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航空機整備員派遣労働者解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
航空機整備員派遣労働者解雇事件
事件番号
東京地裁 − 昭和52年(ヨ)第2354号
当事者
その他申請人 個人4名 A、B、C、D
その他被申請人 K社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1979年11月29日
判決決定区分
却下
事件の概要
申請人Aは、昭和51年7月1日、被申請人の正規従業員になった者、申請人Bは昭和46年3月5日から、申請人Cは昭和48年3月26日から、申請人Dは同年9月15日から、それぞれK社に雇用され、航空機整備員として被申請人技術部に派遣され、就労していた者である。

K社は、昭和43年から被申請人に航空機の整備員を派遣するようになったが、航空機整備に関する羽田空港構内営業許可を受けておらず、整備に必要な機械を保有せず、整備作業を完成するに必要な人員も有していなかった。また、同社には、派遣した整備員に対する指揮監督等の労務管理を行う者がなく、整備員に適用すべき就業規則もなかった。被申請人技術部整備員は24名中正規従業員は17名で、残り7名はK社整備員であり、K社整備員は正規従業員と一緒に就労し、作業上の指揮命令は被申請人の技術部長等から直接なされていたほか、出勤管理も被申請人の秘書が行い、残業は主に整備技師の判断で業務命令がなされていた。

被申請人は、シンガポール航空との航空機整備請負契約が昭和52年4月以降解約されて整備員に余剰が生ずることとなったため、人員整理の必要が生じたとして、同年1月28日、労働組合との間でK社との間の請負契約解約及び解雇について協議を行い、同年2月8日の団体交渉の中で10名削減の方針を通告し、K社に対しても同年3月31日をもって契約解約を通告した。その後被申請人は、労働組合との間で再三にわたって団体交渉を行ったが、労働組合は、整備員10名の削減は不当である、K社整備員を入れることは職業安定法違反である、K社整備員の解雇は労働協約違反であるなどと主張し、対立した。

被申請人は、申請人Aに対しては、将来整備員に戻す含みで、運転手への配転を示唆したが、申請人Aは、自分は航空機の整備を行うために入社したこと、自分だけ解雇予告を撤回されてもK社整備員が救済されないこと、運転手になると手当がなくなり減収となることなどから、配転を拒否したため、同年3月31日をもって解雇された。
申請人らは、被申請人とK社との請負契約の実態からみて、申請人B、C及びDはいずれも被申請人との間に黙示の雇用契約が成立しているから、K社との契約解除は解雇に当たるところ、申請人Aと同様整理解雇の要件に該当しないとして、解雇無効による地位の確認を求めた。
主文
本件申請をいずれも却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
判決要旨
1 申請人B、C及びDと被申請人との間に労働契約が成立していたか否か

K社整備員の就労の実態によれば、申請人B、C及びDは、被申請人の指揮命令の下で被申請人の正規従業員とほぼ変わらない形で労務を提供し、しかも被申請人はある点において右申請人らが被申請人の従業員であるかのような外観を与えていたものということができ、これらのことは右申請人と被申請人との間に黙示の労働契約が成立していたと推認することができる一つの事情であるといえないではない。

K社整備員派遣の経緯と就労の実態を併せ考えると、被申請人とK社との間の契約は請負契約ではなく、被申請人の指揮監督に服する労働者をK社が供給する契約であったと認められる。このような場合、労働者の供給を受ける者が労働者の採否や報酬額等を直接決定しているといえるようなときには、当該労働者とその供給を受ける者との間に直接の労働契約を締結する黙示的な意思表示がなされたものと推認できることがあり得る。しかし本件においては、K社は実体を有する独立した法人格であり、かつ、K社整備員からも被申請人からも実質的な契約当事者と認められた存在であり、被申請人はK社整備員の供給を受けるについて各個人に着目せず、単に員数として取り扱っており、その採否や報酬等を決定する立場にはなかったのであるから、K社とK社整備員たる申請人B、C及びDとの間には、右申請人らが被申請人の指揮命令の下に就労し、K社がこれに対して報酬を支払うことを内容とする契約関係が存在し、右申請人らはK社に対する右義務に基づいて被申請人の技術部において就労していたものと解される。従って、前記のような就労実態があっても、本件のような場合は、申請人B、C及びDと被申請人との間に直接の労働契約を成立させる黙示的な意思表示があったと認めることはできない。

なお、K社の代表取締役が、右申請人らほか5名のK社整備員を被申請人に供給した件につき、職業安定法44条及び64条4号並びに労働基準法6条及び118条1項に該当するものとして有罪判決を受けたことが認められるが、そのこと自体から直ちに労働者と供給を受けた者との間に直接の労働契約が成立したこととなるわけのものではなく、単にそのことが労働者供給者と労働者との間に実質的な契約関係が何もないことを示す一つの資料となることがあるだけである。

以上の理由により、申請人B、C及びDと被申請人との間に労働契約が成立したことはできないので、右申請人らの被保全権利は認められないこととなる。

2 申請人Aの解雇の効力

一部門について大幅な業務の減少があった場合、当該部門の人員を削減してこれに対処すること自体は、使用者として必要かつ相当なことであるといえる。

被申請人は、人員削減の通告以来多数回組合と交渉を重ねており、結局交渉は進展をみなかったが、それは労使の基本的な立場が根本的に対立していたために交渉内容が主として必要人員の算定に終始してしまったからであって、被申請人が不誠実な態度をとったことにその理由を帰するのは相当でなく、しかも被申請人は、その過程において解雇以外の方法による業務減少のための努力をそれなりに続けていたものということができる。

 被申請人が5万人を超える従業員数を有する世界的な企業であるところ、その日本支社において前記のような業務の減少があっても、被申請人全体としてみてその経営が危殆に瀕するというようなおそれのないことは明らかである。しかし、そのような場合には解雇によって業務の減少に対処することが一切許されないというのではなく、本件においては、業務の減少は被申請人にとっていかんともし難いところであったのであり、減少した業務は当該部門で無視できない比重を占めており、減少した業務量と削減人員数は概ね均衡がとれていて、一時的な業務の減少を口実とした人員削減とは考えられず、被申請人は解雇以外の方法による人員削減の努力を尽くしており、被解雇者の選択も合理的と認められ、しかも被解雇者たる申請人Aに対しても他の部門の職が提示され、同申請人の拒否の理由も主として整備員として残留することにあったのであって、同申請人を整備員のままで日本支社以外の場所へ配置転換させることは考えられないものということができ、これらの事情を総合考慮すれば、本件においてなお余剰人員を被申請人が負担すべきものとするのは不合理であって、本件解雇は権利の濫用とはならないというべきである。
適用法規・条文
職業安定法44条、64条、労働基準法6条、118条1項
収録文献(出典)
労働判例332号28頁
その他特記事項