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千葉(航空会社)暴力行為等控訴事件

事件の分類
その他
事件名
千葉(航空会社)暴力行為等控訴事件
事件番号
東京高裁 − 平成6年(ネ)第512号、東京高裁 − 平成6年(ネ)第513号、東京高裁 − 平成6年(ネ)第2819号
当事者
その他第513号事件控訴人・附帯被控訴人 航空会社、個人1名 A

その他第512号事件控訴人・附帯被控訴人 個人4名 B、C、D、E

その他第512号・第513号事件被控訴人・附帯控訴人 個人1名
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年03月27日
判決決定区分
一部認容・一部棄却、附帯控訴棄却(確定)
事件の概要
控訴会社(第1審被告)は、大幅な赤字を累積させる状況になったことから、昭和56年3月に組合の同意を得て合理化策の周知徹底を図り、その上で70名の希望退職の募集を行ったが、募集人員には遙かに及ばなかったことから、控訴人会社は再募集を行い、60名が希望退職者に応じた。

控訴会社は、被控訴人(第1審原告)に対し希望退職に応じるよう退職勧奨したところ、被控訴人がこれに応じないことから、組合の幹部であった控訴人らは被控訴人に対し、希望退職届を書くよう迫ったが、被控訴人は希望退職願を提出しなかった。そのため、被控訴人は管理職らから怒鳴られたり、仕事を干されたりし、更に他の社員から隔離されるなどの嫌がらせを受けた。その後被告会社は被控訴人を遺失物係に配属したが実質的な仕事はさせず、更に1人でできる業務として統計作業を行うよう指示した。

昭和59年10月に入り、控訴人らは被控訴人に対し、罵倒したり、タバコの火を顔に押し付け、顔面を殴るなどの暴力行為を行うなどし、組合の職場集会において、被控訴人が会社再建に対する組合の姿勢を問題視する発言をしたところ、控訴人らは被控訴人を「禁治産者」、「ウジ虫」呼ばわりした。また、控訴人らは被控訴人にビンタを浴びせたり、コーヒーをかけたりしたほか、腰投げを掛け、そのため被控訴人は頸部外傷(後頭部打撲)の診断を受け、昭和60年1月16日まで入院するに至った。

被控訴人は、控訴人B、C、D、E(控訴人Bら)が被控訴人を退職に追い込むことを目的として、継続的に暴力行為を行い、もって被控訴人の快適で安全に就労する権利等の人格的利益を侵害したとして、民法709条及び719条1項により損害賠償責任を負うこと、控訴人Aは支店長という立場から控訴人Bらをして被控訴人に対し暴力行為を行わせたことから民法709条に基づいて損害賠償責任を負うこと、控訴人会社は労働者が安心して職務に従事することができるよう職場環境を良好に保つべき環境配慮義務があるのに、控訴人らの暴力行為等を長期間放置したこと、仕事差別によって被控訴人の人間としての尊厳を傷つけたことにより民法709条、715条に基づく損害賠償責任を負うことを主張し、控訴人会社及び控訴人Aについては2000万円、その余の控訴人に対しては1500万円の慰謝料、弁護士費用として200万円を連帯して支払うよう請求した。
第1審では、控訴人会社及び控訴人らの不法行為を認め、控訴人らに対し、暴力行為について200万円、仕事差別について100万円、弁護士費用として30万円の支払いを命じたことから、控訴人らはこれを不服として控訴に及んだ。
主文
1 控訴人Aの控訴に基づき、原判決主文第1項中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

一 控訴人Aは、被控訴人に対し、23万円及びこれに対する昭和60年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 被控訴人のその余の請求を棄却する。

2 その余の控訴人らの各控訴及び被控訴人の附帯控訴をいずれも棄却する。

3 訴訟費用のうち、控訴人Aと被控訴人との間に生じた分は、第1・2審を通じてこれを10分し、その1を右控訴人の、その余を被控訴人の各負担とし、その余の控訴人らと被控訴人との間に生じた控訴費用は、控訴に係る分は右控訴人らの、附帯控訴に係る分は被控訴人の各負担とする。
判決要旨
控訴人Bらは、一連の行為に基づく被控訴人の損害につき連帯して賠償責任を負うというべきである。控訴人Aは、少なくとも仕事差別を知り得たのであり、それにもかかわらず何らの対応もしなかったものであるところ、同控訴人が成田空港支店長たる立場にあったことに照らせば、右の不作為は違法というべきであるから、この点について、同控訴人は民法709条により損害賠償責任を負う。

一連の暴力行為等は、業務遂行過程における些細な事柄に端を発して、いずれも就業時間中に就業場所において行われた被用者同士の行為であり、被控訴人の損害は、控訴会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によって加えられたものであるということができるので、民法715条1項にいう控訴会社の「事業ノ執行ニ付キ」行われたものであり、控訴会社は被控訴人に対して損害賠償責任を負うというべきである。仕事差別が、控訴会社の被用者であるK及び控訴人Bにより、控訴会社の「事業ノ執行ニ付キ」行われたことは明らかであるから、控訴会社は被控訴人に対して損害賠償責任を負うというべきである。

被控訴人は、暴力行為や仕事差別を受けてきたのであり、これが被控訴人に対する違法な侵害であることはいうまでもない。しかしながら、暴力行為等の点については、被控訴人が、他の職員との協調性に乏しく、他の職員から遊離した存在になっていたことなどの事情があり、被控訴人のような態度が控訴人らの暴力行為等を誘発する一因となり、同じ課員として被控訴人と接触する機会の多い旅客課職員が被控訴人に対し反発し、一緒に仕事をしたくないとの気持ちから、ひいては被控訴人の退職を望んで嫌がらせをするようになり、これが行き過ぎて暴力行為等にまで至ったものと推認することができ、また被控訴人が受けた暴力行為の程度については、医師の診断を受けていないものについては、言葉で表現したところから受ける印象よりも軽度なものであったと推認される。更に仕事差別の点については、控訴会社は、被控訴人につき、入社以来、勤務成績及び勤務態度が悪く、チームの一員として他の職員と協調して上司の指示に従って正しく仕事をする態度に欠けるなどと評価してきたものであり、またそれ故に希望退職者の募集期間内において、退職勧奨対象者として、退職方を強く説得してきたものであるところ、昭和56年3月、第2次協定に基づく希望退職者の募集期間が経過し、かつ、勇退勧告をしないとの確認書に調印された後にも、被控訴人が前認定のような態度を示し、他の同僚職員との協調性を欠くに至ったため、Kらが被控訴人に対する態度を硬化させ、同年4月から前記のような仕事を行わせるようになったものであるから、Kらの採った措置も理解できないわけではない。しかしながら、被控訴人が右のような態度を示すようになったことには、希望退職者の募集期間中とはいえ、管理職等が勤務時間内外にわたり、被控訴人に対して執拗に希望退職届を提出するよう強く要請し続けたことにもその一因があり、被控訴人が前記のような態度を取ったことにつき被控訴人のみを責めることはできない。
以上の事情及び本件訴訟に顕れた一切の事情を勘案すれば、被控訴人に対する慰謝料としては、暴力行為等に対するものとして総額200万円(控訴人Eが責任を負うのはこのうち20万円)、仕事差別に対するものとして100万円が相当であると認められ、弁護士費用としては20万円(控訴人Eが責任を負うのはこのうち3万円)が相当である。
適用法規・条文
民法709条、715条1項
収録文献(出典)
労働判例706号69頁
その他特記事項