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地公災基金岡山支部長(K市役所職員)心臓死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金岡山支部長(K市役所職員)心臓死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 広島地裁岡山支部 − 平成11年(行コ)第2号
- 当事者
- 控訴人 地方公務員災害補償基金岡山県支部長
被控訴人 個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年10月26日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(確定)
- 事件の概要
- T(昭和22年生)は、昭和47年4月にK市役所に技術職員として採用され、岡山県に出向した後、昭和62年4月1日からK市に復帰して、下水道局下水建設部建設一課係長として勤務していた。
昭和47年5月から同59年3月までの期間中におけるTの公務は特に過重なものではなかったが、Tはこの期間中、高血圧症、高尿酸血症、筋緊張性頭痛の病名で治療を受けており、血圧降下剤の投薬による継続的な治療を受けていた。
昭和59年4月から同62年3月31日までの間、Tは児島湖流域下水道工事のうち幹線管渠築造工事を担当し、残業も多く、地元住民の理解を得ることが大きな精神的負担となっており、月1、2回受診し、高血圧症等の投薬治療を受けていた。
昭和62年4月から平成元年11月まで、Tは係の事務全般の管理監督を行うほか、地元対策を含む対外的な折衝及び調整にわたる事項全てに関与し、時間外勤務は深夜休日にわたることが少なくなく、残業時間が月間150時間前後にもなった。Tの死亡前3ヶ月間においては残業時間が減少したものの、退庁時刻が午後12時になることもあった。そうした状況の中、Tは平成元年11月24日午後11時30分頃急性心筋梗塞を発症し、翌25日午前4時頃死亡した。
Tの妻である被控訴人(第1審原告)は、Tの心筋梗塞による死亡は公務上の災害に該当するとして、地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定請求を行ったところ、控訴人(第1審被告)はこれを公務外とする決定(本件処分)をした。被控訴人は本件処分を不服として審査請求、更に再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
第1審では、Tには心筋梗塞の基礎疾患があることは認めながら、長期にわたる公務の過重な負荷によって、基礎疾患を自然経過を超えて増悪させたことにより発症したものであるとして、Tの死亡と公務との間に相当因果関係を認め、本件処分を取り消したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 地方公務員災害補償法にいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく傷病に起因して死亡した場合をいい、公務と死亡との間に相当因果関係があることが必要である。そして、地方公務員災害補償制度が、公務に内在又は通常随伴する危険が現実化した場合に、これによって職員に生じた損失を補償するものであることに鑑みると、職員が基礎疾患を有しており、これが一因となって疾病が発生して死亡した場合には、公務による過重な精神的・肉体的負荷によって基礎疾患が自然経過を超えて増悪し、死亡の結果を招いたと認められるとき、換言すれば、公務が基礎疾患を自然経過を超えて増悪させ、死亡の結果を招くに足りる程度の過重負荷となっていたと認められるときに、公務に内在ないし危険が現実化したものとして相当因果関係を認めるのが相当である。
これを本件についてみるに、Tが昭和59年4月以降死亡までの5年8ヶ月間に従事した公務の内容は、技術職の職員としての専門的知識を要求される難易度の高い職務であり、更に建設一課では2年8ヶ月にわたって係長としての事務が増加し、このような状況の下でTは長期間にわたり超過勤務状態、とりわけ深夜休日に及ぶ対外的折衝調整等の精神的にも緊張を伴う仕事に従事していたのであり、死亡前3ヶ月間は従前より残業時間が減少していたものの、それでも1ヶ月平均の残業時間は53.7時間に及んでおり、このような過重な公務の長期間の継続がTにかなりの精神的・身体的負荷を与え、慢性的な疲労やストレスを蓄積させていたものと認められる。他方、Tは心筋梗塞の基礎疾患とされている高血圧症、高脂血症、高尿酸血症等により投薬治療を受けていたほか、心筋梗塞の促進因子である喫煙習慣を有していたものであるが、建設一課に勤務するようになってからは、血圧が上がり、特に死亡前3ヶ月は、最高血圧は全て160mmHgを超え、最低血圧も100mmHgを超える水準で推移し、高脂血症、高尿酸血症も改善されていなかった。
右のとおり、Tは心筋梗塞の基礎疾患とされている高血圧症、高脂血症、高尿酸血症等の基礎疾患を有していたほか、心筋梗塞の促進因子である喫煙習慣を有していたが、長期間の過重な公務が精神的、身体的にかなりの負荷となり、慢性的な疲労、ストレスを蓄積させていたのであり、Tの基礎疾患の内容、症状の推移、従事していた公務の内容、遂行状況に加えて、心筋梗塞が心臓の冠状動脈硬化によって発症するものとされていること、疲労やストレスが動脈硬化や動脈硬化の促進因子である高血圧の原因の一つとなり得るものとされていることを考慮すると、Tの心筋梗塞は、死亡前5年8ヶ月間の公務による過重な精神的、身体的負荷が基礎疾患の自然経過を超えて心筋梗塞の前駆症状である冠状動脈硬化症を増悪させた結果発症したものと認めるのが相当であって、公務と死亡との間の相当因果関係を肯定することができる。
以上のとおりであり、Tの死亡は公務に起因するものというべきであるから、これを公務外の災害とした本件処分は違法である。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条、42条、45条
- 収録文献(出典)
- 労働判例811号58頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
岡山地裁 − 平成5年(行ウ)第7号 | 判決 | 1998年12月22日 |
広島地裁岡山支部 − 平成11年(行コ)第2号 | 控訴棄却(確定) | 2000年10月26日 |