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佐賀(木材製造加工等)派遣労働者解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 佐賀(木材製造加工等)派遣労働者解雇事件
- 事件番号
- 佐賀地裁武雄支部 − 平成8年(ヨ)第18号
- 当事者
- その他債権者 個人18名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1997年03月28日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、各種木材の製造加工、販売等を行う株式会社、M商事は、合板加工、販売、労働者派遣法に基づく一般労働者派遣事業等を目的とする有限会社であり、債権者らは、M商事によって平成7年3月から10月の間に採用され、債務者伊万里工場において職務に従事していた。M商事は、平成8年9月30日、債権者らに対し、「会社解散・廃業にともなう全員解雇のご通知」と題する書面を配布して各解雇通知をし、債務者は同年10月1日、債権者らの工場立入りを禁止した。
債権者らは、その実態を見れば、労務を提供する相手は債務者であり、債権者らと債務者との間には、その各就労の時点で、それぞれ黙示の労働契約が成立しており、かつ債務者の主張する業務請負契約は労働者派遣事業に当たり、労働者派遣法4条3項に違反すると主張して、債務者の従業員としての地位にあることの確認と、賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 債権者らがそれぞれ債務者の従業員たる地位にあることを仮に定める。
2 債務者は、債権者らに対し、それぞれ、平成8年11月から本案訴訟の第1審判決言渡しまで毎月末日限り別表(1)記載のとおりの各金額を支払え。
3 債権者らのその余の申立てをいずれも却下する。
4 申立費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 一般に労働契約は、使用者が労働者に賃金を支払い、労働者が使用者に労務を提供することを基本的要素とするのであるから、黙示の労働契約が成立するためには、社外労働者が受入企業の事業場において同企業から作業上の指揮命令を受けて労務に従事するという使用従属関係を前提にして、実質的にみて、当該労働者に賃金を支払う者が受入企業であり、かつ、当該労働者の労務提供の相手方が受入企業であると評価することができることが必要であると考えられる。
本件では、債権者らが債務者伊万里工場において債務者から作業上の指揮命令を受けて労務に従事するという使用従属関係が存在していたというべきところ、債務者はM商事に対し、毎月末に前月分の出来高に応じてその請負代金を支払うこととされていたが、右出来高は、特段の事情がない限り、M商事の従業員が従事した時間に応じて一定量の仕事が完成したものとみなして右金額を算定しており、その請負代金は、基本的に作業に従事した労働者の人数と労働時間とで算出される債権者らM商事の従業員の受ける賃金の総額と直接関連するものであることを推認することができる上、その額は実際上債務者によって決定されていたと評価することができる。また、債権者らに対する作業上の指揮命令、出退勤の管理等は、実質上債務者が行っていたということができる上、債権者らの配置や職場規律の適用等の労働条件の決定に関しても、M商事が権限を有していたという明確な資料は見当たらず、むしろこれを債務者が行っていたというべき事例があることを裏付ける資料も存在する。
これらの事情に加えて、M商事は債務者伊万里工場における債権者らの作業の他に実績はなく、また他企業との間の業務請負契約ないし他企業への労働者派遣の実績もなく、むしろ債務者のみとの関係でM商事が設立された経緯があること、債務者とM商事との間の本件業務請負契約について契約書等の書類は何ら作成されていないこと、出退勤時間や休暇の管理及び現実の作業についても、その大部分が債務者の従業員等と混在ないし共同作業によって行われており、タイムカードのゴム印部分を除いて、作業服等から債権者らを他の従業員と外形的に区別することはできず、職場規律及び福利厚生面でも基本的には他の従業員と区別されておらず、その作業に必要な材料、資材等もM商事が提供するものではなかったこと、更には債権者らによる組合結成及び団体交渉並びにM商事の解散に至る経緯等の諸事情を併せ考えると、むしろ債務者としては、当初からM商事をして供給又は派遣させた労働者を使用してその労務の提供を受け、これに対し、M商事を通じて賃金を支払う意思を有し、債権者らとしても、債務者の指揮命令の下これに対して労務を提供し、その対価として賃金を受け取る意思があり、したがって、実質的にみて、当該債権者らに賃金を支払う者が債務者であり、かつ債権者らの労務提供の相手方が債務者であると評価することができるから、両者間には、各債権者らの債務者工場における就労開始の時点で、黙示の労働契約が成立したものと一応認めることができるというべきである。
ちなみに、業務請負契約とは、受託企業が委託企業に対してその一定業務の処理を請け負い、この請負業務を遂行するために自己の雇用する労働者を委託企業の事業場において自己の指揮命令下に労働させる形態の契約であり、職業安定法施行規則4条1項各号の要件を満たさなければ、労働者供給事業を行う者として、職業安定法44条の規制を受けることとなるところ、右要件の1つである「自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し、又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。」については、本件における債権者らの当該作業がこれに該当しないことは明らかである。そうすると、本件各仮処分の申立ては、その主張に係る被保全権利(債権者らと債務者との間の労働契約)がいずれも存在するというべきである。 - 適用法規・条文
- 職業安定法44条、労働者派遣法4条3項
- 収録文献(出典)
- 労働判例719号38頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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