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兵庫(鋼材会社)派遣労働者解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
兵庫(鋼材会社)派遣労働者解雇事件
事件番号
神戸地裁 − 昭和46年(ヨ)第339号
当事者
その他債権者 個人1名
その他被申請人 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1972年08月01日
判決決定区分
認容
事件の概要
債務者会社(会社)は金属製造を業とする株式会社であり、債権者は下請業者であるM組から雑役工として会社に派遣されていた。会社は、労働力の補充については人伝に斡旋を依頼しており、かつて会社の営繕関係の下請工事をしていたMは、専ら会社の求めに応じて労働者を斡旋し、常時6ないし8名の労働者を供給していた。

会社はMから提供された債権者ら労働者につき、会社の設備、機械、資材を使用させ、直用の本工、臨時工と共同作業を行わせるなど、その生産工程に組み込み、タイムカードで出退勤を管理し、配置や時間外労働の指示も行う反面、Mは債権者らに対し指揮監督することはなかった。

債権者は昭和46年2月15日から20日まで無断欠勤したので、担当者が債権者宅に赴いたところ、債権者の妻が「恐らくやめたんと違いますか」などと言ったことなどから、会社は債権者に出勤の意思がないものとしてタイムカードを作成しなかったところ、債権者はその理由を部長らに質した。その際、部長らが債権者の無断欠勤を難詰したところ口論となり、債権者が「会社を訴えて潰してやる、部長の首をひっさらっていく」など脅迫的発言をしたことから、これが就業規則の懲戒解雇規定に抵触するとして、会社は債権者に対し懲戒解雇の意思表示をした。これに対し債権者は、本件解雇は解雇権の濫用であるとして、会社の従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めた。
主文
1 債権者が債務者会社の従業員としての地位を有することを仮に定める。
2 債務者会社は、債権者に対し昭和46年2月25日以降(但し、休日を除く。)1日3100円の割合による金員を仮に支払え。
3 申請費用は債務者会社の負担とする。
判決要旨
1 債権者と会社との間に雇用契約関係があるか

債権者とMとの間に形式的には雇用関係が締結されたと認められるが、右契約は専らMが会社に労働者を供給し(口入れ)、その賃金から中間搾取する目的のためにのみ、その手段として結ばれたものであるに過ぎず、何らの実体のないものというべきである。そして、債権者の現実の労務提供及び稼働の態様を直視すると、会社は債権者をその企業機構の一構成要素として完全にその支配下に納め、債権者は会社に対し従属関係に立つものであって、債権者が右のような事実関係のもとで日々労務を提供し、会社がこれを受領している限り、両者の間には少なくとも暗黙のうちに雇用契約関係が成立しているものと認めるのが相当である。

2 債権者を解雇したことの当否

就業規則の規定に照らし、6日間の無断欠勤のみで直ちに債権者を懲戒解雇することができないことは明らかである。次に、債権者発言は乱暴であり、いささか穏当を欠くきらいがないではないけれども、その発言に対し部長も「この馬鹿野郎、何でそんなことがお前の力でできるんや」などとやりかえし、双方ともかなり興奮し一時の感情に任せてなした口論の域を出ないものと認められる。これらの事実は一つ一つを検討しても、またこれを合わせ考えても、会社がその懲戒権を行使して排除しなければならないほどの重大な破壊行為とはとうてい認められない。また、通常解雇の意思表示も、たとえ会社が適正な労働量の維持と規律を保持し、不良労働力を排除するために解雇の自由を持つとしても、社会通念に照らし、いまだやむを得ないものとして合理的理由を持つに至るとは認められず、解雇権を濫用したものというべきである。してみると、いずれにしても解雇の意思表示は無効である。
適用法規・条文
職業安定法44条、労働基準法6条
収録文献(出典)
労働判例161号30頁
その他特記事項