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仙台労基署長(M建設)くも膜下出血控訴事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
仙台労基署長(M建設)くも膜下出血控訴事件【過労死・疾病】
事件番号
仙台高裁 − 平成元年(行コ)第12号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 仙台労働基準監督署長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1991年11月27日
判決決定区分
控訴棄却
事件の概要
 Tは、本件事故の2年ほど前からM建設に勤務し、事故以前3ヶ月間の勤務状況は一般の労働者よりも労働日数がかなり多かったが、残業はほとんどなかった。

昭和59年4月1日午前11時頃、Tは、同社の施工に係る民家の新築工事現場において柱立て作業に従事中、家屋の梁から落下した。Tは直ちに病院に運ばれたところ、Tの疾病は「右側頭部擦過傷、重症くも膜下出血、水頭症、前交通脳動脈瘤」であり、Tはその治療のため3回の手術受け、その後治療を続けたが、昭和60年5月14日死亡した。

 Tは、被控訴人(第1審被告)に対し、労災保険法に基づき休業補償給付の支給を請求したが、被控訴人はTの休業は業務上の事由によるとは認められないとして、これを不支給とする処分(本件処分)をした。Tは本件処分を不服として審査請求をしたが棄却され、再審査請求をしたところ死亡したため、Tの妻である控訴人(第1審原告)がこれを引き継いだが、これも棄却の裁決を受けた。控訴人は、Tのくも膜下出血は業務に起因するものであるとして、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
 第1審では、Tのくも膜下出血は業務に起因するものではないとして請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として本訴を提起した。
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
 労働者災害補償保険法1条にいう「業務上の事由による労働者の……疾病」に該当する場合及び労働基準法75条にいう「労働者が業務上……疾病にかかった場合」とは、疾病が業務に起因する場合をいい、業務と疾病との間に相当因果関係があることが必要であると解すべきである。すなわち、労働者災害補償保険法は、労働基準法に規定されている使用者の災害補償責任を担保するための制度であり、右災害補償責任については、危険責任の法理が妥当し、また労働者災害補償保険は、保険料の主たる原資が事業主の負担する保険料とされている上、責任保険としての性格を具有していることからすると、当該傷病等の発生が業務に内在ないし随伴する危険の現実化とみられるべき相当性の判断が要請されると解するのが相当である。

 Tは、他の作業員に比較して欠勤日数が少なく、休日も出勤するなど、昭和59年1月6日からの連続勤務の最澄日数が20日間に及んでいることからすると、一応肉体的な疲労の蓄積が問題となり得る。しかしながら、Tは昭和54年からこのような作業をなしてきたものであり、本件事故前3ヶ月の昭和59年1月以降の作業は従前の作業に比較し、特に負担となるものであったと認めるに足りる証拠はなく、また1ヶ月前の作業についても特に負担となるようなものであったと認めることはできない。

 Tのくも膜下出血の原因はのう状動脈瘤の破裂であり、その大きさは直径7ミリメートル、短径4ミリメートルのかなり大きなものであり、長い年月を経て形成されたものであって、寒冷、高所作業は脳動脈瘤の形成のリスクファクターではない。疲労はその蓄積が高血圧状態を招来させ、高血圧症が破裂のリスクファクターとなるという面においては関連性があると解するのが相当であるが、Tが本件事故前3ヶ月間において疲労を蓄積していたとは認めることはできない。そして、本件事故当日のTの梁の上での作業が当時のTに、身体に不調があったとしても、強度の精神的肉体的緊張を余儀なくされる業務であったと認めることもできない。
 以上によると、本件くも膜下出血の基礎疾病であるTの脳動脈瘤の発育ないし破裂は、脳動脈瘤が加齢とともに徐々に悪化し、自然発生的に増悪した可能性が大きいというべきであって、その発育ないし破裂について、業務と相当因果関係があると認めることはできないというべきである。
適用法規・条文
労災保険法14条
収録文献(出典)
労働判例632号63頁
その他特記事項