがって、会社の経営者のように、自らの判断により経営を行い、その結果としての利益を得る者は、これに当たらないと解される。
Kは、平成14年3月26日にKセンターの代表取締役を退任するまで、ほとんどの期間にわたり、同社の創業者代表取締役として、ほとんどの株式を所有し、代表者としても、自己の判断に従い、特に誰かの指揮命令を受けるということもなく、ほとんど一人で同社の業務を遂行してきたものであり、また会社から受ける利益も、社内の他の従業員とは一線を画した多額なものであった。したがって、同人の地位及び待遇は、疑いなく経営者そのものであり、同人を労働者と見ることはできないものであった。
上記退任後も、この実態には特段の変化はないものと認められ、Kは、自己の判断に従い、特に誰かの指揮命令を受けるということもなく、同社の業務を遂行しており、給料(報酬)の額も変わっていない。本件事故時の広島出張も、Kと共にセンターの代表取締役であった広島支店長と契約履行に関する打合せを行うためのものであって、経営に関する打合せが行われたものと推認するのが相当である。
したがって、Kは登記簿上は代表取締役を退任しているが、その退任は形式的なもので、死亡時もセンターの経営者であったと認められ、労働者であったとは認められない。そうであるから、原告の遺族補償給付及び葬祭料の支給の申請に対し不支給とした本件各処分は適法である。 - 適用法規・条文
- 労働基準法9条、
労災保険法7条1項、16条の2、17条 - 収録文献(出典)
- 労働判例965号90頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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