判例データベース
地公災基金大阪市支部長(市立図書館)電話交換手頸肩腕症候群控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 地公災基金大阪市支部長(市立図書館)電話交換手頸肩腕症候群控訴事件
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成元年(行コ)第12号
- 当事者
- 控訴人地方公務員災害補償基金大阪市支部長
被控訴人個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1991年05月08日
- 判決決定区分
- 控訴棄却
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審原告)は、昭和42年7月に電話交換手として大阪市に採用され、同市立中央図書館において電話交換業務に従事していた女性である。被控訴人の勤務時間は9時から17時までで、2人勤務のときは1時間毎に交代していた。
被控訴人は昭和54年6月頃首筋から肩・背中にかけて硬直し、激痛が走る症状が出るに至り、急性頸椎症と診断された。更に被控訴人は、昭和55年2月頃から症状が一層悪化し、嘔吐し食欲がなく、頭痛、背中から頸にかけての硬直、腰・左腕から指先までの激しい痛み・しびれが生じ、「頸肩腕障害」の診断を受け、同年4月から翌56年8月まで欠勤及び休職をした。
被控訴人は、本症は公務上の災害であるとして、同年6月5日控訴人(第1審被告)に対して地方公務員災害補償法による認定請求をしたが、控訴人は昭和56年5月20日付けで、本症を公務外と認定する処分(本件処分)をした。被控訴人は本件処分を不服として、審査請求、更に再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
第1審では、被控訴人の業務は同僚と比較して過重とはいえないとしつつ、電話交換手の業務が過重であり、公務が相対的に有力な原因となって本症を発症させたとして、本件処分を取り消したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 控訴人は、手引及び技術基準に照らして被控訴人の発症当時の業務量は非常に少ないと主張するが、被控訴人の業務量が他の同種の労働者と比較して非常に少ないと認めるに足りる証拠はない。なるほど、右手引及び技術基準には、最繁時1時間中に交換作業のために動作した時間の割合を動作率としこの標準が75%であり、また同時間中に取り扱う通話件数を通話取扱件数として通常100件程度までであるとの記載がある。しかしながら、右動作率は、現実の交換業務における通常の運用実態の平均値を示すものではなく、1人の交換取扱者が1時間内に取り扱うことのできる最大呼数の意味であると認められ、実測動作率75%を上回ると交換座席の増設等の対策が必要とされており、75%に達しなかったからといってその業務量が非常に少ないとはいえないものである。また、右通話取扱件数についても、手数時間の長短の影響を受けるので標準値はないと手引に記載されているように、右動作率を前提として1件当たりの手数時間を23秒(着信の場合)等として、業務に支障を生じさせることなく交換取扱者が1時間以内に取り扱うことのできる最大数の意味であると解せられる。そして、被控訴人と同じ仕事に従事している同僚は1人に過ぎず、また右手引及び技術基準以外に、他の電話交換手一般の交換業務における通常の運用実態を明らかにする確たる証拠はないので、被控訴人の業務量が他の同種の労働者と比較して非常に少ないと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
一人勤務は昭和50年5月からの「特勤体制」実施により従来に比べて大幅に増えたこと、1時間の昼休みを除き、3ないし4時間の連続作業を含む1日計7時間の業務を余儀なくされていたことが認められ、更に昭和55年8月15日から一人勤務のときも、1時間毎に1時間の休憩が取れるようになったことが認められるが、前記手引は交換手の一連の作業時間について60分から90分程度を相当として休憩交替要員を置くべきことを当然の前提としていることが認められるのであり、これらの事情を総合すれば、本症発症までの被控訴人の一人勤務は、かなり過重であったと認めることができる。
なお、控訴人は、昭和55年5月23日から7月8日までの間で、定例的に一人勤務となった日曜日、月曜日においても、1時間当たりの平均通話取扱件数は他の曜日に比べて非常に少ないので、被控訴人の一人勤務の業務は過重とはいえない旨主張する。しかしながら、電話交換手の業務の有害性は、上肢の動的及び静的筋労作によるものに加えて、作業時間中は通話が入っていないときにも常に一定の拘束された姿勢を保持し、不自然な待機の状態を余儀なくされるだけでなく、利用者と顔を合わせることなく正確かつ迅速な応答が要求されることによる強い精神的緊張、負担からもたらされるものも多いことが認められるし、また、被控訴人の業務量には、日により又は時間により相当程度の波があることが窺われる上、被控訴人の一人勤務の日は日曜日及び月曜日よりも他の曜日の方が多いことが認められるのであって、労働負荷の有害性等をも併せ考えるならば、被控訴人の従事していた業務に内在する危険性を否定することはできず、控訴人の主張は採用できない。
被控訴人の本症は、被控訴人の素因との関連性を全く否定することはできないけれども、被控訴人の従事していた公務に起因して発症したものと解するのが相当である。即ち、被控訴人の従事していた公務をその実態に即して考察すれば、本症発症との関連において右公務には医学経験則上納得し得るに足りる過重性及び労働負荷の有害性が認められ、また被控訴人が当該公務に従事していなくても本症は発症していたとは認められず、むしろこれに従事していなければ本症に罹患していなかった高度の蓋然性が存する。してみると被控訴人の従事していた公務が唯一の原因であったと認めることはできないとしても、右公務が少なくとも相対的に有力な原因になって本症が発症したものと認めることができる。
以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとする。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法26条、28条、45条
- 収録文献(出典)
- 労働判例606号78頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 − 昭和59年(行ウ)第110号 | 認容(控訴) | 1989年03月27日 |
大阪高裁 − 平成元年(行コ)第12号 | 控訴棄却 | 1991年05月08日 |