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東京(コンピューターソフト会社)開発業務解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
東京(コンピューターソフト会社)開発業務解雇事件
事件番号
東京地裁 - 平成15年(ワ)第6071号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年01月14日
判決決定区分
棄却(確定)
事件の概要
被告は、コンピューターソフトの設計、開発等を業とする株式会社であり、原告は平成元年9月、期限の定めなく被告に雇用され、平成4年4月に事業推進部長に就任した者である。原告は、平成9年4月11日、被告から解雇されたが、平成11年12月28日、解雇無効の判決が出されて同判決は確定し、平成12年1月25日原告は職場復帰した。

平成14年2月28日、A社と被告は、開発業務に関し、受託期間を平成14年3月1日から平成15年2月28日等を内容とする個別契約1を結び、被告はこれに基づき原告に本件業務命令1を発した。原告は同年3月1日からA社から指定された作業場で開発業務に従事し始めたが、作業環境が悪く、体調がすぐれないことから、A社のHに対して家に持ち帰って仕事をしたいことなどを要請したところ、Hはこのまま仕事を続けるのか、仕事を終了するのか聞いたので、原告は仕事を終了する方を選ぶ旨答えた。同年4月5日、Hは被告のD課長に対し、原告が作業を終了したい旨言っていること、代替者を送って欲しいことを告げたが、代替者を用意することができず、結局原告は同年4月末日まで基本設計書に従事した。

被告代表者は、同年5月に入ってから、原告に対し本件個別契約1が4月末で終了となった経緯の報告を求め、原告はその経緯についての報告書を提出したところ、同代表者はHに確認した上、同月24日、本件出勤停止処分を決定したが、原告はこれを不服として、同年9月27日出勤停止期間中の賃金等の支払を求める訴えを提起した。
被告は、コンピューター関係のコンサルテーション、ソフトウェア開発などを業とするE社からの依頼を受けて、これを原告に担当させた(業務命令2)が、原告は、作業場所が不便であること、被告とEの契約内容が不明確であること等を挙げて、作業場に出勤せず、業務命令2について拒否する旨被告に意思表示した。E社は、同年12月末までに作業が行われない場合は契約を解除する旨被告に通告し、平成15年1月10日付けで被告との業務委託基本契約及び業務請負個別契約を解除した。こうした中、平成14年12月27日、被告は、原告の一連の行為は就業規則に定める懲戒解雇事由又は普通解雇事由に該当するとして即時解雇したところ、原告は、本件解雇は解雇権の濫用であり無効であるとして、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 本件業務命令1及び本件出勤停止処分について

原告は、被告がA社から委託されたC製薬のデータべース構築の仕事に従事するため、A社の指定する場所で業務に従事するよう被告から業務命令(本件業務命令1)を受けて、その作業に従事していたものであるが、被告代表者やD課長に何ら相談することなく、A社のHに対し作業場所の変更を申し出、これを断ったHに対し、作業環境のため体調が悪いので仕事を終了したい旨直接伝えたことが認められる。このように原告が被告代表者らに無断で、顧客から指定された作業場所での作業はできず、仕事を終了させる旨を顧客の社員に伝えた行為は、被告が顧客の指定する場所で受託業務に従事するよう命じた本件業務命令1に反する行為であり、就業規則54条11号(業務上の指揮命令に違反した時)に該当するというべきである。

原告は、本件個別契約1は、実質労働者派遣であると主張するところ、その趣旨は、労働者派遣法で選任を要求されている派遣先責任者と同様の地位にある就労場所の責任者に原告が相談したのは適切であるとするところにあると解されるが、同法で派遣先責任者が負うのは派遣労働者からの苦情の申し出であり(40条、41条)、原告がHに対してA社の作業を4月末で終了させる旨伝える行為は、これを逸脱するものであって、仮に労働者派遣であったとしても正当化されるものではない。

よって、原告の行為は、就業規則54条11号に該当するところ、それによって被告に与えた経済的損害及び信用毀損の程度は、1年間を予定していた業務を2ヶ月で打ち切られるという軽くないものであることに加え、原告の当該行為は過誤に基づくものではないこと、原告が管理職に就いていることを併せ考えると、本件出勤停止処分は、被告の有する懲戒権を濫用したものとは認められない。

2 本件業務命令2について

原告は、被告がE社から受けた本件各ソフトウェア開発の仕事に従事するため、E社の指定する場所で業務に従事するよう被告から業務命令(本件業務命令2)を受けたのに対し、当初2日間だけE社の指定する本件事務所に出勤したに止まり、F部長及び被告代表者から度々業務を行うように指示、命令があったにもかかわらず、その後一切本件事務所に赴かず、本件各ソフトウェア開発の仕事を行わなかったもので、本件業務命令2を拒む正当な理由がない限り、業務命令に違反したことになる。

原告は、本件業務命令2に従わなかった理由として、(1)交通の便の悪い本件事務所で原告1人が作業を行う必要性がないこと、(2)原告は本件ソフトウェア開発に向いていないこと、(3)開発期間について当事者間の認識が一致していないこと、(4)E社の経済状態は良好でなく、新規に本件事務所を賃貸する余裕はないこと、(5)被告とE社間の契約は不明確であること、(6)本件ソフトウェア開発の仕事は、持ち帰って作業することができないことを挙げるが、いずれも理由がない。そして、原告はF部長に対し、本件業務命令2は嫌がらせであること、本件事務所は悪臭がして気分が悪くなること、E社とは契約が成立していないこと、E社社長の言動に悪意を感じることなどを主張しているが、これらが作業を拒む合理的理由とは認められない。以上によれば、原告が本件業務命令2に従わなかったことについて、正当な理由があるということはできないから、原告の行為は、業務命令違反に該当する。

3 本件解雇の適否

原告は、平成14年5月24日、被告から業務命令違反を理由として出勤停止処分を受けていたにもかかわらず、同年12月、再度同種の業務命令に違反したものである。よって、原告の一連の行為は、就業規則61条2号(業務状況が著しく不良で、就業に適しないとき)に該当するものである。そして、本件業務命令1に反する行為によって被告に与えた経済的損害及び信用毀損の程度は軽くないものであり、また本件業務命令2に反する行為によって被告に与えた経済的損失及び信用毀損の程度も、529万円の契約を解除されるという軽くないもので、原告の当該行為は過誤に基づくものではなく、むしろそれが持つ意味を十分認識した上でされていると認められること、原告が管理職に就いていることを併せ考えると、本件解雇はやむを得ない措置として是認でき、合理的理由があるというべきであり、被告が解雇権を濫用したということはできない。
なお、原告は、被告が職業安定法、労働者派遣法に違反して原告に業務を命じたとするが、原告は、被告が特定労働者派遣事業の届出をし、脱退はしていない旨供述している上、仮に被告について両法に違反する事由があったとしても、原告が本件解雇前にそれを問題としていた事実、原告がそれによって実害を受けた事実は認められず、本件解雇の有効性を否定する理由とはならないというべきである。
適用法規・条文
労働者派遣法4条3項、職業安定法44条
収録文献(出典)
労働判例875号78頁
その他特記事項