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群馬(私立学園)名誉毀損事件

事件の分類
解雇
事件名
群馬(私立学園)名誉毀損事件
事件番号
前橋地裁 - 平成10年(ワ)第20号
当事者
原告学校法人G学園、個人1名 N

被告個人2名 A、B
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年01月13日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
原告G学園(原告学園)は、高校、短大の経営等を行う学校法人、原告Nはその理事長であり、被告Aは原告学園の国語科専任講師、被告Bは原告学園の事務次長である。

被告らは、かねてから原告学園における処遇、勤務条件等に不満を抱き、平成9年7月7日、ボーナスが支給された直後、原告N外3名に対し、突然面会を要求し、(1)被告らが後に自宅待機処分無効確認請求訴訟の訴状となる内容の文書(文書1)を原告Nらに突きつけて即刻理事等を辞任するよう要求し、(2)上記内容を違法でないというなら、この文面をそのまま世間に公表し、世間の判断を仰ぐ旨記載された文書(文書2)を突きつけた。その際、理事Pが辞任すると申し出たが、被告らは他の3名の辞任も要求して譲らなかったため、Pも辞意を撤回した。そこで被告らは、原告N外3名の辞任を受け容れられない場合は、文書1ないしそれに類した文書、文書2に記載された不正経理問題等をマスコミに公表するなどと迫った。その後午後11時45分頃まで断続的に交渉が行われたが、結局面談は決裂した。

原告学園は、こうした経緯を踏まえて、同月16日付けで被告らに対し自宅待機を命じたところ、被告らは同年11月、右自宅待機処分無効確認等請求を提訴した。その訴状は、原告学園において期末手当不支給や職員会議不開催などの問題が発生し、その原因の1つとして原告Nを巡る不正経理問題に関連があると考えたことから、その労働条件の改善を図る目的でなされたものである旨言及されていた。被告らは、同年11月6日に記者会見を開き、訴状の内容を説明した結果、翌7日の各紙に原告学園の不正経理を巡る争いについての記事が掲載され、原告学園は、同月20日付けで、被告らに対し普通解雇の処分をした。

原告らは、(1)被告らが原告Nらの即刻辞任を迫り、受け容れられない場合はマスコミに公表するなどと原告らを脅迫するとともに、原告らの名誉を毀損したこと、(2)組合の大会において組合員に対し、原告Nが原告学園の資金を不正経理により横領し、原告学園を私物化しているなどと原告らの名誉を毀損したこと、(3)記者会見において、原告Nが原告学園の資金を私的に流用しているなどと公言し、そのためあたかも原告Nに不正経理があるかのような記事が掲載されて原告らの名誉が毀損されたことなどを理由として、被告らに対し連帯して1000万円の慰謝料を支払うよう要求した。
主文
1 被告らは、原告学校法人群英学園に対し、連帯して金100万円及びこれに対する平成10年2月12日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告らは、原告Nに対し、連帯して金100万円及びこれに対する平成10年2月12日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。

3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、2分し、その1を原告らの連帯負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

5 この判決の原告らの勝訴部分は、仮に執行することができる。
判決要旨
被告らの行為は、それ自体では未だ原告らの社会的信用ないし評価を低下させ、侵害したものとはいえず、原告らの名誉を毀損したものであることは認め難い。しかしながら、被告らの右行為は、原告学園に勤務する職員として、その理事長ないし理事について適性があるか否か等の評価、更には退陣が相当か否か等について意見を陳述するという域をはるかに超えたものであって、原告学園の然るべき機関、委員会、会議等における右の点についての審議検討を経ないで、直接にかつ唐突に原告学園の理事である原告N外3名に対してその辞任を迫り、右辞任が受け容れられない場合には、本件文書1ないしそれに類似する文書、本件文書2に記載された不正経理問題等をマスコミに公表するなどと言って、右辞任を強要し、これをその場において一気に貫徹しようとしたものであって、原告学園における職場秩序を乱し、若しくはこれを危うくしたものであり、原告学園のみならず、原告Nに対しても違法性を帯びたものであったというべきである。したがって、被告らの右不法行為は、原告らに対する共同不法行為となると認められる。

右共同不法行為による原告らの右精神的苦痛を慰謝するための損害賠償額は、それぞれ100万円が相当と認められる。
適用法規・条文
民法709条、719条、723条
収録文献(出典)
労働判例799号45頁
その他特記事項
本件は控訴された。なお、本事件は、被告らから雇用関係存続確認等請求がなされ、第1審(前橋地裁 平成12年4月28日判決)では雇用関係の存続が認められたが、控訴審(東京高裁 平成14年4月17日判決)においてこれが取り消された。