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I生協内部告発解雇等事件

事件の分類
解雇
事件名
I生協内部告発解雇等事件
事件番号
大阪地裁堺支部 - 平成12年(ワ)第377号
当事者
原告個人3名 A、B、C
被告個人2名 D、E
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2003年06月18日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告Dは、I生協において、創立時から専務理事、平成2年5月から平成9年6月に辞任するまでの間、代表権のある副理事長の地位にあった者であり、被告Eは、昭和61年5月I生協の非常勤理事に就任し、平成6年5月には代表権を持つ専務理事に就任した者である。一方、原告Aは昭和58年3月にI生協の職員となり、平成7年7月頃から役員室長となった者、原告Bは昭和56年1月にI生協の職員となり、平成8年4月から総務部次長となった者、原告Cは被告Dの誘いを受け、平成2年3月I生協の職員となり、被告Dの秘書や業務開発室長の地位にあった者である。

 原告らは、平成9年5月20日開催予定の生協総代会の直前である同月15日、総代の大半や議長、理事長ら関係者に対し、被告らによるI生協を私物化するような様々な背信行為についての内部告発文書を匿名で送付するとともに、知己の生協職員に対し、本件内部告発に同調するよう働きかけた。総代会は同月20日に行われたが、同月27日、人事担当役員は原告ら3名に対し、何ら理由も待機期間中にすべきことも示さず、無期限の出勤停止を命じた上、被告Eらは、同年6月9日、原告A及び同Bに対して弁明の機会を与えた上、翌10日、(1)資料の複写、持出し行為、(2)職場離脱行為、(3)金銭上の不正行為、(4)利益行為の享受、(5)虚偽の風説の流布を理由とし、原告Bに対し(5)を理由に、懲戒解雇の意思表示をした。また、被告Eは、同月21日、原告Cに対し、人事部付への配転を命じ、平成10年1月15日に至り、自宅待機命令後初めてレポート作成の業務命令を発した。また被告Eは、原告らについて、「I生協の破壊者」、「乗っ取りを計画」などと誹謗中傷を繰り返したほか、原告らに対し、尾行や監視などを行った。

 原告A及び同Bは、本件懲戒解雇を違法として地位確認の仮処分申請を行い、平成11年6月30日付けで認容されたことから、I生協は、原告A及び同Bに対する懲戒解雇を撤回し、同年8月18日から両名を職場復帰させた。
 原告らは、被告らによる不当な嫌がらせや解雇、配転等によって損害を受けたとして、原告A及び同Bについては500万円、原告Cについては300万円の損害賠償の支払いを請求した。
主文
1 被告らは、原告Aに対し、連帯して金150万円及びこれに対する被告Eについては平成12年4月20日から、同Dについては同月27日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告Eは、原告Aに対し、金30万円及びこれに対する平成12年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告らは、原告Bに対し、連帯して金140万円及びこれに対する被告Eについては平成12年4月20日から、同Dについては同月27日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 被告Eは、原告Bに対し、金30万円及びこれに対する平成12年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5 被告らは、原告Cに対し、連帯して金120万円及びこれに対する被告Eについては平成12年4月20日から、同Dについては同月27日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6 被告Eは、原告Cに対し、金30万円及びこれに対する平成12年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7 原告らのその余の請求を棄却する。

8 訴訟費用は、これを10分し、その4を被告Eの、その3を被告Dの、その余を厳酷らの負担とする。
9 この判決は、第1項ないし第6項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 原告A及び同Bに対する懲戒解雇の違法性等

 本件のようないわゆる内部告発においては、これが虚偽事実により占められているなど、その内容が不当である場合には、内部告発の対象となった組織体等の名誉、信用等に大きな打撃を与える危険性がある一方、これが真実を含む場合には、そうした組織体等の運営方法等の改善の契機ともなり得るものであること、内部告発を行う者の人格権ないしは人格的利益や表現の自由等との調整の必要も存することなどからすれば、内部告発の内容の根幹的部分が真実ないし真実と信じるについて相当な理由があるか、その内部告発の目的が公益性を有するか、内容自体の当該組織体等にとっての重要性、内部告発の手段・方法の相当性等を総合的に考慮して、当該内部告発が正当と認められた場合には、当該組織体等としては、内部告発者に対し、当該内部告発により、仮に名誉、信用が毀損されたとしても、これを理由として懲戒解雇をすることは許されないものと解するのが相当である。

 狭山研修寮は、実質的には少なくともその主要な一部が被告Dの私邸として計画、設計、建築されたものであること、建築後、被告Dが私邸のように利用し、利用実績をみてもほとんどが被告Dの利用であること、同寮に被告Dの私物が多数保管されていること、本件内部告発以前には被告Dが家賃等を支払っておらず、本件内部告発後に平成6年度ないし平成8年度の使用料として約890万円を支払っていることなどからすれば、真実であるか、少なくとも原告らにおいて真実と信じるについて相当な理由があるというべきである。また、被告DがS林業から本件土地を購入すると同時にI生協が研修寮の工事請負契約をS林業と締結するといういささか不自然な経緯を経ていること、本件建物の登記がなされていなかったこと、本件土地の売買においてI生協が連帯保証人になっていること、被告DがI生協から受ける地代は、本件土地に関する利息支払分及び固定資産税を控除してもなお剰余金の出る金額であったことに加え、上記のような被告Dの利用実態に鑑みれば、やはり真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。更に、研修寮における被告Dのための家事を生協役員室の女性職員に行わせていたこと、他の元女子職員について、被告Dのセクハラ行為があったとの具体的供述等があることからすると、これについても真実であると信じるにつき相当な理由があるというべきである。

 被告D等の個人的なゴルフプレーにかかる経費につき、I生協から仮払金により支出されるなど、不適切な会計処理が行われており、会員権取得に係るゴルフ場は被告D一人しか利用できず、それらのゴルフ場での費用がすべてI生協の経費として処理されているとする点についても、一部の会員権は全く職員や組合員に対して周知されておらず、ゴルフにおける渉外活動のほとんどは被告Dが関与していたこと、多額の贈答品の経費がI生協より支出され、その贈り先は判然としないこと、個人的なゴルフプレイ経費がI生協から支出されていたこと等からすれば、上記記載の根幹部分につき、原告らにおいて真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。

 (1)ハワイのコンドミニアムは2戸のうち1戸は被告Dの個人用であり、(2)その管理費用をI生協が補填し、(3)被告Dがハワイを豪遊する費用のほとんどをI生協が負担しており、随行関係者も含めると被告Dの利用が大半を占めている。そして、(1)については、職員及び組合員に対してその存在の周知が図られていなかったこと、平成8年度の利用実績は被告Dとその随行者で大半を占めていること等の事実からすると、真実であるか、少なくとも原告らにおいて真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。次に(2)については、I生協から一時的にその全額が立て替えられていたことからすれば、原告において真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。更に(3)については、その利用実態、宿泊代も役員賞与とされていたなど税務調査結果に鑑みれば、真実であるか、少なくとも原告らにおいて真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。

 I生協の所有物とは解し難い高級腕時計のオーバーホール等がI生協の経費で賄われていること、Sホスピスの使用はほとんど被告Dによるものであり、被告Dの入院に要した経費の8割程度はI生協が支出していること、同ホスピスの入院利用日数中、被告Dの入院がほとんどで、その入院経費の8割程度はI生協が支出していること、後日被告Dらが使用料として多額の金員を生協に返還していることなどからすると、被告Dの入院利用がI生協の業務上必要なものであったとは到底考え難いこと、大阪府の検査により海外出張の精算等につき不適正を指摘されていること、税務調査の結果からしても海外出張の費用が交際費とされたり、賞与と認定されたものの多額あること等からすれば、被告DによるI生協の私物化の事実は、真実か、少なくとも原告らが真実と信じるについて相当な理由があったというべきである。

被告Dは、I生協の最高責任者であるのみならず、経営の最高実力者でもあったから、I生協と自己との契約、金員支出については、全て自らの立場のみならず、I生協のために事務を処理する対場において、自らの判断と権限により行ったと解される。したがって、これらの点から、原告らが被告Dについて、背任、横領があったものと信じるについて相当の理由があったと解するべきである。なお、被告Eについても、被告Dに次ぐ高い地位にあり、被告Dに従ってI生協内部の業務を取り仕切っていたこと、被告Dの専断的な行為を少なくとも黙認していたことが窺われること等からすれば、前記被告Dの私物化に寄与し、背任、横領を共謀ないし加功したことにつき、少なくとも原告らにおいて真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。

 本件内部告発は、生協の最高実力者であった被告Dによる生協の私物化、公私混同の不正を正し、I生協を組合員の手に取り戻すべきであるものと認められること等からすれば、本件内部告発の目的は、専ら公共性の高い生協における不正の打破や運営等の改善にあったものと推認される。そうすると、本件内部告発の目的は、極めて至当なものであったと言うべきである。

 被告らが問題とする本件内部告発文書等が匿名である点については、確かに告発された側としては、一方的に被告発者が名誉や信用等に回復不可能な損害を被る危険性があることは否定できない。しかしながら、本件告発の対象や内容に照らせば、もし氏名を明らかにして告発を行えば、被告らによる弾圧や処分を受けることは容易に想像され、本件内部告発前にも被告らが批判を許さない態度を示していたことも考えると、匿名による告発もやむを得なかったと言うべきである。

次に、本件内部告発文書等が総代会の直前になって郵送されたことで、総代会が混乱する危険性があったことは否定し難いが、総代会はI生協の最高意思決定機関であるから、業務執行権を有する被告らに期待できない場合、総代会に問題提起をするのはむしろ当然であり、何ら非難すべき行為ではない。そして、最高責任者の不正を正すためには、多少の混乱は避け難いのであり、多少の混乱を伴うべきことをもってその手段、方法を不相当とはいえない。

 原告らが業務中にI生協内部の資料を、他の職員の私物からを含め無断で持ち出し、これを基に本件内部告発が行われたという点については、その相当性を欠く面があることは否定し難い。もっとも、本件内部告発に用いられた一手段が不相当であったとしても、本件内部告発全体が直ちに不相当なものになると解すべきでなく、本件内部告発の目的や、内容、手段等を総合的に判断してそれが正当かどうかを判断すべきと解される。そして、I生協が管理する多種の文書を複写して持ち出した点は、本件のような内部告発を行うためには不可欠ともいうべきである一方、持ち出した文書の財産価値自体はさほど高いものいではなく、しかも原本を取得するものではないから、生協に直ちに被害を及ぼすものではない。したがって、生協に受忍できない損害を与えるものでない限りは、本件内部告発自体を不相当とまで言えないものと解すべきである。

 以上の検討に照らし、本件内部告発の内容は、公共性の高いI生協内部における上位2人の責任者かつ実力者における不正を明らかにするものであり、I生協にとって重要なものであること、本件内部告発の内容の根幹的部分は真実ないし原告らにおいて真実と信じるにつき相当な理由があるというべきであること、本件内部告発の目的は高い公益目的に出たものであること、本件内部告発の方法も正当であり、内容は全体として不相当とはいえないこと、手段においては相当性を欠く点はあるものの、全体としてそれ程著しいものではないこと、現実に本件内部告発以後、I生協において、告発内容に関連する事項について一定程度改善がなされていることなどを総合的に考慮すると、本件内部告発は正当なものであったと認めるべきである。したがって、I生協は、本件内部告発につき、虚偽の風説を流布したなどとして、これを理由に原告A及び原告Bを懲戒解雇することは許されないものと言うべきである。

 原告Aには、文書を持ち出すなど就業規則に該当する懲戒事由が存する。また原告Bには、取引先から、その職務に関して多数回のゴルフの接待を受け、また高額の釣り道具を贈与された点で、懲戒事由が存する。しかし、原告Aの解雇事由は、正当性が認められる本件内部告発に不可欠な手段であって、実質的に見て懲戒解雇にまで値するとは解し得ないと言わなければならない。次に原告Bの解雇事由のうちゴルフ接待を受けた件は、本件内部告発とは無関係であるが、回数の多寡はあれ、他の幹部職員や理事らもそうしたゴルフ接待を受けていたことが認められること、原告Bのこうした行為により、生協に具体的な損害を与えたと認めるに足りる証拠はないこと、更に、ゴルフの接待に関し、原告Bは本件懲戒解雇に至るまでの間、1度注意を受けたことはあったが、それ以上何らの処分も受けて来なかったこと、ゴルフによる交際自体は仕事上の情報を得るために必要性もあったことからすれば、いきなり懲戒解雇というのはいささか重きに失する感がある。

 更に、本件懲戒解雇が本件内部告発から僅か20日後になされたものであり、十分かつ慎重な調査の結果の解雇とは解し難いこと、本件仮処分決定後、生協自体、理事会として、本件懲戒解雇につき原告らに謝罪していることなどからすれば、本件懲戒解雇は本件内部告発に対する報復目的によるものと認められる。そうすると、原告A及び同Bに対する本件懲戒解雇は、いずれも懲戒権の濫用であって、無効、違法であったと言うべきである。

2 被告D及び同Eが不法行為責任を負うか

 本件懲戒解雇の意思表示は、いずれも被告Eが行ったところ、本件内部告発以後における被告Eの原告らに対する対応や、本件内部告発に対する批判的な言動、更には被告E自身、本件内部告発につき悪質な組織破壊行為だと思った旨供述していること等からすれば、被告Eは本件内部告発に対する報復の意思に基づいて本件懲戒解雇を行ったものと推認するのが相当であるから、被告Eには、この点につき原告両名に対する不法行為が成立するものと言うべきである。

次に被告Dについては、臨時理事会における本件懲戒解雇に賛成する決議がなされたのも退任後のことに過ぎないが、このような場合でも、被告Eによる本件懲戒解雇の意思表示が、被告Dとの共謀ないしその行為によるものである場合には、やはり被告Dも不法行為の責めを負うべきと考えられる。被告Dの在任中におけるI生協の組織・運営における影響力には多大なものがあり、退任と同時にそれがなくなるとは解し難いこと、実際にも被告Eを通じて影響力を行使していたと推認できることから、被告Eと共謀の上、被告Eをして本件内部告発に対する報復として、本件懲戒解雇を行わせたものと認められる。よって、本件懲戒解雇につき、被告らそれぞれに原告A及び同Bに対する不法行為が成立し、それらは共同不法行為になる。

3 名誉毀損の成否等

 本件内部告発文書の内容が、「事実を捏造し、歪曲したものであり…」、「虚偽の事実を並べ立てる極めて卑劣な行為…」との趣旨の被告Eの発言は、原告らが外部らの者と協力して本件内部告発をなし、これについてI生協の乗っ取りを意図し、I生協に対する不当な攻撃を行ったものとの事実を摘示したものと理解される。そうすると、こうした発言は、本件内部告発は正当なものであったのに、それを不当な意図の下、不当な攻撃をしたとの事実を摘示するものであるから、本件内部告発において不正として指摘された事項の単なる否定を超え、本件内部告発の実行者である原告ら3名の名誉を毀損するものであるといえる。そうすると、上記発言を行った被告Eは、原告ら3名に対し、不法行為責任を負うというべきである。もっとも、被告Dは本件発言につき被告Eと共謀したとは認められないから、この点に関し、原告らに対する不法行為は成立しないというべきである。

 本件内部告発が、外部との連携のある組織的な乗っ取りであり、原告らが乗っ取りグループである等の部分、本件内部告発の大半が事実の捏造、歪曲であり、虚偽の事実で個人と組織の信用を著しく傷つけている等の部分が原告らの名誉を毀損することは明らかである。ところで、上記資料は理事会の作成によるものであるが、本件内部告発後、被告Eの下に理事が集結する態勢が取られていたこと、上記資料の記載内容はそれまで被告Eが各所で発言している内容と概ね同趣旨と解されること等からすれば、被告Eが上記資料の発行に積極的に関与していることは明らかであって、被告Eはこの点につき、原告ら3名に対し、不法行為の責めを負うというべきである。他方、被告Dは上記資料配付当時既に退任しており、また上記資料の発行等に関して被告Eや他の理事らと共謀したと認めるに足りる証拠はないから、この点につき原告らに対する不法行為責任は認められない。

4 原告らに対する隔離、軟禁、尾行、監視の有無

 原告Aは、平成9年5月16日、被告Eから、同日以降、それまでの勤務場所であった役員室ではなく、会議室で待機するよう命じられ、その後同月26日までの間、さしたる業務の指示もないまま待機させられていたものである。ところで、使用者は、労務指揮権に基づき、被用者に対し、勤務する地域を異にするなど被用者が特別の不利益を受けるような場合は格別、一般にその執務する場所を指定し得るものと解されるが、その権利の濫用にわたるような場合には、そうした勤務場所の指定が違法とされる場合もあり得るものと言うべきである。

 被告らは、原告らによるこれ以上の資料の持ち出しを防ぎ、更なるI生協運営の混乱を防ぐために必要な措置としてなした旨主張し、原告Aが役員室内の資料を悪用しないように役員室から離れた場所で執務させた旨述べる。そして、本件内部告発が正当なものであったとはいえ、本件内部告発後もI生協における内部告発文書等が持ち出されるおそれのある状況を放置しなければならないとは解されないこと等からすれば、被告Eが、原告Aについて、勤務場所を役員室から会議室に変更させたこと自体につき違法とまでは断じ難いというべきである。もっとも、被告Eは、原告Aに対し、平成9年5月16日から20日までの間、早くても午後11時30群頃まで、最も遅い日は翌日の午前2時頃までの間、業務の指示を与えずに待機させており、この間原告Aは、トイレや昼食にいくときに職員が同行するなど監視されていた。そして、原告Aに対しこのような待機を命ずる業務上の必要性があったとは認め難いと言うべきである。むしろ、上記待機時間やトイレ、昼食時にも監視をつけたこと、同月20日は総代会開催の日であることからすれば、深夜までの待機や監視の理由は、本件内部告発の影響拡大を恐れるところから、総代会までの間に原告Aに更なる総代会等への働きかけや、他の職員らとの連絡等をさせないためのものであったと推認され、これらの行為は違法であって、少なくとも被告Eにつき、原告Aに対する不法行為を構成するものというべきである。また、被告Dについても、本件待機等に関しては関与しているものと認められ、連日の深夜までの待機及び監視は、一連の出来事として一体のものと認められ、原告Aに著しい精神的苦痛を与えたものと捉えるのが相当であるから、被告Dも不法行為責任を免れないというべきである。

5 原告らに対する出勤停止、自宅待機命令、原告Cに対する配転命令の違法性等

(1)原告Cについて

 原告Cに対する出勤停止、自宅待機命令は、協会の運営に無用の混乱を生じないようにする必要があること、給与が全額支給されていることなどからすれば、懲戒処分というよりも業務命令によるものと解されるが、自宅待機命令等を発する相当の理由が認められないなど業務命令権の濫用と認められる場合には、当該自宅待機命令は無効、違法となり得るというべきである。

 (イ)人事担当理事は、原告Cに対する自宅待機命令等を発令する際、何らの理由も示さなかったこと、(ロ)自宅待機期間が約1年3ヶ月と長期に及んでいること、(ハ)そのうち約8ヶ月間何らの業務指示もなされなかったこと、(ニ)自宅待機期間中なされた業務指示等は必然性・計画性に乏しいこと、(ホ)本件自宅待機命令解除に際しても、内部告発防止の如き誓約書を求めていること、(ヘ)自宅待機命令と同日にされた原告A及び同Bに対する懲戒解雇は本件内部告発に対する報復目的と解されること、(ト)被告らは、本件内部告発直後には、それが原告ら3名によるものと特定していたこと、(チ)被告Eは、原告Cに対する自宅待機命令等が本件内部告発等に対する懲戒としての性質もあった旨明確に供述していること等を総合的に考慮すれば、本件自宅待機命令等は、業務上の必要性に乏しいにもかかわらず、業務命令の形式を借りて、本件内部告発に対する報復目的でなされたものと認めるのが相当である。したがって、原告Cに対する自宅待機命令等及び本件配転命令は、業務命令権を濫用したものとして無効であるとともに、正当な本件内部告発への報復目的によりなされ、原告Cの職業生活上の利益を侵害し、同人に苦痛を与えるべきものであるから、違法であって、不法行為をも構成し得ると解すべきである。

(2)原告A及び同Bについて

 原告A及び同Bに対する自宅待機命令等についても、当時既に被告らにおいて原告両名が本件内部告発の実行者と特定されていたこと、本件自宅待機命令等に引き続いて本件懲戒解雇がなされており、その目的は本件内部告発に対する報復目的であること、被告Eは原告Cに対する自宅待機命令等につき懲戒としての性質もあることを認めており、原告A及び同Bに対する自宅待機命令等も同様と解されること等からすれば、本件内部告発に対する報復目的でなされたものと解される。よって、原告A及び同Bに対する自宅待機命令等も無効であり、不法行為を構成し得るものというべきである。

6 原告らの損害

 原告らは、被告らの不法行為により、I生協の破壊者の如く扱われてI生協からの排除を図られ、原告A及び同Bは職業生活を奪われたのみならず、収入を断たれるなど生活上多大な苦痛を被ったものであり、原告Cは収入は得ていたものの、正常な職業生活を奪われ、そのような状態を長期間耐えることを余儀なくされるなど、いずれも精神的に多大の苦痛を受けたものと認められる。更に、被告Eの関与した文書配布及び発信により、繰り返し、原告らは生協の乗っ取りを図る集団とか、本件内部告発が誹謗中傷、事実の捏造で悪意に満ちたものであること等と決めつけられ、その名誉を著しく侵害された。一方、I生協との和解により、原告らに対してはI生協から一定程度の名誉回復措置が取られていること、現在は原告らはいずれもI生協の業務に復帰していること、原告A及び同Bは、本件懲戒解雇の撤回後、未払賃金の支給を受けていること等の事情もある。
 これらの諸事情を総合考慮すると、被告D及び同Eの共同不法行為により原告Aの被った損害に対する慰謝料としては、職場内での待機等、自宅待機及び懲戒解雇によるものを合わせ150万円が、同Bの被った損害に対する慰謝料としては、自宅待機及び懲戒解雇によるものを合わせて140万円が、原告Cの被った損害に対する慰謝料としては、自宅待機と本件配転命令によるものを合わせ120万円が、それぞれ相当である。また、被告Eの名誉毀損の不法行為不法行為による損害としては、原告ら各人につき、それぞれ30万円が相当である。
適用法規・条文
民法709条、719条
収録文献(出典)
労働判例855号22頁
その他特記事項
本件は控訴された。