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千葉(航空会社)暴力行為等事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 千葉(航空会社)暴力行為等事件
- 事件番号
- 千葉地裁 − 平成3年(ワ)第314号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 航空会社、個人5名 A、B、C、D、E - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1994年01月26日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、昭和48年5月に被告会社に雇用され、昭和53年5月に成田空港支店の旅客課に配置転換になった。被告Aは、成田空港支店の支店長、同Bは同支店部長補佐で昭和55、56年度の組合執行委員長、同Cは旅客課課長代理で昭和56年度から58年度までの執行委員長、同Dは旅客課の主任で昭和57、58年度の書記長、同Eは同支店運行搭載課に所属し、昭和55,56年度に組合中央執行委員を務めていた。
被告会社は、昭和56年3月、経営不振を理由に組合との間で募集退職人員を70名とする内容の協定を締結して、これにより60名の職員が退職した。原告は、希望退職募集が始まった同年3月23日以降、管理職や組合幹部から退職を強要されたが、希望退職届を提出しなかったため、募集最終日の同年4月2日には、管理職らが原告に対し、「希望退職届を書け」と怒鳴ったり、チョークの粉を原告の制服に付けたりした。希望退職募集明けの翌3日には、被告会社は原告に対し「仕事は何もしなくて良い」と申し渡し、同月6日から被告会社は原告を1人だけ旅客課内のセクレタアの部屋に隔離して会社再建のためのレポートを提出するよう指示し、これを提出しようとしない原告に対し、管理職らが侮辱的言辞を弄するなどして嫌がらせを行った。被告会社は同年6月9日から原告を遺失物係に配属したが実質的な仕事はさせず、同年12月には1人でできる業務として統計作業を行うよう指示した。
昭和59年10月に入り、被告らは原告に対し「ふざけるな、気違い、バカ野郎、赤ダニ」などと罵倒し、タバコの火を顔に押し付け、顔面を殴るなどの暴力行為を行うなどしたほか、机の上にゴミを捨てるなどした。また、組合の職場集会において、原告が会社再建に対する組合の姿勢を問題視する発言をしたところ、被告らは原告を「禁治産者」、「ウジ虫」呼ばわりし、原告が職場集会の模様を無断で録音したテープを奪おうと取り囲んでもみくちゃにしたりした。また、同年11月、12月には、被告らは原告にビンタを浴びせたり、コーヒーをかけたりしたほか、被告Eは原告に2、3度腰投げを掛け、そのため原告は頸部外傷(後頭部打撲)の診断を受け、昭和60年1月16日まで入院し、退院して頸椎カラーを着用して出勤すると、同僚が「みっともない格好をするなら休んだら」と言って、原告をからかうなどした。
原告は、被告B、C、D、E(被告Bら)は、原告を退職に追い込むことを目的として、継続的に暴力行為を行い、もって原告の快適で安全に就労する権利等の人格的利益を侵害したとして、民法709条及び719条1項により損害賠償責任を負うこと、被告Aは支店長という立場から被告Bらをして原告に対し暴力行為を行わせたことから民法709条に基づいて損害賠償責任を負うこと、被告会社は労働者が安心して職務に従事することができるよう職場環境を良好に保つべき環境配慮義務があるのに、被告らの暴力行為等を長期間放置したこと、仕事差別によって原告の人間としての尊厳を傷つけたことにより民法709条、715条に基づく損害賠償責任を負うことを主張し、被告会社及び被告Aについては2000万円(暴力行為等に対するものとして1500万円、仕事差別に対するものとして500万円)、被告Bら4名に対しては1500万円の慰謝料、弁護士費用として200万円を連帯して支払うよう請求した。 - 主文
- 1 被告航空会社、B、C、D、Eは、原告に対し、連帯して、金230万円及びこれに対する被告航空会社は昭和60年8月10日から、被告A、B、Cは同月8日から、被告Dは同月14日から、いずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告航空会社、同Aは、原告に対し、連帯して、金100万円及びこれに対する平成5年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 この判決は第1、2項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告らは、昭和56年3月の合理化の際、原告と他の職員との間に溝ができ、また遺失物係においては原告の能力が劣っていたため統計の仕事をさせたと主張し、被告Bは原告の業務処理能力が著しく悪く注意しても改善されないため、1人でもできる統計の仕事に配転した旨の供述がある。しかし、原告は昭和56年以前に接遇関係の仕事をしている際には数度査定昇給が行われており、その職務能力が著しく劣っているとは評価されていなかったこと、昭和56年3月の合理化の際、原告と他の職員との間に溝ができた事実はないこと、原告は遺失物係に配属された初日から被告Bを始め他の職員から疎んぜられ、仕事も与えられていなかかったため、旅客との間でトラブルが起きることはなかったことが認められ、これらの事実を総合すれば、原告の職務内容を変更して同人を統計作業に従事させたことに合理的理由は認められない。
職務内容変更に合理的理由がないことと、原告が統計作業に従事させられるようになった経過を合わせ考慮すれば、右職務内容の変更は、原告を退職に追い込むという不当な動機、目的の下に行われた仕事差別であると推認することができ、これにより原告は、約7ヶ月間にわたり、有用性に疑問のある統計作業に従事させられた。したがって、右職務内容の変更は、管理職である被告Bが旅客課において命じたものであるところ、これは労働指揮に名を借りて、原告が仕事を通じて自己の精神的・肉体的能力を発揮させ、ひいては人格を発展させる重要な可能性を奪うものであり、かつ原告にことさら屈辱感を与え、原告に対する誇りと名誉等の人格権を侵害した違法な行為として、暴力行為等とは別の不法行為を構成するものというべきである。
被告Bらは、原告に対してそれぞれ暴力行為等を加えているから、これについて不法行為が成立し、右4名は民法719条1項前段に基づき共同不法行為責任を負担する。これに対し被告らは、組織的系統的なものではなく、またそれぞれの実行行為者が異なり、時間、場所、行為も異なるから継続的な一個の不法行為とはいえない旨主張する。確かに各暴力行為等の実行行為者はその都度異なるし、また各事件ないし事実の直接のきっかけも同じではない。しかしながら、本件暴力行為等の大半は勤務時間中に旅客課事務所内で行われたものであるし、またいずれも昭和56年頃被告会社の職員が原告を退職に追い込む目的で暴力行為を加えるなどした背景の下に、しかも、被告Bらが明示又は黙示の共謀の下に、あるいはそれを察した被告会社職員が行ったものであるから、それぞれ実行行為者及びきっかけが異なるとしても、各々別個の不法行為が成立するのではなく、全体として一個の不法行為が成立すると解される。
被告Aは、少なくとも仕事差別を知り得たのであり、それにもかかわらず何ら対処しなかったことは、同人の成田空港支店長たる立場に照らせば違法と言うことができ、この点についてのみ民法709条の不法行為が成立する。被告Bらを始めとする被告会社職員が原告に対して行った暴力行為等は、被告会社が積極的に行わせ、あるいは被告会社においてこれを知り又は知り得る状況にあったにもかかわらず放置したものとは認められないから、被告会社に民法415条の債務不履行責任又は同法709条の不法行為責任は生じない。しかしながら、被告Bら及び原告に暴力行為等を加えたその他の被告会社職員には民法709条の不法行為が成立し、それらの暴力行為等は、就業時間中に、就業場所で行われたものであるから、被告Bら及びその他の被告会社職員が職務を行うにつき行ったものということができ、被告会社は民法715条1項の使用者責任を負担する。
統計作業は被告会社が積極的に行わせ、あるいは被告会社においてそれを知り又は知り得る状況にあったにもかかわらず放置したものとは認められないから、被告会社に民法709条の不法行為責任は生じない。しかしながら、統計作業は、被告Bが原告に指示して行わせ、また被告Aはこれを少なくとも知り得たのであるから、右両名に民法709条の不法行為が成立し、また右統計作業の指示は被告会社の業務として行われたものであるから、被告会社は民法715条1項の使用者責任を負担する。
右のとおりであるから、暴力行為等については、被告Bらは民法719条1項前段に基づいて連帯して損害賠償責任を負い、また被告会社の責任は民法715条1項の使用者責任であり、結局被告Bらと被告会社が連帯して損害賠償責任を負担する。仕事差別については、被告会社の責任は、被告A及び同Bの不法行為責任についての使用者責任であるから、被告会社と同Aは連帯して損害賠償責任を負担する。
原告が被告らの不法行為によって被った精神的損害は、被告らが行った暴力行為等及び仕事差別の目的及び態様、その期間の長さ、本件期間後から口頭弁論終結に至るまでの被告らの対応、原告の責めに帰すべき事由が特にないこと、その他本件訴訟に現れた一切の事情を勘案して、暴力行為等に対するものとして金200万円、仕事差別に対するものとして金100万円をもって慰謝するのを相当とする。また弁護士費用は30万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、715条、719条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例647号11頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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千葉地裁−平成3年(ワ)第314号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1994年01月26日 |
東京高裁 − 平成6年(ネ)第512号、東京高裁 − 平成6年(ネ)第513号、東京高裁 − 平成6年(ネ)第2819号 | 一部認容・一部棄却、附帯控訴棄却(確定) | 1996年03月27日 |