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福岡(鉄道会社自動車営業所)所持品検査仮処分申請事件

事件の分類
解雇
事件名
福岡(鉄道会社自動車営業所)所持品検査仮処分申請事件
事件番号
福岡地裁小倉支部 - 昭和46年(ヨ)第283号
当事者
その他申請人 個人1名
その他被申請人 株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1977年05月12日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
被申請人は旅客運送事業を営む会社であり、申請人は昭和38年8月に被申請人に雇用され、戸畑自動車営業所に車掌として勤務していた者である。

被申請人においては、乗車賃が収入の根幹をなすものであって、就業規則に不正領得行為の防止のための規定を設け、違反者は厳重に処分するなどその防止に努めてきたが、不正行為が後を絶たなかった。そのため、被申請人では適正委員会の協議を経て、昭和45年10月28日、勤務中私金の証明のつかない金銭を携帯したときの「私金の証明」を厳格にすることとし、職員らに周知を図った。しかし、その後も所持品検査の結果、乗務員等が金銭を保持しているのが発見される事件が相次いだ。

被申請人は、昭和45年4月30日営業所長会議で適正化委員会決定を説明した上、その実施を指示し、この指示を受けて所長は各乗務員等に本件確認書への押印を求めた。申請人は病気休職後の同年7月27日に本件確認書に押印を求められたが、「確認書」が被控訴人により一方的に作成されたものであり、個人の人権が侵害されるとしてこれを拒否し、その後も再三の説得にもかかわらず押印を拒否し続けた。

そこで、被申請人は右押印拒否行為は就業規則に違反するとして、同月31日懲戒解雇する前提として、申請人に対し同年8月1日以降出勤禁止を命じ、同年10月22日、申請人を諭旨解雇とした。なお、被申請人は、本件確認書押印拒否の外、申請人が次の行為を行ったことを挙げて本件処分の正当性を主張した。

(1)昭和46年7月8日、所長らがI車掌に本件確認書について指導説得を行っているところへ入って来て、退去命令に従わなかった。

(2)同月19日、出勤停止処分中にもかかわらず、乗務禁止を解け等のゼッケンを付け、乗務員控室でビラを配布し、所長からビラ配布の制止及び退去を命じられたが、これに従わなかった。

(3)同月22日、営業所事務室に来所し、同僚と共に、所長に対し、確認書押印拒否を理由とする出勤停止が不当であると抗議した。

(4)同月23日及び29日、乗務員控室においてビラを配布し、所長に抗議するなどした。

(5)同月28日、宿泊書で下着だけで寝ており、助役が制服を着用し控室で待機するよう指示したが、これに従わなかった。

(6)同年8月7日、乗務員控室においてビラを配布し、デモ隊の先頭に立って確認書粉砕を叫びながら営業所構内に侵入し、所長らの制止にも拘わらずジグザグデモを繰り返し、そのためバスの出庫が4、5分遅れた。
申請人は、出勤停処分及び諭旨解雇処分は無効であるとして、雇用関係の確認と賃金の支払いを求めて仮処分を申請した。
主文
1 申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2 被申請人は申請人に対し、昭和46年8月1日以降同年10月22日まで1ヶ月金15504円の割合による金員を、昭和46年10月23日以降本案判決確定に至るまで1ヶ月金38760円の割合による金員を毎月23日限り、それぞれ仮に支払え。

3 訴訟費用は被申請人の負担とする。
判決要旨
本件確認書の目的について、労務係長Pが、就業規則の周知が目的であり、押印によって何ら不利益を受けるものではなく、ただ確認書記載事項につき説明を聞いたということの確認の意味を持つに過ぎない旨述べている。しかし、もし周知徹底が目的であるならば、申請人は、Pらから計5回にわたり説明を受けているのであるから、その目的は一応果たされており、また右説明を受けた事実の確認は、本件確認書への押印でなくとも、他の方法で証することにより、後日申請人に知らなかったとは言わせないことは可能であろう。むしろ、Pらは説明の際押印の効果として「押しちゃったら知らんやったとは言えない」と告げていることが認められ、かかる事実に、押印拒否に対し解雇処分をもって臨もうとする会社の強硬な態度を考え合わせると、会社が本件確認書に押印を求める真意は、単に記載内容について説明を受けたことの確認に止まらず、進んで、その内容につき押印者の同意と誓約を求めることにあると解される余地が十分にあり、もしそうであれば、自己の誓約違反を理由に処分を受けるおそれのある事項につき同意を強要し、或いは自発的同意がないのに誓約を強制することは、たとえその旨の労使間の決定があったとしても許されないことは当然であり、業務命令としてもなし得ない。

 以上検討したような、本件確認書が出されて来るまでの組合内部における審議の過程、確認書自体の持つ問題点、会社の押印を求める意図、申請人の押印拒否理由その他の事情を考え合わせると、申請人が本件確認書への押印に応じなかったことは、それなりに首肯し得る理由があると認められ、これをもって上長に対する理由なき反抗と断ずることはできない。

 

 申請人がI車掌の説得の場へ入って来て立ち去らなかったことは好ましいことではないが、申請人はその間黙って傍らにいただけで、何ら妨害行為をしたわけではないことが認められる。申請人の抗議行動については、本件確認書に関し申請人同様納得できずに署名押印を拒んでいる同僚が、そのため出勤停止処分を受けたことに対してなされた抗議行動であって、右は組合活動の一環と認められ、ビラ配りについては、組合がビラを配布することは労働組合活動の一つとして通常行われており、乗務員控室でのビラ配りも慣行として黙認された形で行われていたことが認められ、本件のみが得に強い違法性を有するものとは考えられない。したがって、これらの事実は、いずれも本件処分理由とするほど重大な事実とは認められない。したがって、(1)、(2)、(3)、(4)の事実は、いずれも本件処分理由とするほど重大な事実とは認められない。

 (5)については、当時申請人は予備勤務を命じられ、特に仕事も与えられず、暑い時であったので、仮眠の時と同じように下着姿で寝ており、助役の「乗務員控室で待機せよ」との指示に対し「仕事をさせんのに、どこにおってもいいじゃないか」と反抗的な態度をとったものであるところ、勤務時間中、乗務していないのに仮眠することは通常許されるべきことではないが、当時申請人の置かれていた事情のもとでは、これも本件処分に値するほどの義務違反とは認められない。

 更に(6)については、デモによりバスの出庫が予定時刻より遅れた事実はあるけれども、本件デモは届出に基づきなされたもので、会社において前もって対策も考えられたこと、デモはその性質上これを阻止しようとする側の多少のトラブルは避けられないものであること、本件では構内に侵入しジグザグデモは行ったものの3、4分後には構内から退去しており、バスの出庫に与えた影響も若干の遅れに止まったこと、デモの場における所長・助役らの制止等は、申請人に対する職務上の指示とは必ずしもいえないこと等を考えると、申請人の右行為も本件処分の理由とするほど重大な違法行為とは認められない。

 右のとおり、前記(1)ないし(6)の行為は、いずれも個々的には就業規則上本件処分理由とするに足りないが、これら一連の行為を全体として考察しても、これらはすべて本件確認書に関する争いに起因するものであるから、さきに押印拒否の点につき述べた事情を考えれば、いまだ本件処分理由とするには十分でない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例370号58頁
その他特記事項
本件は控訴された