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地公災基金群馬県支部長(K市消防職員)心臓死事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金群馬県支部長(K市消防職員)心臓死事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 前橋地裁 − 平成8年(行ウ)第5号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金群馬県支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年01月28日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- K(昭和26年生)は、昭和51年4月にK市消防吏員として採用され、昭和57年レスキュー隊の救助隊員となり、昭和62年4月に消防士長、平成元年4月からは第2中隊特別救助隊長を務め、平成3年8月27日から10月27日まで消防大学校(救助科)に入校し、特別救助技術等についての研修を受けた。
Kは平成4年4月に南分署総務係で施設担当の主任士長となり、消防施設の管理などの事務職を担当したほか、救急隊員も兼務し、救急事故発生時には救急車に乗車しての救急出動や、火災出動の際にはポンプ車の運転を担当していた。平成4年1月1日から5月13日までのKの出勤状況は、全134日のうち、非出勤日は32日で、うち2連休が12回、4連休が2回あった。また、本件発症前1ヶ月間で救急出動は12回あった。
Kは、平成4年5月13日午前2時30分頃、勤務中に仮眠していたところ、出動指令により起こされ、消防車に乗り込んだ直後全身痙攣状態になり、病院に搬送されたが、同日午前3時30分、急性心筋梗塞を発症し死亡した。
Kの妻である原告は、Kの死亡は公務上の死亡であるとして、被告に対し地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定を請求したところ、被告はこれは公務上の死亡とは認められないとの決定(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 公務起因生の要件及び判定基準
地方公務員災害補償法31条、42条の「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいうものであり、公務災害であるとするためには、右負傷又は疾病につき公務起因性が要求される。そして、地方公務員災害補償制度は、使用者の支配下で労務を提供する過程において、その業務に内在ないし随伴する危険が現実化し、被用者がそのために負傷し、又は疾病にかかった場合等に、使用者の過失の有無に関わらず、その危険が現実化したことによる被災者の損失を定型的・定率的に賠償しようとする労働者災害補償保険制度と同趣旨の制度であるから、公務と死亡との間に公務起因性があるといえるためには、公務がなければ疾病等が発症しなかったという条件関係が必要であることはもとより、負傷又は疾病と公務との間に、負傷又は疾病が公務に内在ないし通常随伴する危険の現実化であると認められる関係、すなわち相当因果関係があることが必要である。
また、右相当因果関係の評価に当たっては、公務が疾病の唯一かつ直接の原因である必要はなく、被災者に疾病の基礎疾患があり、その基礎疾患も原因となって疾病等を発症した場合も含まれると解されるが、右地方公務員災害補償制度の趣旨からすると、被災者が基礎疾患を有する場合には、当該公務が死亡の原因となった当該疾病に対して、他の原因と比較して、相対的に有力な原因となっていると認められることが必要であり、当該公務が単に疾病等発症の誘因ないしきっかけになったに過ぎない場合には、相当因果関係は認められないと解すべきである。そして、公務が相対的に有力な原因であるというためには、被災者の業務内容、業務環境、業務量などの就労状況、基礎疾患の病態、程度などから見て、公務の遂行が基礎疾患をその自然的経過を超えて増悪させたと認められる程度に過重負荷となっていることが必要というべきである。そして、右過重負荷の判断にあっては、公務に内在ないし随伴する危険の現実化によって職員が負傷し又は疾病にかかった場合の損失を定型的・定率的に賠償しようとする災害補償制度の趣旨からすれば、一般通常人を基準として判断すべきであろう。
2 Kの死亡の公務起因性
Kの虚血性心疾患ないし動脈硬化症の危険因子は、かねて高血圧(昭和63年から平成2年にかけて160〜100)、高脂血症、多量の喫煙習慣(1日40本ないし60本)、肥満(170cm、86kg)等があった上に、昭和62年頃には血液検査の結果でも精密検査を要するとされながらこれを受検せず、平成3年当時はジョギングしても顔を赤くし、肩で呼吸するほどの状況であったし、山道を登るにも何回も立ち止まって呼吸を整える必要を生じる状況であり、妻から人間ドックに入ることを勧められながら、これも受検せず、平成4年の月例訓練においても顔面蒼白となり息苦しい様子を示すなどしたものであるから、Kの動脈硬化症は相当程度進行し、心筋梗塞の発症、急死に至る高度の危険性が存在していたものと推測され、これが本件発症当時の救急出動を契機として心筋梗塞に至ったものとみることができる。そして、Kの勤務状況は、勤務日と非番日が交互にあった上に、非勤務日もあったのであるから、医師による診察を受けられない状況にあったとは考えられない。
確かに、仮眠中に救急出動すること自体は、相当程度の緊張を要し、肉体的、精神的負担を強いられるものであることは予想されるが、Kはそのような勤務を継続していたのであるから、これが過度の緊張を要するものであったとみることはできないし、本件疾病発症に至る前の勤務状況も精神的負担を強いるものであったとはいえないことも既にみたとおりである。
以上によれば、Kに発症した急性心筋梗塞は、Kの有する体質的素因の自然的増悪が有力な原因となって生じたものとみることができ、本件疾病について、公務の遂行が相対的に有力な原因であったと認めることはできず、結局、公務と本件疾病との間に相当因果関係は認められない。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法31条、42条、45条
- 収録文献(出典)
- 労働判例815号62頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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前橋地裁−平成8年(行ウ)第5号 | 棄却(控訴) | 2000年01月28日 |
東京高裁 − 平成12年(行コ)第99号 | 原判決取消(控訴認容)(上告) | 2001年08月09日 |