判例データベース

学校法人R女学院雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
学校法人R女学院雇止事件
事件番号
東京地裁 - 平成19年(ワ)第27403号
当事者
原告 個人 1名
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年12月25日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 原告は、A社との間で、平成13年6月22日、派遣先をR女学院(被告)短大、派遣期間を同月29日から同年9月30日までとする雇用契約を締結し、派遣労働者として平成13年6月29日から平成16年5月31日まで、同短大総務課において業務に従事していた女性である。原告は、被告による直接雇用を希望して、被告と雇用期間を1年とする嘱託雇用契約を締結し、平成16年6月1日から被告の嘱託職員として勤務していた。

 被告では、平成17年12月12日、人事委員会において、現状の嘱託職員の勤務形態・業務内容が本務職員と同様になっており、3年を超えて雇用する嘱託職員を雇止めした場合は不当解雇と解釈されるとして、その危険を回避するため3年で雇止めとし、4年目以降も雇用する場合は労働時間短縮等により本務職員との差異を明確にすべきであるとの意見が出され、「3年を超えて継続雇用を希望する有能な人材については、勤務形態を変更して継続雇用する。更新の必要のない場合には、3年で雇止めする」との決定がなされ、被告は、平成18年4月19日、この決定につき嘱託職員に対し簡単な説明をした。

 原告との平成18年6月1日から平成19年5月31日までの嘱託雇用契約(本件契約)書には、更新の条件として「契約満了の際に更新の可否を判断する」旨が、また更新の判断基準として「業績評価の結果、契約期間満了時の業務量及び人事配置状況により判断する」旨が記載されているのみであった。しかし、被告は、原告の就業状況には何ら問題はなかったが、原告は期間満了により雇用期間が満3年になり、雇用継続期間の上限に当たることから、原告の雇用契約を更新しないこととし、平成19年2月13日、被告事務局長は原告に対し、同年5月31日をもって嘱託雇用契約を終了し、同年6月1日以降については更新しない旨通知し、同日以降の原告の就労を拒否した。
 原告は、被告との間の雇用契約は、期間の定めのない雇用契約と異ならないか、少なくとも本件雇用契約が継続されることに対する期待利益があったとして、本件雇止めの無効を主張した外、本務職員と同等以上の業務に従事しながら著しく低い賃金しか支給されなかったことは、労働基準法3条に違反する不法行為に当たるとして、本務職員の賃金との差額に当たる598万2301円の支払いを請求した。
主文
1 原告が被告に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告に対し、金493万4050円及び内金138万0350円に対する平成19年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告は、原告に対し、平成20年11月1日から本判決が確定する日まで、

(1)毎月20日限り、各金29万0600円

(2)毎月6月20日及び12月5日限り、各金21万7950円を支払え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用は、これを2分し、その1を被告の、その余を原告の負担とする。
6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 雇用契約上の地位確認及び賃金支払い請求について

 原告と被告との雇用契約は1年を雇用期間とする有期雇用契約であり、これが2回更新され、いずれも1年を雇用期間とする有期雇用契約が締結されたに留まっているから、その更新が多数回にわたって反覆継続されたものと評価することはできない。この点原告は、被告とA社との間の労働者派遣契約及びA社と原告との間の派遣労働契約がいずれも違法であるばかりか、被告は原告がA社の派遣労働者であった間、原告に対し直接指揮し、原告の就業条件を決定していたから、原告と被告との関係は実質的に雇用関係に等しい状態となっており、原告と被告との雇用期間は当該期間を含めて判断すべきであると主張する。しかしながら、仮に原告が主張するように労働者派遣法に違反する事実があったとしても、当該事実をもって原告と被告との間に実質的に雇用関係と等しい状態が生じていたと直ちに認めることはできない。また、各更新に当たっては、原告と被告との間で更新後の契約内容が吟味されと認められ、嘱託雇用契約の更新手続きが形骸化し、形式的なものに過ぎなかったということはできない。更に、最初に嘱託雇用契約を締結した平成16年6月1日時点で被告に在籍した原告を除く嘱託職員5名の雇用期間は、その時点ではいずれも2年以内であり、平成18年6月1日時点でみても、雇用期間が3年から4年までの嘱託職員が3名、その余はいずれも2年以内であったから、被告において、嘱託職員について期間の定めがないものと同様の取扱いがされていたという実態も認められない。以上によれば、原告と被告との間の嘱託雇用契約が実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状態となっているということはできない。

 本件嘱託雇用契約は、臨時の需要に対応した一時的なものではなく、もともと更新が予定されていたほか、担当業務は短大総務課の恒常的な事務であり、嘱託雇用契約を締結するに際し、更新の上限に関する説明をされたことがなかったのであるから、当該嘱託雇用契約がある程度更新されると原告が期待することは自然である。更に、1回目の更新で締結された嘱託雇用契約書には、「その後の更新については、契約期間満了時の業務量及び業務の進捗状況により判断する」「原告の勤務成績・態度により判断する」と明示されていたのであるから、原告と被告との間では、複数回の更新があり得ること、その更新が専ら業務量の推移と原告の勤務態度とによって判断されるという合意があったということができる。そうすると、被告における嘱託職員の制度が短期雇用のためのものであること、嘱託職員の雇用期間の状況を考慮しても、原告において、短大総務課の業務が減少したり、自らの勤務態度に問題がある等の事情がない限り、嘱託雇用解約の締結から3年が経過した後も、本件雇用契約がなお数回にわたって更新されるという期待利益は合理的なものであるといわなければならない。

 もっとも、原告は、嘱託職員契約の2回目の更新に先立つ説明会において、事務局長から契約は最大3年とする旨説明を受けているが、同局長はこれに続けて、被告が継続雇用を希望する場合は4年目以降も更新することもある旨説明もしており、しかも嘱託職員に対し書面を交付したり、補足説明をすることもないままペーパーを淡々と読み上げたに過ぎず、かかる説明を受けた原告において、その内容を的確に理解することは著しく困難であると考えられる。また、2回目の更新である本件雇用契約の締結に当たっても、事務局長等から原告に対し、上記説明が重ねてされたり、特段の必要がない限り本件雇用契約を更新しないと述べられたこともない。したがって、原告が既に有していた本件雇用契約の更新に対する合理的な期待利益が上記説明を受けたこと等により消滅等したということはできず、被告による上記取扱いを前提として本件雇用契約が締結されたということもできない。そうすると、原告には、本件雇用契約が締結された時点において、本件雇用契約がなお数回にわたって継続されることに対する合理的な期待利益があるといわなければならず、本件雇止めについては、解雇権濫用法理の適用がある。

 被告は、原告の就業状況には何ら問題がなかったものの、(1)本件雇用契約の満了時に嘱託雇用契約が3年となり、雇用継続期間の上限に当たることになること、(2)原告が担当していた業務を経理課の本務職員Cに担当させると、短大総務課で原告が担当すべき業務がなくなることから、原告を雇止めとしたものである。しかしながら、(1)については、嘱託職員の雇用継続期間の上限を3年とする方針を理由として雇止めとするためには、当該方針が採用された時点で既にこれを超える継続雇用に対する合理的な期待利益を有していた嘱託職員に対しては、当該方針を的確に認識させ、その納得を得る必要があるといわなければならない。ところが、原告は、当該方針が採用され、その説明を受けた時点で既にこれを超える継続雇用に対する合理的な期待利益を有していたところ、当該方針の内容を理解し、納得していなかったことは前記のとおりである。このような原告に対し、当該方針を形式的に適用して一方的に雇止めとすることは、原告の継続雇用に対する期待利益を徒らに侵害するものであって許されないから、本件雇止めの(1)の理由は客観的に合理的なものではないというべきである。

 原告が担当していた業務を経理課のCに担当させること自体は、被告の適切な裁量に委ねられるべき人事に関する判断であるが、人事配置の変更の結果として原告を雇止めとするためには、当該雇止めを正当化することができるに足る人事配置の変更の必要性が求められるというべきである。しかるに、本件雇止め当時、被告全体又は短大総務課の業務を適切かつ円滑な遂行上、原告を雇止めしてまでその担当業務をCに担当させなければならない必要があったと認めるに足りる証拠はない。更に、原告が担当していた業務をCに担当させるのであれば、短大総務課内での担当業務の変更のほか、例えば、原告に対し、経理課の業務を担当する嘱託契約の締結を打診する等の手続きが予めされるべきであり、これらの手続きを経ないまま漫然と原告を雇止めとすることが社会通念上相当であるということもできない。そうすると、本件雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められないから無効である。
 以上によれば、原告と被告との間には、本件雇止め後も本件雇用契約と同内容の雇用契約が存在することとなるから、原告は被告に対し、現に存する当該雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めることができるとともに、当該雇用契約に基づく本給及び期末手当の支払いを求めることができる。もっとも、原告は平成20年6月から他社で週に3日就労し、1日当たり1万円の収入を得ているから、同月から同年10月まで合計66万円の収入を得たものと推認される。その額は当該期間の原告の平均賃金の4割を僅かに超えるが、一方原告は、当該期間中に平均賃金の算定の基礎とならない期末手当21万7950円を得ることになるから、結局、当該収入66万円の全てを控除することが相当である。
適用法規・条文
労働基準法3条、12条、26条
収録文献(出典)
労働判例981号63頁
その他特記事項
本件は控訴された。