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大阪(土木設計監理)派遣労働者解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 大阪(土木設計監理)派遣労働者解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成16年(ワ)第8176号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 有限会社 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2007年01月06日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告は、土木建築工事の設計監理に係る労働者派遣を業とする有限会社であり(労働者派遣法5条1項の許可は受けていない)、原告は、1級建築士等の資格を持ち、土木工事の管理監督を業として稼働してきた者であって、平成14年末頃、被告において派遣社員の登録をした。
原告は、平成15年1月20日から3月末日までA設計に派遣され、和歌山市水道部による配水管敷設工事の施工管理に従事した。原告は、工事完了後、日報、水道図面、材料表等の書面を作成しなければならず、不備な点の手直しが必要であったが、同年4月5日からB設計に派遣されることになっていたため、手直しが間に合わず、被告に登録していたDの応援を得て作成することとなり、原告が報酬11万4000円をDに支払った。
原告は、同年4月5日から同年7月末日までの予定で、B設計に派遣され、同社が請け負った兵庫県H町役場による水道工事の施工管理に従事したが、パソコンが苦手ということなどから、B設計から被告に対し原告を交代するよう要請があり、被告は原告に対しB設計での就労を中止するよう指示し、同年5月7日から後任を派遣した。その後被告は原告に対する他の派遣先を検討したが、適当な派遣先が見つからず、原告を解雇することになったため、原告は被告に対し、主位的請求として、雇用期間の残期間の賃金の未払い分の支払いを、予備的請求1として、同期間に係る休業手当の支給を、予備的請求2として、解雇予告手当の支給を請求した。 - 主文
- 1(主位的請求)
(1)被告は、原告に対し、8万0234円及びこれに対する平成16年8月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)原告のその余の主位的請求を棄却する。
2(主位的請求のうち平成15年5月7日以降の賃金請求についての予備的請求1)
(1)被告は、原告に対し、87万5613円及びこれに対する平成16年8月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)原告のその余の予備的請求1を棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、1(1)、2(1)に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 派遣契約の債務不履行について
原告の勤務状況が、被告と派遣先との間の派遣契約に照らして債務不履行(不完全履行)となる場合は、派遣先は、被告に対して原告の交代を要求することができ、これに被告が応じない場合は派遣契約を解除することができる。このように派遣契約上の債務不履行があり、派遣先から交代要請があった場合は、派遣期間の途中であっても、原告としては交代を余儀なくされ、原告の派遣期間は終了することとなり、そのことによって、派遣元との雇用契約も一旦終了し、残期間の給与を請求することはできないというべきである。
一方、原告の勤務状況が、被告と派遣先との間の派遣契約に照らして債務不履行(不完全履行)といえない場合は、派遣先は、被告に対して、原告の交代を要求したり、被告がこれに応じないことを理由に派遣契約を解除することはできない。この場合、派遣先が原告の交代を求め、原告の就労を拒否したとしても、債務不履行でない限り、被告が派遣先に対する派遣代金の請求権を失うことはないと解する。もっとも、原告の勤務状況が、債務不履行といえない場合であっても、派遣先が原告の就労を拒絶する場合、原告の被告に対する賃金請求権の帰趨については別に検討する必要がある(被告が派遣先の要請に応じて、原告を交代させた場合などについても同様の問題が生じる)。
2 原告の勤務状況と不完全履行
和歌山市の工事における原告の勤務状況に派遣契約上の不完全履行があったと認めることはできない。しかも、被告による本件交代命令の理由(解雇事由)はB設計からのクレームを直接の原因としており、和歌山市の工事における原告の勤務状況が、直接の影響を及ぼしているとは考えられない。
一方、B設計から原告を交代させるよう要請があったこと自体は、原告の勤務状況に不完全履行の存したことを推定させる事情といわなければならない。しかし、交代要請があったのは、原告が工事に従事してから約1ヶ月後のことであるが、被告代表者は、交代要請の理由をB設計やH町に確認しておらず、原告の勤務状況がB設計と被告との間の労働者派遣契約の債務不履行に該当するかどうかは不明といわざるを得ない。以上によると、原告の勤務状況が、被告と派遣先との間の労働者派遣契約上の債務不履行事由に該当するとはいえない。
3 原告と被告との間の雇用契約の帰趨
被告としては、派遣先から、原告の勤務状況が被告と派遣先との労働者派遣契約上の債務不履行事由に該当すると主張して、原告の就労を拒絶しその交代を要請されたとしても、原告の勤務状況について、これを良く知る立場になく、派遣先の主張を争うことは極めて困難というべきである。このような状況下において、派遣先から原告の就労を拒絶された場合、被告としては、派遣先による原告の交代要請を拒絶し、債務不履行事由の存在を争って、派遣代金の請求をするか否かを判断することもまた困難というべきである。そうすると、被告が、派遣先との間で債務不履行事由の存否を争わず、原告の交代要請に応じたことによって、原告の就労が履行不能となった場合、特段の事情のない限り、原告の被告に対する賃金請求権(本件では平成15年5月7日以降の賃金請求権)は消滅するというべきである(民法536条2項の適用はないと考える)。
一方、被告の判断により、派遣先との紛争を回避し、派遣先からの原告の就労拒絶を受け入れたことにより、派遣先における原告の就労が不可能になった場合は、原告の勤務状況から、被告と派遣先との労働者派遣契約上の債務不履行事由が存在するといえる場合を除き、労働基準法26条にいう「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、原告は被告に対し、休業手当の支給を求めることができる。4 未払賃金及び休業手当
A設計及びB設計に派遣されていた間の未払賃金は8万0234円である。
原告の勤務状況をもって債務不履行(不完全履行)の状態にあるとは認めるに足りないというべきであるが、被告は、派遣先のB設計の要望に応じて原告を交代させ、他の従業員を派遣した。その結果、派遣代金請求権を失うことはなかったが、この派遣代金から、交代して派遣された従業員に対する給与を支払わなければならない状態にあり、また原告としても、交代して派遣された従業員が派遣先において就労している以上、その就労場所を失ったことになるところ、原告の被告に対する平成15年5月7日以降の賃金請求権については消滅したというべきである。
原告の勤務状況をもって債務不履行(不完全履行)の状態にあると認めるに足りないというべきであり、また被告は派遣先のB設計の要望に応じ、原告を交代させ、原告は就労できなくなったことが認められるが、被告の責に帰すべき事由により、原告は休業するに至ったと認めることができるので、原告は被告に対し、平成15年5月7日から同年7月末日までの期間の休業手当の支給を求めることができる。原告は、B設計に平成15年4月5日から同年7月末日まで派遣される予定であったこと、1ヶ月当たりの賃金は53万円であったことが認められ、上記期間の休業手当は87万5613円となる。 - 適用法規・条文
- 労働基準法26条、民法536条2項、労働者派遣法5条
- 収録文献(出典)
- 労働判例913号49頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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