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佐賀(テレビ局)業務委託契約解除解雇控訴事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 佐賀(テレビ局)業務委託契約解除解雇控訴事件
- 事件番号
- 福岡高裁 - 昭和55年(ネ)第592号
- 当事者
- 控訴人 株式会社
被控訴人 個人4名 A、B、C、D - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1983年06月07日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審被申請人)は、テレビ放送を業とする株式会社であり、被控訴人(第1審申請人)らはY社に雇用され、控訴人とY社との間に締結されていたる委託業務契約(本件契約)に基づいて控訴人に派遣され、就労していた者である。
昭和49年4月にY社従業員9名全員が加入する労働組合(Y社労組)が結成され、Y社労組は、賃上げ、賞与、配転合理化等について間断なくY社管理者Pと団交を繰り返した。Pは労組との対応に疲弊し、昭和50年6月2日に本件業務から手を引く旨の意向をY社労組員に伝え、その上で被控訴人に本件契約の解除を申し入れ、同月5日をもって約4年続いたY社と控訴人間の本件契約は終了するに至った。
Y社は同月5日、被控訴人らに対し解雇を通知して解雇予告手当を支給し、同年7月28日に退職金を支払い、離職証明書を新瀬員らに交付した。
控訴人のサガテレビ労組は、Y社労組員の身分を保障する見地から控訴人に対し、同労組員を社員化するなどして身分を保障せよと主張したが、就業場所について意見が一致せず、交渉は打ち切られた。そして、控訴人は同月20日、被控訴人らの社員化要求及びその就労を拒否し、以後被控訴人らとは無関係であるとする社告(無関係社告)を発した。
これに対し被控訴人らは、同年6月5日のY社による解雇通知、同月20日に出された控訴人の無関係社告等について、被控訴人らの身分の確保を要求して抗議行動を続けたが、控訴人の受け容れるところにならなかったため、同年9月8日、地位保全の仮処分申請を行った。
第1審では、被控訴人らと控訴人との間には、実質的には労働契約が成立しており、被控訴人らは控訴人の従業員としての地位にあったと認めたことから、控訴人がこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。
被控訴人らの本件各申請を却下する。
訴訟費用は第1、2審とも被控訴らの負担とする。 - 判決要旨
- 労働契約は、労働者が使用者との間に、その使用者の指揮、監督を受けて労務に服する義務を負う一方、その対価として賃金を受ける権利を取得することを内容とする債権契約であり、したがって、一般の契約と同様に契約締結者の意思によって初めて成立するものであるところ、被控訴人らはY社との間に明示の労働契約を締結したものであって、控訴人との間に明示の労働契約を締結したものでないことは明白である。もっとも労働契約は、強弱の差はあれ何らかの程度においていわゆる使用従属関係を生じさせるものであるから、特定の当事者間に事実上使用従属関係が存在するということは、その間に労働契約が成立していることを推測させる一応の徴表であると言えないことはない。しかし、企業が必要な労働力を獲得する手段は、直接個々の労働者との間に労働契約を締結することに限定されているわけではなく、広く外注と称せられる種々の方法が存するのが実情であって、その場合においても個々の労働力はその業務活動を分担することとなるから、その限度では労働者と使用者との間に強弱の差はあっても何らか事実上の使用従属関係を生ずることがあるというべきである。従って、単に使用従属関係が形成されているという一事をもって直ちに労働契約が成立したとすることはできない。
しかし、労働契約といえども、もとより黙示の意思の合致によって成立し得るものであるから、事業場内下請労働者(派遣労働者)の如く、外形上親企業(派遣先企業)の正規の従業員と殆ど差異のない形で労務を提供し、したがって派遣先企業との間に事実上の使用従属関係が存在し、しかも派遣元企業がそもそも企業としての独自性を有しないとか、企業としての独立性を欠いていて派遣先企業の労務担当の代行機関と同一視し得るものである等その存在が形式的、名目的なものに過ぎず、かつ、派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件を決定していると認めるべき事情のあるときには、派遣労働者と派遣先企業との間に黙示の労働契約が締結されたものと認め得べき余地があることはいうまでもない。
被控訴人らY社従業員は、事業場内下請労働者として控訴人に派遣され、その作業の場所を控訴人社屋内と限定されて労務を提供していたのであるから、控訴人の職場秩序に従って労務提供をなすべき関係にあったばかりでなく、その各作業が控訴人の行う放送業務と密接不可分な連携関係においてなされるべきところから、各作業内容につき控訴人社員から具体的な指示を受けることがあり、また作業上のミスについても控訴人の担当課長から直接注意を受けるなど控訴人から直接作業に関し指揮・監督を受けるようになっていたものであって、控訴人との間にいわゆる使用従属関係が成立していたものであり、したがって、この使用従属関係の形成に伴い、控訴人が、被控訴人らY社従業員に対し、一定の使用者責任、例えば事業場内下請労働者に対する安全配慮義務等を課せられる関係にあったことは否定することができない。
しかし、Y社は、控訴人から資本的にも人的にも全く独立した企業であって、控訴人からも被控訴人らからも実質上の契約主体として契約締結の相手方とされ、現に被控訴人ら従業員の採用、賃金その他の労働条件を決定し、身分上の監督を行っていたものであるから、控訴人の労務担当代行機関と同一視し得るような形式的・名目的な存在に過ぎなかったというのは当たらない。また控訴人は、Y社が派遣労働者を採用する際にこれに介入することは全くなく、かつ業務請負の対価としてY社に支払っている本件業務委託料は、派遣労働者の人数、労働時間量にかかわりなく一定額と約定していたのであるから、控訴人が被控訴人ら派遣労働者の賃金額を実質上決定していたということは到底できない。したがって、控訴人と被控訴人ら派遣労働者との間に黙示の労働契約が締結されたものと認める根拠は見出し得ない。
なお、被控訴人らは、Y社と控訴人との間に締結された本件業務委託契約は職安法44条に違反し、公序良俗に反する無効なものであり、Y社と被控訴人らとの間の労働契約は右違法な本件業務委託契約と結合しその違法性を隠蔽する役割を担っているもので、労働基準法6条に違反し、公序良俗に違反する旨主張する。なるほど、職安法44条、職業安定法施行規則4条の規定は労働行政上比較的厳格に解釈運用されていて、本件委託業務に従事していたY社従業員の労務提供について、(1)労働者の作業上の指揮監督、(2)事業主自ら提供すべき機械、設備、器具若しくは作業上必要な資材の2項目につき職安法違反の疑いがある旨県職業安定課から指導を受けたことが一応認められる。しかしながら、仮にY社の本件業務委託が職安法44条に違反するものであったとしても、それだけの理由では被控訴人らとY社との間に締結された雇用契約が公序良俗ないし労働基準法6条に反し無効であり、真実の雇用関係は控訴人会社との間に成立するものということはできない。
以上のとおり、被控訴人らと控訴人との間に明示的にも黙示的にも雇用契約が締結されたものとは認められないから、被控訴人らが控訴人従業員の地位を有することを仮に定めるべきことを求める本件仮処分申請は、その被保全権利の存在につき疎明がないものというほかなく、これを却下すべきである。 - 適用法規・条文
- 労働基準法6条、職業安定法44条
- 収録文献(出典)
- 労働判例410号29頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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佐賀地裁 − 昭和50年(ヨ)第44号 | 認容 | 1980年09月05日 |
福岡高裁 - 昭和55年(ネ)第592号 | 原判決取消(控訴認容) | 1983年06月07日 |