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茨城(合成樹脂簡易食品容器製造会社)配転拒否退職強要控訴事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- 茨城(合成樹脂簡易食品容器製造会社)配転拒否退職強要控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成11年(ネ)第3834号(損害賠償等控訴)
- 当事者
- その他控訴人兼附帯被控訴人 株式会社
その他被控訴人兼附帯控訴人 個人6名 A、B、C、D、E、F - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年05月24日
- 判決決定区分
- 控訴認容・附帯控訴棄却(上告)
- 事件の概要
- 控訴人兼被控訴人(以下「控訴人」)は、合成樹脂簡易食品容器の製造販売等を業とする株式会社であり、被控訴人兼控訴人(以下「被控訴人」)らは、いずれも控訴人関東工場に勤務していた者である。
控訴人は、平成8年10月23日、原告らを含む10名に対し、同年12月16日から本社福山工場に転勤するよう要請し、転勤に応じられないのであれば年内に辞めるように強く申し向けた。控訴人は、本社工場の人員が不足していると説明したが、被控訴人らが転勤対象者として人選された理由については一切説明せず、被控訴人らに対し「転勤命令後14日以内に行かなければ懲戒免職である」と言明した。
その後も控訴人は強硬な姿勢を崩さなかったため、被控訴人D、E、Fの3名は自己都合を理由とする退職届を提出した一方、被控訴人A、B、Cは納得せず、配転効力停止等仮処分申立をしたが、保全の必要性を欠くとの理由で却下された。
控訴人は、平成9年3月2日、3課を合わせて1社で分社するとして、「分社移籍の意思確認」を始めたが、これら一連の措置は、被控訴人Aら3名に対する戦力外通告(退職強要)と同時に、訴訟にまで及んだことに対する報復・嫌がらせであると同人らは感じ、被控訴人A、B及びCは、同年4月ないし5月に退職の意思表示をした。被控訴人らは、控訴人の退職強要による退職の無効を主張し、得べかりし賃金及び退職金の支払いを請求するとともに、慰謝料について、被控訴人A、B、Cについては各200万円、被控訴人D、E、Fについては各100万円支払うよう請求した。
第1審では、控訴人の一連の行為は、被控訴人らに対する債務不履行又は不法行為に当たるとして、被控訴人A、B、Cに対しては100万円、被控訴人D、E、Fに対しては50万円の慰謝料を認めたことから、控訴人はこれを不服として控訴する一方、被控訴人らは賠償額を不服として附帯控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴に基づき、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。 - 判決要旨
- 被控訴人らの本社工場への転勤は、控訴人の経営合理化の一環として行われることになった関東工場の生産部門の分社化に伴って生じる余剰人員の雇用を維持しつつ、新製品の開発・製造のために本社工場に新設された新規生産部門への要員を確保すべく、控訴人の組織全体で行われた人事異動の一環として計画されたものであって、控訴人の置かれた経営環境に照らして合理的なものであったと認められ、被控訴人らを転勤要員として選定した過程に格別不当な点があったとは認められない。被控訴人らが遠方の広島県福山市へ転勤することについては、それを容易に受け容れられない各人それぞれの事情があることは、それなりに理解できなくはないものの、被控訴人らが勤務先を関東工場に限定して採用されたとの事実を認めるに足りないし、就業規則上も「会社は業務上必要があるときは転勤、長期出張を命ずることがある。この場合、社員は正当な理由なくこれを拒むことができない」旨明記されているのであって、被控訴人らもこれを承知した上で勤務してきたものと認められる。そして、被控訴人らが転勤に応じられない理由として述べた個別事情も、それ自体転勤を拒否できる正当な理由に当たるとまでいうことはできない。
転勤を命じる場合の人選は、会社がその責任と権限に基づいて決定すべきもので、その理由は人事の秘密に属し、これを対象者に明らかにしなかったからといって、それを違法ないし不当とすることはできない。しかも、控訴人は、いわゆるバブル経済崩壊後の厳しい経済環境の下で何とか同業他社との激しい競争に生き残るため経営合理化を図らざるを得ない会社の事情と会社がそのために採ろうとしている経営方針等を従業員に周知させるとともに、平成8年10月21日以降、被控訴人らを含む10名に対し、経営合理化策の一環として関東工場の生産部門を分社化せざるを得ない会社の事情や新設の製造部門の重要性とその要員として被控訴人らを転勤させる必要性を個別面接や数次にわたる説明会等を通じて説明し、被控訴人ら3名による仮処分申立を契機としてではあるが、右3名に対する転勤命令の発令を本人らの同意が得られるまで延期する措置をとるとともに、本部長との話合いの場を設けて説得に努め、更に右3名に本社工場の事情を知ってもらうため福山への出張を命じたり、関東工場の近くにある関連会社を出向先として紹介するなど、被控訴人らが円滑に本社工場に転勤できるよう、また被控訴人Aら3名については、関連会社に出向という形で就職できるよう、最大限の努力をしたものと認められる。そうとすれば、控訴人が被控訴人らを本社工場に転勤させようとしたことに、人事権の行使として違法ないし不当な点があったと認めることはできない。
控訴人の就業規則には、「転勤を命ぜられた者は14日以内に赴任しなければならない」と規定され、社員が「正当な理由がなく仕事上の指揮命令に従わなかったとき」は懲戒解雇する旨規定されているから、転勤命令が発令されて14日以内に赴任しないときは、懲戒解雇される場合があることになる。そして、平成8年11月29日に行われた説明会において、工場長が被控訴人らに対して「転勤命令を出して14日以内に行ってもらえないときは懲戒解雇になる」と述べたことが認められるのであって、このことに照らすと、部長が「懲戒解雇する」とか「辞めろ」と述べたとすれば、転勤命令が発令された場合に、14日以内に赴任しなかったときは懲戒解雇されることがあるとの就業規則の説明をしたに止まるものと認めるのが相当である。
被控訴人Aら3名が平成8年12月11日以降様々な嫌がらせを受けたと主張する。まず従来女子パート従業員が行っていた業務を担当させられ、無理な作業姿勢を余儀なくされたという点については、作業テーブルの高さは男子でも作業に著しい支障が出るほどではなかったことが認められる上、被控訴人Aら3名は主にその後の工程である包装作業をしていたことが認められる。残業がなくなったという点については、残業の必要性がなかったものと推認するほかない。他の従業員から「まだいるのか」「いつまでいるんだ」などの陰口を聞かれた点については、仮にそのような事実があったとしても、控訴人が他の従業員にそのようなことをさせていたことを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり、被控訴人らは、控訴人が業務の必要に基づいて行った本社工場への転勤要請を拒否して、各人の意思に基づいて控訴人を退職するに至ったものであって、被控訴人Dら3名はもとより、被控訴人Aら3名も、自己都合により退職したものと認めるほかはなく、その退職を会社都合のものと認めることはできないし、退職に至るまでの過程で、被控訴人ら主張のような人事権の違法ないし不当な講行使があったとは認めることはできず、控訴人による報復や嫌がらせ行為があったとの事実も認めることができない。したがって、被控訴人らの退職について、控訴人に債務不履行ないし不法行為責任があるとの被控訴人らの主張は理由がないことが明らかである。 - 適用法規・条文
- 民法415条、709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例785号22頁
- その他特記事項
- 本件は上告された
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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水戸地裁下妻支部地裁 − 平成9年(ワ)第108号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1999年06月15日 |
東京高裁−平成11年(ネ)第3834号(損害賠償等控訴) | 控訴認容・附帯控訴棄却(上告) | 2000年05月24日 |