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青森(放送会社)解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 青森(放送会社)解雇事件
- 事件番号
- 青森地裁 − 昭和51年(ヨ)第114号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1978年02月14日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は放送法上の一般放送事業者であり、債権者は昭和50年5月6日以降同年11月28日まで、債務者の部屋においてテレビ用コマーシャルフィルムの編集業務に従事してきた女性である。またT社は、建物等の総合管理、建物の衛生清掃用機械器具の販売等を業とする会社であり、本件のようなフィルム編集等の作業については扱ったことがなく、そのための従業員も擁していなかった。
T社は、女性社員3名を債務者会社に派遣し、債務者会社の施設、器具等を使用してフィルム編集作業に当たらせ、毎月一定額を受領するとする本件請負契約を債務者会社と締結し、同年2月T社の名において女子編集要員を募集し、債権者がこれに応募した。債権者は、同年5月4日、T社で面接を受けて労働内容、条件等について説明を受けた後、債務者会社の庶務部長らと面接し、同月6日から勤務を開始した。
債権者らは債務者会社の部屋で、債務者会社所有の器具を用い、債務者会社部長の指揮監督の下で、債務者会社の正社員と混じって作業しており、始業・終業時刻、休憩時間等は債務者会社の職務規律に従っていた。一方賃金については、T社が社会保険料、税金等を控除した上でこれを支給していた。
同年11月、公共職業安定所は債権者らの派遣につき、職業安定法44条違反の疑いで債務者会社及びT社に対し是正勧告をしたことから、債務者会社はT社と協議の上、同月28日、本件請負契約を解除し、債権者らの就労を拒否した。またT社は、同年12月13日、債権者ら派遣作業員に対し清掃要員として他の企業等の建物において就労するよう配転命令を出したが、債権者らがいずれも拒否したことから、昭和51年1月8日付けで債権者らを解雇した。
これに対し債権者は、実質的な使用従属関係は債務者会社との間に成立しており、債務者会社とT社との間の本件請負契約は職業安定法44条に違反して無効であるから、債権者が現に就労したことにより暗黙のうちに債権者と債務者会社との間において労働契約が直立したと主張した。その上で、本件請負契約の解除は労働契約関係に影響を及ぼすものではなく、債務者会社による就労拒否は不当な解雇に当たるとして、債務者会社の従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めて仮処分を申請した。 - 主文
- 1 債権者が債務者の授業員としての地位にあることを仮に求める。
2 債務者は債権者に対し、金92万4000円及び昭和52年11月1日以降本案訴訟の第1審判決言渡にいたるまで毎月末日限り金4万2000円を仮に支払え。
3 債権者のその余の申請を却下する。
4 申請費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 債務者会社(会社)と債権者との間に明示の労働契約が締結されたとは認めることはできない。しかし、債権者の提供する労務は、会社にとってはその営む放送事業の遂行上不可欠なものとして恒常的に確保する必要があり、また右労務の性質上、その企業組織に有機的に組み入れられて運用する必要があるものである。そして現に債権者は、会社の構内施設においてその所有の設備資材等の一部を使用し、かつ出退勤、休憩時間、休暇等は会社の職場規律に従い、会社職制の指揮監督の下に拘束を受けて、会社に対し労務を提供し、会社がこれを受領していて、両者間には使用従属関係を本体とする事実上の労働関係が成立していること、債権者は会社に向けられた労務の提供に対し賃金を支払われていたことが認められる。以上のような事実関係の下においては、なお社会通念上債権者と会社との間に労働契約が成立することを妨げると認められる特段の事情がない限り、両者間には少なくとも暗黙のうちに意思の合致による労働契約が成立しているものと一応認むべきである。
ところで、会社とT社との間に、T社がその名で募集採用する労働者を会社に派遣させて本件フィルム編集作業に従事させ、これについて会社はT社に対価を支払う旨の合意が成立し、債権者はT社の従業員たる身分を有するものとして賃金もT社から支給されていたことが認められる。しかしながら、T社は独立した企業体として活動しているが、その営業目的は専ら建物等の総合委託管理業務、建物の衛生、清掃用機械器具等の販売であって、本件のごときフィルム編集業務が営業目的に含まれていないのはもちろん、従来これを扱った経験もないのであるから、T社は本件編集フィルムの編集業務に関しては、もともと業務を遂行し得る能力を全く備えていなかったといえるし、他方本件フィルム編集作業はその性質上会社の企業組織に組み入れられて遂行される必要があったのである。
したがって、いかなる質の労働者を何人募集採用するかの点に関しても、本件フィルム編集作業内容が機械的単純であったことから、会社としては採用すべき労働者の質に細かく配慮を尽くす必要がなく、この点については相当程度T社に委ねたところがあったとはいえ、T社が全く独自に決定し得る立場にあったとは認め難く、募集広告に記載された基本的事項については会社の意向を受けていたものと推認されるし、債権者が採用の際会社庶務部長らから面接されたことは、採否についての実質上の権能を会社が保有していたことを窺わせるものである。そして債権者は形式上T社の従業員とされていたが、債権者がT社の指揮監督の下に拘束を受けて就労する状態は全くなかったものであり、T社が債権者に対し賃金を支給していたが、賃金の直接の支給者が誰であったかということはいかようにも操作し偽装し得ることであるから、労働契約における使用者が誰かを考慮するに当たって、賃金の直接の支給者をさまで重要視することはできない。
またT社が会社から支払われる報酬額は仕事の多少にかかわりなく毎月定額であり、この点からしてもT社がその計算によって業務活動をしたことに対する報酬としての実質は希薄であったといえる。加えて、債権者は本件フィルム編集という職種で労働契約の締結に応じたものであり、派遣元であるT社には同種の職場はないから、会社から就労を拒否されれば、結局解雇同然の結果を余儀なくされるに至るものである。
以上の事実を総合すると、会社とT社との間の本件請負契約やこれに基づき債権者がT社の従業員として派遣されるという形式は名目に過ぎず、かかる形式が存するからといって、会社と債権者との労働契約の成立を覆すことはできない。かえって、以上の事実に即してみると、本件フィルム編集作業員の派遣におけるT社の役割は、専ら会社のために、かつこれに代わって労働者を募集し、これに対して賃金を支払うところにあったに過ぎず、実質的にはT社は会社の労働者募集及び賃金支払いの代行機関と同視し得るような立場にあったというべきであり、したがって、当初から会社としてはT社をして派遣させた労働者を自ら直接支配し使用してその労務の提供を受ける意思を有し、かつこれに対しT社を介して賃金を支払う意思であり、また債権者としても、会社の指揮監督の下に拘束を受けて労務を提供し、右労務の対価として賃金を受け取る意思であったと認めるべきであり、右のような両当事者の意思の合致がある以上労働契約の成立を肯定すべきである。
会社が、昭和50年11月28日、T社との間の請負契約を合意解除し、債権者に対して以後の就労を拒否したところ、右措置は違法の疑いのあるT社との請負契約名下の作業員派遣に関する契約を合意の上解除して法律関係の是正を図ったものと認められる。しかし、右請負契約の解除は債権者と会社との間に成立した労働契約関係とは別個無関係であるから、これに何ら消長を及ぼすものではない。また、事実上の就労拒否が債権者との労働契約の解除すなわち解雇の意思表示と認められないではないにしても、債権者との労働契約自体は何ら職業安定法、労働基準法の諸規定に反するものではなく、また職業安定法違反の状態を是正するのにかえって労働者に不利益にその地位の喪失を認めるのは同法の趣旨にもとるものであるから、違法状態の是正ということは解雇の正当な理由となるものではなく、結局解雇権の濫用として無効である。 - 適用法規・条文
- 職業安定法44条
- 収録文献(出典)
- 労働判例292号24頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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