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地公災基金静岡県支部長(H市清掃業務員)脳卒中死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金静岡県支部長(H市清掃業務員)脳卒中死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成4年(行コ)第30号
- 当事者
- 控訴人地方公務員災害補償基金静岡県支部長
被控訴人個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1994年02月23日
- 判決決定区分
- 控訴棄却
- 事件の概要
- S(大正4年生)は、昭和36年以来H市の清掃乗務員として勤務し、ロータリー車によるゴミ収集作業に従事していた。
昭和52年6月25日、大雨の中、Sは雨合羽及び長靴を着用してロータリー車に乗って事業所を出発したところ、対向車線上で前輪を側溝に落として難渋しているタクシーを発見した。Sらはタクシーの脱出を助勢し、これによりタクシーは脱出した。その後Sはロータリー車に乗り、午前8時50分頃最初のゴミ集積所で下車したところ、顔面を蒼白にして震えながら車体に寄りかかった。Sは救急車で病院に搬送されたが、午前9時35分不整脈により死亡した。
Sの妻である被控訴人(第1審原告)は、Sは業務による過重負荷を受けて死亡したものであるとして、地方公務員災害補償法に基づき、公務災害の認定を請求したが、控訴人(第1審被告)は公務外とする処分(本件処分)をしたため、被控訴人は本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
第1審では、Sの死亡に公務起因性を認め、本件処分を取り消したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 被控訴人は、本件処分の取消しを求める被控訴人において本件死亡が公務に起因していることの立証責任を負うものではなく、本件処分をした控訴人において本件死亡が公務に起因していないことの立証責任を負う旨主張する。しかし、本件死亡が公務に起因して発生したことの立証責任は被控訴人が負うというべきであり、この点についての被控訴人の主張は採用できない。
本件死亡が公務上災害と認定されるためには、本件死亡が公務の遂行中に発生したこと及び本件死亡と公務との間に相当因果関係が存することが必要であるというべきである。被控訴人は、脳卒中死・急性心臓死等が公務上災害と認定されるためには、公務と死亡との間に合理的な関連性があれば足り、相当因果関係があることを要しない旨主張するが、このように解すると、私病による脳卒中死・急性心臓死等が無限定に公務上災害と認定されるおそれがあって妥当でなく、右主張は採用し難い。
本件死亡と公務との間に相当因果関係が存するか否かを判断するには、Sは陳旧性心筋梗塞などいくつかの既往症を有していたものの、これのみではすぐに死亡するような状況になかったものであるが、昭和52年6月20日から1対2体制の下での作業量に倍加する1対1体制の下でのゴミ作業に従事したため、陳旧性心筋梗塞が増悪し、重症心室性不整脈の発生などの心疾患を発症させる準備的状況が形成されていたところ、死亡当日には、悪環境の中で突発的に公務に準ずるタクシー助勢行為をせざるを得なかったため、高齢でかつ陳旧性心筋梗塞によって機能の低下していた心臓に極度の負荷を受け、重症心室性不整脈を発生して死亡したものであって、本件死亡と公務との間には相当因果関係が存在すると認められる。タクシー助勢行為が通常のゴミ収集作業に比べて特に過重であるとは認められないが、前記認定のような状況・条件の下においては、タクシー助勢行為が不整脈を発症させる原因となることは十分に考えられるのであって、タクシー助勢行為がゴミ収集作業に比べて過重な労働でないとの一事をもって、タクシー助勢行為と本件死亡との相当因果関係を否定することはできない。
また、タクシーの脱輪現場は、清掃車の通り道であり、脱輪したタクシーの側方を通過して通行することは可能ではあるが、右タクシーと同一方向へ進行する場合にはセンターラインを越えて対向車線にはみ出さなければならない状況であったこと等を考慮すると、右タクシーを放置しておいては清掃業務の妨げとなる事態が生じないとも限らなかったというべきであり、Sのタクシー助勢行為は清掃業務の遂行にとって有意義なものであったと認められる。のみならず、市の公務員であり、ゴミ収集車に乗車して日常的に市内を巡回している清掃業務従事職員が一般市民が突発的事故で難渋しているのに出会った際に、できるだけこれに助勢することは、清掃業務を円滑に勧めるためにも必要なことであり、一般市民からも期待されているところであって、Sのタクシー助勢行為は、これに沿った市の清掃業務従事職員として極めて自然な行為であったと認められる。そうだとすれば、Sのタクシー助勢行為は、それ自体が公務であるとはいえないまでも、公務に準じる行為と認めて差し支えないものというべきである。
以上の次第で、本件死亡と公務との間には相当因果関係が存するものであり、本件死亡は公務上災害に該当する。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条、42条、45条
- 収録文献(出典)
- 労働判例665号69頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
静岡地裁 − 昭和59年(行ウ)第7号 | 認容(控訴) | 1992年02月26日 |
東京高裁 − 平成4年(行コ)第30号 | 控訴棄却 | 1994年02月23日 |