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群馬(私立G学園)名誉毀損控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
群馬(私立G学園)名誉毀損控訴事件
事件番号
東京高裁 - 平成12年(ネ)第1104号
当事者
その他控訴人兼被控訴人(原審原告) 学校法人G学園、個人1名 N

その他被控訴人兼控訴人(原審被告) 個人2名 A、B
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年08月07日
判決決定区分
1審被告敗訴部分取消、1審原告請求・控訴各棄却(上告)
事件の概要
控訴人兼被控訴人(第1審原告)学校法人G学園(原告学園)は、高校、短大の経営等を行う学校法人であり、原告Nはその理事長である。一方、被控訴人兼控訴人(第1審被告)Aは原告学園の国語科専任講師、被告Bは原告学園の事務次長である。

被告らは、平成9年7月7日、原告N外3名に対し、突然面会を要求し、(1)後に自宅待機処分無効確認請求訴訟の訴状となる内容の文書(文書1)を原告Nらに突きつけて即刻理事等を辞任するよう要求し、(2)上記内容を違法でないというなら、この文面をそのまま世間に公表し、世間の判断を仰ぐ旨記載された文書(文書2)を突きつけた。そこで被告らは、原告N外3名の辞任が受け容れられない場合は、文書1ないしそれに類した文書、文書2に記載された不正経理問題等をマスコミに公表するなどと迫ったが、面談は決裂した。

原告学園は、こうした経緯を踏まえて、同月16日付けで被告らに対し自宅待機を命じたところ、被告らは同年11月、右自宅待機処分無効確認等請求を提訴し、同月6日に記者会見を開き、訴状の内容を説明した。その結果、翌7日の各紙に、原告学園の不正経理を巡る争いについての記事が掲載され、原告学園は、同月20日付けで、被告らを普通解雇処分とした。

原告らは、(1)被告らが原告Nらを脅迫するとともに、原告らの名誉を毀損したこと、(2)組合の大会において、原告Nが原告学園の資金を横領したなどと名誉を毀損したこと、(3)記者会見において、原告Nが原告学園の資金を私的に流用しているなどと公言し、そのため原告Nに不正経理があるかのような記事が掲載されて原告らの名誉が毀損されたことなどを理由として、被告らに対し連帯して1000万円の慰謝料を支払うよう要求した。
第1審では、被告らの行為は原告らに対する共同不法行為に当たるとして、被告らに対して連帯して100万円の支払を命じたことから、原告、被告双方がこれを不服として控訴した。
主文
1 原判決中被控訴人兼控訴人(原審被告)ら各敗訴の部分をいずれも取り消す。

2 控訴人兼被控訴人(原審原告)らの各請求をいずれも棄却する。

3 控訴人兼被控訴人(原審原告)らの控訴をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、1、2審を通じて、控訴人兼被控訴人(原審原告)らの負担とする。
判決要旨
控訴人兼被控訴人(第1審原告)らが被控訴人兼控訴人(第1審被告)らに対して、その使用者側という優位な立場にあることや原告Nらの原審法定における証言や供述の態度等からしても、右の面談に臨むに当たっての被告らの危惧には首肯できるところがあり、その場で被告らの側に、殊更に脅迫あるいは強要にわたる言動があったとまですることには、疑問があるというべきである。もっとも、交渉の席で被告らが配布した文書1及び文書2に、被告らの要求が容れられない場合にはこれらの文書の内容を世間に公表するつもりであるとの記載があったことからして、被告らから原告らに対して、その場でそのような意向が伝えられたことが推認できる。しかし、被告らが、右の要求が容れられない場合には、原告らの不正経理問題等を直ちにマスコミ等に公表するとまでする趣旨の発言をしたとの事実については、被告らの側ではこれを否定する供述をしており、他にこの事実を認めるに足りる的確な証拠もない(むしろ、被告らがこの事実をマスコミに公表したのは、それから約4ヶ月も後の、しかも原告学園が被告らに対して自宅待機処分を行ったことから、被告らがその処分の無効確認を求める訴訟を提起した段階に至ってからのことである)ことなどからして、この事実があったとすることには、なお疑問があるというべきである。

被告らが、平成9年7月8日及び11日に、高校組合及び短大組合を訪ねて両組合の役員に対して説明した機会に、原告らによる原告学園の運営に関して、何らかの不正行為があったとの説明がなされたことは、十分に推認できるところというべきである。もっとも、右の説明が、いわば被告らの内部関係者ともいうべき立場にある者に対して行われたに過ぎないものであり、しかも経理の不正行為の内容等については、どの程度まで具体的な事実を摘示した説明が行われたかの点が不明であることなどからすれば、このような説明が、直ちに原告らに対する関係で名誉毀損の不法行為を構成するものとまですることは困難なものというべきである。

昭和59年11月のA工営によるK館の改修工事は、その時期は多数の生徒が授業を受けている時期であって、工事を行うことが困難であることからしても不自然であり、またA工営がその改修工事を行ったものとしてされた会計事務処理については、見積書等の書類が作成された形跡がないなどの多くの不審な点があり、当時のK館館長も不正な支出であった旨陳述しており、更に改修工事の内容にも、当時の建物の現状等と合致しないなどの不自然な点が認められ、むしろ、これが原告Nの用途に充てる資金を捻出するために行われた架空の工事であることを疑わせるような多くの資料等が存在していることが認められる。これらの事実からすれば、被告らが記者会見の場で公表したA工営によるK館の工事に関して原告Nによる経理上の不正行為があったとする事実については、真実右の工事が架空のものであったか否かはともかくとして、被告らにおいて、少なくとも、この工事が架空のものであって、この工事代金の支払いに関して原告Nに不正行為があったものと信ずるについて、相当な根拠があったものというべきである。そうすると、被告らによる右のような事実の公表は、前記のような事実経過からして、私立学校法に基づいて設立された学校法人として適正な会計事務の処理を義務付けられている原告学園の会計事務処理の適否という公共の利害に関する事実について、原告学園の運営の適正化という公益目的から行われたものと考えることができるから、これは原告Nらに対する名誉毀損行為として不法行為を構成するものではないということになる。
平成9年7月7日の原告Nらに対する辞任要求の場において、被告らの側に殊更に脅迫、強要にわたる言動があったとまですることには疑問があるが、右の席で被告らが配布した文書1及び2に、辞任要求が容れられない場合にはこれらの文書の内容を世間に公表するつもりであるとの記載があったことからして、被告らから原告Nらに対して、その場でそのような意向が伝えられたことが推認できる。しかし、原告学園においては、従前から原告Nによるその運営を巡って紛争があり、理事者側からさえも原告Nには多くの不正行為があるものとしてその退陣を要求しようとする動きが出たこともあること、更に、少なくともA工営によるK館の工事に関する原告Nによる不正経理問題については、被告らがこれを真実であるものと信ずるについて相当な根拠があったと考えることなどの各事実関係からすれば、この被告らの原告Nに対する辞任要求行為が違法な脅迫、強要行為として不法行為を構成するものとまですることには、なお疑問があるものとせざるを得ない。また、この席でのやり取りが、原告Nを含む原告学園の理事者側のメンバー4名と被告らという限られた者の間で、しかも他とは独立した室内において行われたものと考えられることからすると、これが原告らに対する名誉毀損を構成することも困難といわざるを得ない。
適用法規・条文
民法709条、723条
収録文献(出典)
労働判例799号40頁
その他特記事項