判例データベース

地公災基金東京都支部長(M高校教諭)心臓死控訴事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金東京都支部長(M高校教諭)心臓死控訴事件【過労死・疾病】
事件番号
東京高裁 − 平成3年(行コ)第47号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 地方公務員災害補償基金東京支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1993年09月30日
判決決定区分
原判決取消(控訴認容)
事件の概要
 K(昭和2年生)は、昭和32年6月16日から都立M高校に保健体育科教諭として勤務し、昭和54年、55年とも体育科の主任、PTA体育部副部長、野球部顧問を務め、昭和54年度の校務分掌は庶務部であって昭和55年3月8日の卒業式の企画、運営に携わり、また昭和55年度の校務分掌は保健部であって、生徒の健康管理、校内の衛生・美化、清掃指導を行った。

 同年4月16日、健康診断検査の第1日目、Kは午前9時頃階段で気分が悪くなり、救急車で病院に搬送され、心筋梗塞の疑いがあると診断されて入院を勧められたが、Kは職場に戻って健康診断の業務を続けた。翌17日、Kは病院で検査を受けた後学校に戻ったところ、1時間程して気分が悪くなり、介抱を受けた後救急車が呼ばれて医者や救急隊の処置を受けたが、午後4時35分死亡した。

 Kは、昭和53年度の血圧が142106(軽度高血圧)、高脂血症、やや肥満であり、糖尿病の疑いがあり、若い頃から死亡の1ヶ月前まで喫煙を継続していたほか、昭和51年度、52年度にいずれも軽度心筋梗塞、昭和53年度に陳旧性心筋梗塞疑いと診断されていた。

 Kの妻である控訴人(第1審原告)は、Kの死亡は公務に起因するものであるとして、地方公務員災害補償法に基づく公務災害認定請求を行ったところ、被控訴人(第1審被告)は、Kの死亡は公務上の災害とは認められないとの決定(本件処分)をした。控訴人は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
 第1審では、公務とKの疾患には相当因果関係が認められないとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し地方公務員災害補償法に基づき昭和59年2月13日付けでなした公務外認定処分を取り消す。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
判決要旨
 Kは、4月16日労作型の不安定狭心症を発症したため、入院の上、適切な治療と安静を必要とし、不用意な運動負荷をかけると心筋梗塞に進行する危険の高い状況にあったにもかかわらず、帰校後あえて身体検査等の公務に従事せざるを得なかったものであり、翌日も予算請求の締切が迫っていたこと等の事情から病因での検査後も公務に従事せざるを得なかったこと、しかもKが従事した右発作後の公務は、右のような身体的状況にあったKにとって、当日の気温が寒冷であったことも相まって、極めて過重な精神的・肉体的緊張をもたらしたものであったこと、Kが、狭心症の発作後、入院の上、適切な治療を受けて安静にしておれば、心筋梗塞を発症し死亡する可能性は極めて少なかったこと、翌17日の病因での受診までの間の症状の悪化は、狭心症の発症後、安静にすることなく右のような公務を継続したためであることが認められ、右事実からすると、Kの心筋梗塞とこれによる死亡は、4月16日に発症した狭心症が公務に伴う負荷によって自然的経過を超えて急激に増悪し、狭心症と右公務が共働原因となって発生したものというべきであるから、Kの死亡と公務との間に相当因果関係を認めるのが相当である。
 以上のとおり、被控訴人の本件処分は違法であって、その取消を求める控訴人の本訴請求は理由がある。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法31条、42条、45条
収録文献(出典)
労働判例644号30頁
その他特記事項
本件は上告された。