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福井(労働者派遣会社)解雇仮処分事件

事件の分類
雇止め
事件名
福井(労働者派遣会社)解雇仮処分事件
事件番号
福井地裁 - 平成21年(ヨ)第16号
当事者
その他債権者 個人4名 A、B、C、D
その他債務者 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2009年07月27日
判決決定区分
一部認容・一部却下
事件の概要
債権者A及び同Dと労働者派遣を業とする債務者は、平成20年11月21日に、雇用期間を平成21年11月20日までとする雇用契約を締結した。また、債権者B及び同Cと債務者は、平成18年11月21日から1年毎に契約更新を続け、平成20年11月21日に雇用期間を平成21年11月20日までとする雇用契約を締結した。
債務者は、S社を派遣先として債権者らを派遣していたところ、S社の業績が悪化したことから、S社は債務者との間の労働者派遣契約を解除した。そこで、債務者は債権者らを解雇したところ、債権者らは、雇用契約期間中の解雇は労働契約法違反などにより無効であるとして、従業員としての地位保全及び賃金の支払いを求めて仮処分の申立を行った。
主文
1 債権者らが債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2 債務者は、(1)債権者Aに対して10万7142円を、(2)債権者Bに対して11万1595円を、(3)債権者Cに対して14万8294円を、(4)債権者Dに対して11万8242円をそれぞれ仮に支払え。

3 債務者は、

(1)債権者Aに対し、45万7926円及び平成21年8月以降本案判決確定に至るまであるいは平成21年12月までのいずれか先に到来する時期までの間、毎月5日限り(但し、同日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り、前日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り)15万2642円を、

(2)債権者Bに対し、47万1135円及び平成21年8月以降本案判決確定に至るまであるいは平成21年12月までのいずれか先に到来する時期までの間、毎月5日限り(但し、同日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り、前日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り、前日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り)15万7045円を、

(3)債権者Cに対し、56万7507円及び平成21年8月以降本案判決確定に至るまであるいは平成21年12月までのいずれか先に到来する時期までの間、毎月5日限り(但し、同日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り、前日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り、前日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り)18万9164円を、

(4)債権者Dに対し、47万4741円及び平成21年8月以降本案判決確定に至るまであるいは平成21年12月までのいずれか先に到来する時期までの間、毎月5日限り(但し、同日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り、前日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り、前日が休日又は土曜に当たる場合はその前日限り)15万8247円をそれぞれ仮に支払え。

4 各債権者のその余の申立てをいずれも却下する。

5 申立費用は、これを3分し、その1を債権者らの負担とし、その余は債務者の負担とする。
判決要旨
1 債権者A

労働契約法17条1項は、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と規定する。債務者は、本件解雇は世界的不況の影響による派遣先企業S社の大幅な生産調整により、債務者との労働者派遣契約が中途解約されたことによるものであり、これは一般企業の行う「整理解雇」に準ずるものであり、解雇に際しては出来る限りの努力をして他の派遣先を紹介した上でなされたものである旨主張する。

まず、派遣先S社の経営状態に起因する労働者派遣契約の中途解約をもって、直ちに、債務者が債権者Aを解雇する「やむを得ない事由」があるとは認められない。次に、債務者は、会社存続の観点からやむに止まれず実施した解雇であり、一般企業の行う「整理解雇」に準じるものであるなどと主張するが、債務者の経営内容、役員報酬など、経営状態やその経営努力について何ら具体的な疎明をしておらず、他に債務者が債権者Aを解雇する「やむを得ない事由」があることの疎明はない。したがって、債権者Aに対する解雇は無効である。

確かに、債務者は、派遣を求める派遣先企業の存在があってはじめて債権者らに労働の場を提供できる上、その需要も様々な要因により変動するものであり、更に派遣労働者の需要は留保しておくことができない性質のものではある。しかしながら、債務者としては、労働者派遣業の上記特質を理解した上、派遣労働者確保のメリットと派遣労働者に対する需要の変動リスク回避などの観点を総合的に勘案して、派遣期間だけ労働契約を締結する形態ではなく、1年という期間を定める形で労働契約を締結したのであるから、その契約期間内については派遣先との労働者派遣契約の期間をそれに合わせるなどして派遣先を確保するのが務めであり、それによって労働契約中に派遣先がなくなるといった事態はこれを回避することができたのである。したがって、本件において、S社との間の労働者派遣契約が解除され、その当時、債権者Aに対する新たな派遣先が見出せず、就業の機会を提供できなかったことについては、債務者に帰責事由が認められるというべきである。また、その後、債務者は、解雇が無効であるにもかかわらず、これが有効であることを前提に行動していたのであるから、債権者Aに対して新たな派遣先が提供されなかったことについては、債務者に「帰責事由」があるといえる。したがって、債権者Aは、賃金全額の支払いを受ける権利を有する。

2 債権者B

債権者Bと債務者は、平成18年11月21日から1年毎の契約であったと解され、平成20年11月21日当時、特段の手続きがなされぬまま債権者BのS社への派遣は継続され、平成21年11月21日には派遣先の派遣受入期間の制限に抵触することからすれば、平成20年11月21日当時には、従前同様に期間1年の労働契約が締結されたものと解するのが相当である。

債務者の債権者Bに対する解雇が無効であること、債権者Bが賃金全額を受ける権利を有することは、債権者Aと同様である。3 債権者C

債権者Cと債務者は、平成18年11月21日から1年毎の契約であったと解され、平成20年11月21日当時、特段の手続きがなされぬまま債権者CのS社への派遣は継続され、平成21年11月21日派遣先が派遣受入期間の制限に抵触することからすれば、平成20年11月21日当時には、従前同様に期間1年の労働契約が締結されたものと解するのが相当である。

債務者の債権者Cに対する解雇が無効であること、債権者Cが賃金全額の支払を受ける権利を有することは、債権者Aと同様である。

4 債権者D

債務者の債権者Dに対する解雇が無効であること、債権者Dが賃金全額の支払を受ける権利を有することは、債権者Aと同様である。
適用法規・条文
労働契約法17条1項、民法628条
収録文献(出典)
労働判例984号88頁
その他特記事項