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T社多重派遣解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- T社多重派遣解雇事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 − 平成19年(ワ)第2780号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年07月16日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、コンピューター運営の業務代行請負及びデータ作成の代行と請負、労働者派遣事業等を業とする株式会社であり、原告は、平成12年12月末から同16年9月30日までは契約社員として被告に雇用され、S社に派遣されて、その親会社であるT社の中部アウトソーシングセンター内マシン室で勤務していた。
原告は、平成16年10月21日、被告との間で、業務内容をサーバー運用、就業場所をT社四日市工場、就業先都合による業務終了のときは被告が他の業務を斡旋することに全力を尽くすとの条件で、期間の定めのない雇用契約を締結し、同工場で勤務をした。
本件業務については、順次業務委託契約が締結されていたものの、原告に対する労務管理を行っていたのは、ITサービスであり、それから被告までの契約は、その実態において請負ではなく、多重派遣であった。
原告の加入する労働組合は、平成17年4月、5月に被告との間で雇用契約を適法なものとすること等を求めて団交を行ったところ、被告は雇用契約を8月末までの3ヶ月間、業務の受注形態を従来通りとするなどの条件を文書で回答した。組合はこれを受けて、被告及び関連会社に対し、原告は違法派遣の被害者である旨文書を発した上、5月24日愛知労働局に対し、違法派遣の是正のための行政指導を申し入れた。同局は、6月16日、被告に対し、同月30日までに、本件業務をITサービスとの労働者派遣契約に切り替えるか、契約を中止するよう是正指導をした。またこの際、口頭で原告の雇用を確保するよう要請し、被告はこれを承諾した。被告は待機期間中の賃金は6割とすること、解雇予告手当を支払うので他で就職先を探すことを原告に促し、7月28日、組合に対し、原告に適する業務が確保できないとの理由で8月末まで自宅休業とする旨通告し、同日付で原告を解雇した。
原告は、被告の違法行為により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、慰謝料400万円の外、住居の入退去費用など、合計440万5565円の損害賠償を請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告に対し、217万2800円及びこれに対する平成19年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件解雇の不法行為性
原告が相当長期間にわたり本件業務に従事することは、その当初から予定されていたこと、原告の仕事ぶりにつき苦情があったり、原告に対し注意や指導がされたことはなかったこと、5月中旬の時点でも、原告が本件業務に引き続き従事することは、被告の希望する契約形態であれば可能であったこと、しかるに、被告は原告らが被告の希望する契約形態によることを拒否し、愛知労働局に行政指導を申し入れた直後の6月6日に、ITサービスと何ら交渉を持たないまま原告に対し本件業務の打切りを通告したこと、また、同局から本件指導を受けた直後の同月21日には、同局に対し、原告を常用雇用者として21日以降も雇用を継続する旨報告しながら、原告に対しては、待機期間中の賃金は6割支給とし、また解雇予告手当を支払うので退職するよう促したこと、7月28日には、原告に対し、8月末まで自宅休業とした後は雇用契約を終了させる旨通告したことの事実が認められる。
このような事実からすると、被告は、原告が本件組合とともに、偽装請負を解消し、適法な労働者派遣を行うよう要求し、愛知労働局にその旨の行政指導を求めたことを嫌悪して、原告に対し、本件業務から排除するだけでなく、解雇という不利益な処分を行ったものと推認することができる。
被告は、本件指導を受けた以上、ITサービスに対し、速やかに労働者派遣契約の締結を求めて直接の交渉をしてしかるべきであるにもかかわらず、本件業務終了後の7月6日まで直接交渉をしなかったというのであるから、むしろ被告の意思で取引を求めなかったと解するのが相当である。また、被告は、本件業務終了後、原告の派遣先を探す努力をしたが見つけられず、原告を解雇せざるを得なかったとも主張するが、四日市市で本件業務を問題なく遂行していた原告に対し、1社の派遣先も見つけられないとは考えられない。更に被告は、積極的に解雇したわけではないから、報復ではなく、原告も被告で稼働する意思はなかったなどとも主張するが、事実経過に照らして採用できない。
以上のとおりであって、本件解雇は、違法な目的に基づいて(労働基準法104条2項及び労働組合法7条1号にも該当する)、故意に、本来解雇する理由のない原告に解雇という不利益を与えたものであるから、原告に対する不法行為となる。
2 本件解雇による損害の発生、因果関係及び損害額
本件業務は、実態は労働者派遣であるにもかかわらず、労働者派遣法の規制を免れようとするいわゆる偽装請負である点でも、また、原告に対する指揮命令をする者と原告を雇用する被告との間に多数の業者が介在する違法な多重派遣の形態である点でも違法であること、本件解雇は、このような違法状態を改善するため、法律上の権利として保護された労働組合活動や監督機関への申告を行った者を企業から排除するという強度の反社会的な行為であること、原告自身が本件解雇につき法的決着を付けた上で働きたいという個人的な意向を有していたことによる面があるものの、原告は本件解雇後、平成20年4月当時まで定職に就いていないこと、その他一切の事情を考慮すると、本件解雇により原告が被った精神的苦痛を慰謝するには200万円が相当である。
3 賃金請求
常用型の派遣労働者の場合、使用者は、派遣先の業務が打ち切られても雇用を継続する義務があり、特に本件の被告は、本件業務の受注形態が違法なものであることを知りながら、原告をこれに従事させたのであるから、その違法な状態を正さなければならなくなった場合を想定して原告の雇用確保の措置を講じておくべきである。そして、本件業務は4ヶ月余りも前からその違法性を指摘され、是正を求められていたのであるから、雇用確保の措置を講じる余裕は充分にあったというべきである。したがって、被告が本件業務に係る契約を継続できなかった結果として原告を休業せざるを得なかったとはいえず、債権者である被告の受領拒否により労務提供ができなかったに過ぎない。よって、原告の賃金請求には理由がある。 - 適用法規・条文
- 民法536条2項、
労働基準法104条2項、労働組合法7条 - 収録文献(出典)
- 労働判例965号85頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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