判例データベース
向島労基署長(W工業)急性心臓死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 向島労基署長(W工業)急性心臓死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 東京高裁 − 昭和62年(行コ)第82号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 向島労働基準監督署長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1991年02月04日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- M(昭和8年生)は、W工業に雇用され、病院宿舎建築工事現場にてモルタル塗り作業に従事していたが、昭和47年7月7日昼頃、作業現場で倒れ死亡した。
Mの妻である控訴人(第1審原告)は、Mの死亡は業務上の事由によるものであるとして、被控訴人(第1審被告)に対し、労災保険法に基づく遺族補償年金給付及び葬祭料の支給を請求したところ、被控訴人はMの死亡は業務上の事由によるものではないとして、これらを支給しない旨の決定(本件処分)をした。そこで控訴人は、本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
第1審では、Mの基礎疾病の自然増悪が限界に達して発症したもので、業務に起因するものとは認められないとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。 - 主文
- 原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人に対して昭和47年10月31日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。
訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 1 基礎疾病が存在する場合の業務起因性の判断基準
Mは冠状動脈硬化症に起因する心肥大という基礎疾病を有しており、その増悪によって心停止を起こして死亡したわけであるが、このように労働者があらかじめ有していた基礎疾病などの内因が原因となって死亡した場合であっても、当該業務の遂行が当該労働者にとって精神的・肉体的に過重負荷となり、右基礎疾病をその自然的経過を超えて増悪させてその死亡時期を早める等、それが基礎疾病と共働原因となって死の結果を招いたと認められる場合には、特段の事情がない限り、右死亡は業務上の死亡であると解するのが相当である。
2 業務起因性の存否についての判断
Mはあらかじめ冠状動脈硬化症に起因する心肥大という基礎疾病を有していたが、右冠状動脈硬化症、心肥大の程度は必ずしもそれだけではMを死に至らせるほど重篤なものではなかったところ、作業環境の特殊性から本件作業形態自体がMにとって過重なものとなり、本件作業のうちには重労働に属するものも多く、このような労働の反覆による疲労(精神的・肉体的負荷)が徐々に蓄積され、これに就労期間中の高温気象が加わり、右疲労が睡眠によって癒されずに累積的に蓄積し、死亡当日までにMの基礎疾病は増悪し易い状態になっており、こうした中で、死亡当時、真夏日に近い高温気象の下で肉体的負荷を伴う作業を午前中に仕上げるために通常より急いで行ったため、右基礎疾病がその自然的経過を超えて増悪し、Mはこれによって心停止を起こして死亡したものと推認するのが相当である。そうだとすれば、経験則上、Mの死亡は、基礎疾病である冠状動脈硬化症、心肥大が本件作業に伴う前記のような負荷によって自然的経過を超えて増悪し、基礎疾病と右業務が共働原因となって発生したものというべきであるから、Mの死亡については業務起因性を肯定するのが相当である。 - 適用法規・条文
- 労災保険法12条の8第2項、16条の2、17条
- 収録文献(出典)
- 労働判例591号76頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 昭和54年(行ウ)第78号 | 棄却(控訴) | 1987年09月10日 |
東京高裁 − 昭和62年(行コ)第82号 | 原判決取消(控訴認容) | 1991年02月04日 |