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宮崎(信用金庫)機密漏洩懲戒解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 宮崎(信用金庫)機密漏洩懲戒解雇事件
- 事件番号
- 宮崎地裁 - 平成10年(ワ)第1252号
- 当事者
- 原告 個人2名 A、B
被告 信用金庫 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年09月25日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告Aは、昭和50年9月被告に雇用され、平成8年2月から平成10年4月まで西都支店係長として勤務し、平成9年8月まで労働組合副執行委員長を務めていた者であり、原告Bは、昭和44年4月、被告に雇用され、平成8年9月から平成10年4月まで本店営業部に勤務し、平成9年8月まで労働組合副執行委員長を務めた者である。
原告らは、三役交渉等の場を通じて、被告における顧客と行員との不正な関係、迂回融資などの不正疑惑を追及していた。被告Bは、平成8年3月、本件批判書(1)を作成して被告総務部長宛郵送し、同年4月本件批判書(2)を同部長に郵送した。これら文書には、人事異動に対する批判が述べられ、人事の是正や役員の背任の調査要求が認められない場合は、資料を公にする旨記載されていた。また原告らは、前理事長に関連する情実融資、迂回融資との疑いを持って調査を行い、被告が管理する本件管理文書(4)の写を取得し、同社の信用情報が記載された稟議書(本件管理文書(3)の一部)の写を取得する等の資料収集を行った上で、三役交渉の場で被告に対し右疑惑を追及した。また、原告Aは、平成8年5月から7月頃にかけて収集した被告の不正疑惑に関する資料を、衆議院議員秘書及び県警に提出した。
被告は、調査の結果、本件信用情報にアクセスするオペレーターカードが原告A、同Bらに交付されたものであることを突き止め、文書の写が広く出回ることを懸念し、平成9年2月、窃盗事件として告訴した。同告訴は同年12月に取り下げられたが、その頃本件資料の流出について調査委員会を設けて関係職員から事情聴取し、その結果に基づき、本件資料の漏洩について原告らの関与が明らかであるとして、平成10年4月10日、原告らを懲戒解雇処分とした。これに対し原告らは、本件懲戒解雇は無効であるとして、解雇無効の確認と賃金の支払を請求した。 - 主文
- 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 懲戒解雇事由該当性の存否
本件文書のうち、アクセスして情報を印刷し、又は文書を複写してその写を取得したことが認められ、右印刷した文書及び写は、いずれも被告の所有物であるから、これを業務外の目的に使用するために、被告の許可なく業務外で取得する行為は、被告就業規則の窃盗に該当することは明らかである。
本件信用情報には、会員の出資額、顧客ランク、融資額、融資条件、返済方法、延滞状況、担保明細が記載され、本件管理文書の(3)及び(4)には、手形の支払義務者の不渡り等の信用情報が記載されている。これらの情報は、当該顧客にとって高度のプライバシーに属する事項であり、また金融機関の融資の相手方に対する評価は、当該金融機関にとって最高機密に属する事項である。したがって、金融機関として顧客に対し高度の秘密保持義務を負い、機密情報を厳格に管理すべき立場にある被告が、職員に対し、担当業務の遂行に関係のない目的でこのような機密情報にアクセスしたり、機密情報の記載された文書を複写したりすることを許容することはあり得ない。
原告らは、資料収集行為は、不正行為を指摘する目的であるから正当な行為である旨主張するが、正当な目的によって、これを実現するための手段までが当然に正当となることはない。企業の従業員には、使用者から特に調査の権限を与えられているなどの特段の事情がない限り、社内の業務が適正に遂行されていることについて調査し、資料を収集する権限はなく、金融機関においても、職員が内部の不正を摘発する目的で権限なく捜索類似の行為を行うことは許されないというべきである。したがって、不正摘発目的であっても、原告らが顧客の信用情報に対しアクセスしたり、探索することは正当行為として評価することはできない。
2 本件懲戒解雇の相当性
原告らの行為は、勤務時間中に、業務遂行のために交付されたオペレーターカードを使用して、自己使用目的で、業務とは無関係に顧客に関する信用情報を収集したものであって、顧客の被告に対する信用を裏切るものであり、このような行為が自由に行われることになれば、収集した資料の管理が個人に委ねられる結果として、故意又は過失による顧客の情報の外部流出を招き、顧客の信用及び被告に対する信頼に重大な影響を及ぼし、被告の存立を脅かすに至る事態が生じかねない。したがって、原告らの行為は、金融機関の職員として重大な規律違反行為といわざるを得ない。原告らが被告内部の不正を糺したいとの正当な動機を有していたとしても、その実現には社会通念上許容される限度内での適切な手段方法によるべきであり、右行為を容認する余地はない。
原告らが、原告Bが執行部に参加後、収集した資料を複写して組合幹部それぞれに保管させていた事実からすれば、本件資料は、原告ら等の組合幹部、あるいはこれらの者から預かっていた秘密保持義務を負わない第三者の元から外部に流出したものと推認される。そして、原告らは、本件資料の内容を知っていたから、その機密性について認識し、これを相互に厳正に管理すべき立場にあったところ、収集した資料の秘密保持のため特段の措置を講じた形跡はないから、右保管者のいずれから外部に流出したものであったとしても、その結果について責任を負うべきものである。
使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。これを本件についてみるに、原告らの懲戒解雇事由該当行為の態様、その結果の重大性からすれば、被告の不正行為を糺したいという原告らの動機や原告らの勤務態度等の事情を考慮しても、本件懲戒解雇には客観的に合理的な理由があると認められるから、本件懲戒解雇が相当性を欠き、懲戒権を濫用したものであるとする原告らの主張は採用できない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例833号55頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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宮崎地裁 - 平成10年(ワ)第1252号 | 棄却(控訴) | 2000年09月25日 |
宮崎地裁 - 平成10年(ワ)第1252号 | 控訴認容(原判決取消)(上告) | 2002年07月02日 |