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クレジット債権管理組合等事件

事件の分類
解雇
事件名
クレジット債権管理組合等事件
事件番号
福岡地裁 − 昭和62年(ワ)第3334号、福岡地裁 − 平成2年(ワ)第1359号
当事者
原告 個人2名 A、B
被告 クレジット債権管理組合(被告組合)、個人1名(被告C)、有限会社(被告会社)
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1991年02月13日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
被告組合は、クレジット債権を有するか又は将来クレジット債権を取得する見込みのあるものによって構成される民法上の組合であり、業務執行を組合員の1人である被告会社に委任している。被告会社は、組合契約をもって被告組合の業務執行の委任を受けたものであるが、被告組合の従業員の雇用、解雇等の人事に関する業務をも執行している。また、被告Cは、被告組合を設立し、その業務執行を被告会社に委ねる等の基本構想を考案した者であり、被告会社の代表取締役の夫である。一方、原告Aは昭和57年6月、原告Bは昭和56年2月、それぞれ被告組合に雇用され、福岡事務所に勤務していた者である。

被告組合の福岡事務所の所長であったP及び係長Qは、共謀して、昭和59年6月頃から約2年間に約4800万円を横領し、Pは解雇され、Qも昭和61年8月に退職した。

この横領事件が発覚した後、被告Cは職員の関与を疑い、原告らに対し、他の職員の面前で「お前がやったんだろう」などと追及し、Pの後任所長は、同年9月16日、原告らに対し自宅待機命令を発した。これに対し原告らは、被告組合に対し、同月22日付内容証明郵便により、名誉回復、職場復帰を求める旨の通知をしたところ、被告組合は原告らに対し、同月24日付郵便により、東京地区事務所勤務を命じ、かつ同月29日までに同事務所へ出所を命ずるとの業務命令を発した(本件業務命令)。原告らが被告組合に対し、右業務命令に従わない旨通知したところ、業務執行者としての被告会社は、原告らに対し、同月29日付、同年10月6日付、同月13日付の各郵便により、東京地区事務所へ出所を命ずる旨の業務命令を発した。原告Aは、当時妻が妊娠しており、このような不安定な状態を脱して早く安定した職業を確保する必要があり、原告Bにおいても近く結婚が予定されており、安定した職業に就く必要があって、職業を探すのに一定の期間が必要であったことから、原告らは、同年10月18日、被告組合に対して退職届を発送し、同月20日被告組合に到達して原告らは退職した。
原告らは、被告会社が原告らを退職に追い込むため、自宅待機、東京転勤等の各業務命令を矢継ぎ早に発し、退職を余儀なくされたとして、被告会社に対しその精神的苦痛に対する慰謝料500万円を請求するとともに、被告Cの名誉毀損発言に対し慰謝料100万円、被告組合に対し退職金の支払いをそれぞれ請求した。
主文
1 被告クレジット債権管理組合は、原告Aに対し、勤84万8189円及び内金80万5566円に対する平成2年10月31日から、原告Bに対し、金97万3528円及び内金95万4266円に対する平成2年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2 被告Cは、原告らに対し、それぞれ金30万円及びこれらに対する昭和61年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告有限会社は、原告らに対し、それぞれ金100万円及びこれに対する昭和61年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

5 訴訟費用は、これを3分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

6 この判決の1ないし3項は、仮に執行することができる。
判決要旨
1 被告Cの不法行為責任

被告Cが多数人の面前で、原告らだけを、それぞれ直接名指しし、断定的な表現で、「お前がやっただろう」等と言った行為は、さしたる根拠もないのに憶測に基づき、原告らの社会的評価を低下させ、その名誉を毀損した違法な行為で、不法行為を構成することは明らかである。被告Cの右不法行為により原告らの被った精神的苦痛を慰謝するための金額は、表現方法、内容その他諸般の事情を斟酌すれば、原告らそれぞれに対し金30万円が相当である。

2 被告会社の不法行為責任について

被告組合では、昭和61年9月18日から20日までグアム旅行が計画されていて、原告らもこれに参加する予定であったが、原告らは横領事件の犯人であるかのように言われたことから、その参加を断ったこと、被告Cらは原告らによる証拠隠滅を防止するために同月16日原告らに自宅待機命令を出したこと、自宅待機命令を受けたのは被告組合の職員中原告らだけであることの事実が認められる。右認定事実によれば、本件自宅待機命令は、さしたる根拠もないのに憶測に基づき、原告らが犯罪に加功していると疑い、証拠隠滅工作を防止する目的で発したものであり、原告らのみに限定して本件自宅待機命令を発する合理的な理由は見出し難く、本件自宅待機命令は、被告会社がその業務命令権を濫用して発した違法なものというべきである。

被告組合では、昭和57年から同61年までの間に福岡事務所から東京地区事務所に転勤した者がいないこと、本件業務命令は原告らが被告組合に対して内容証明郵便により名誉回復、職場復帰を求めた直後に出されていること、被告組合及び被告会社とも原告らに対し転勤について何らの説明もしなかったこと、原告らだけに東京で研修を受けさせる必要性があるとの合理的理由はないこと等の事実が認められる。この事実に、本件自宅待機命令が原告らの証拠隠滅工作を防止するためになされたことを併せ考えると、本件業務命令は、真に原告らに東京研修を受けさせるというよりも、原告らを福岡事務所から排除し、原告らが横領事件に関与しているかどうかを調査する目的の下にしたものであると認定するのが相当である。そうすると、本件業務命令は、被告会社がその業務命令権を濫用してした違法なものというべきであり、右違法な本件業務命令を基礎にしてなされた原告らに対する出勤停止処分及び東京地区事務所へ出所を命じる旨の各業務命令も業務命令権を濫用した違法なものというべきである。

被告Cは、基本構想を考案した者で、被告会社の代表者には妻を配置し、自らは被告組合のコンサルタントとして被告組合の事務所に自由に出入りし、被告組合の従業員に指揮命令を行う等、被告組合に隠然たる力を有しており、このような被告Cに横領事件の共犯者と疑われ、名誉を毀損された原告らは、被告組合にこのまま雇用されていたとしても将来の希望もなく、冷遇されるのみであると思料し、退職を決意したもので、このような原告らの決断は無理からぬものがある。したがって、一連の違法な業務命令等と原告らの退職との間には相当因果関係があるというべきである。
被告会社は、民法上の組合たる被告組合の業務執行者であるところ、被告会社代表取締役は、本件自宅待機命令、本件業務命令及びその後の各業務命令を発し、原告らの退職を余儀なくさせたものであり、右について少なくとも過失があったというべきであるから、原告らの損害を賠償すべきである。原告Aは、失業保険を1ヶ月支給され、昭和62年2月に就職したこと、原告Bは昭和61年12月に就職したことが認められ、これらの事情の他、原告らの被告組合における在職期間、自宅待機を含む数回に及ぶ違法な業務命令を受けたことその他諸般の事情を考慮すると、原告らの精神的苦痛を慰謝すべき金額は原告らそれぞれに対し金100万円をもって相当と認める。被告組合に対する退職金請求 (略)
適用法規・条文
02:民法627条2項、667条、709条、723条
収録文献(出典)
労働判例582号25頁
その他特記事項