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大阪(H運輸倉庫)諭旨解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 大阪(H運輸倉庫)諭旨解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁堺支部 - 昭和52年(ヨ)第217号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1978年01月11日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 申請人は昭和50年10月2日被申請人大阪営業所の運転手として雇用され、被申請人会社(会社)の運送業務に従事してきた。
会社は、労災事故防止対策の一環として、各事業所に全員参加の職場安全会議を設置・開催していたところ、昭和52年5月28日の夕刻、申請人は安全会議の遅延に腹を立て、所長に対し、会社のやり方が全て気にくわない等の暴言を浴びせ、脅迫的な捨て台詞を残して、同会議の出席を拒否して帰宅した。同月31日の話合いでは、会社側は申請人が職場安全会議を欠席したこと、職場の秩序を乱したことにつき反省を求めたところ、申請人は所長から解雇と言われたことを追及し、所長はこれを取り消した上で、申請人に対し、今後仕事を続けるために、(1)職場安全会議には出席する(2)同僚と協調して誠実に仕事をする、(3)車両の整備点検を十分にし、得意先の貨物積み下ろしの指示に従うことを申し入れた。翌6月1日、申請人は一応会社の意向を容れて仕事をすると言ったが、所長らとのわだかまりが氷解するまでには至らず、翌2日、所長は5月28日の会議欠席等について、けじめをつける趣旨で申請人に始末書の提出を求めたところ、申請人はこれを拒否した。
申請人の件は自分の手に余ると考えた所長は、岡山支店長に指示を仰いだところ、事情聴取のため申請人を出頭させよとの指示がなされ、同月3日、所長は申請人に対し、当日岡山支店に出頭するよう指示したが、申請人はこれに応じなかった。翌4日、所長は本社から申請人についての懲罰委員会に出席するよう指示を受け、申請人に伝えたが、拒否され、所長だけが出席して一連の経過を説明した。同月7日に再び懲罰委員会が開かれ、申請人も出席したが、説明を求められた申請人は討議事由を書面にすることに固執し、聴取は進まなかった。組合側委員は減給と7日間の出勤停止、会社側委員は懲戒解雇をそれぞれ相当としたところ、会社は右懲罰委員会の結果に鑑み、申請人を諭旨解雇処分とし、同月10日、申請人にこれを通告した。
なお、本件解雇通告書には、上記職場安全会議での出来事のほか、(1)自動車事故を起こした際、相手に暴行を加えたとして、罰金1万円に処せられるとともに、懲戒処分に付されて始末書を提出した、(2)乗務する車両に無線機を取り付け、取り外しを指示されながら容易にこれに応じなかった、(3)シートを2枚掛けるよう指示されながら、これに反抗した、(4)荷主側の荷下ろしの指定時間を守らなかったり、荷下ろしをしなかったりしたことで荷主から文句を言われた、(5)営業所内外で己本位に振る舞い、同僚と和合を欠いたことなど、過去の事実が記載され、これらも本件解雇事由とされていた。
申請人は、本件解雇は理由のないものであること、労働組合活動を嫌悪してなされた不当労働行為に当たることから無効であるとして、会社の従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求めて仮処分の申請をした。 - 主文
- 1 被申請人は、申請人を被申請人会社大阪営業所の従業員として仮に取り扱え。
2 被申請人は申請人に対し昭和52年7月から本案判決確定に至るまで毎月8日限り毎回金25万3680円を仮に支払え。
3 申請費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 被申請人会社(会社)における職場安全会議は、会社が業務遂行上の安全対策の一環として当該職場全従業員の出席を求めて開催するもので、会社の設定した施策の伝達及び従業員の安全教育のためにするものであることに鑑みると、これを業務行為とみることができると同時に、従業員の出席時間は労働時間として観念されるべきであり、会議を就業時間外に開催せざるを得ないときには、会社は本来従業員に対して時間外賃金を支給すべき義務を負っているといわなければならない。大阪営業所では会議が午後6時から開催されることが慣行になっており、かつその出席時間に対して固有の時間外手当は支給されていないこと、これに対し組合又は従業員から異議が唱えられていないが、終業時刻が午後5時になっている以上、労働者に不利益な右慣行を理由に時間外手当を支給しないで会議への出席を業務命令によって強制できないというべきである。疎明によれば、被申請人と申請人の属する組合との間に結ばれた労働協約には、労働基準法36条に基づく時間外労働に関する協定事項が含まれているが、被申請人が右協定に基づき従業員に対し職場安全会議への出席を要求できるのは、時間外賃金を支給するときに限られ、そうでない限り、これへの出席は任意的なものと解するほかない。
以上によれば、従来の会社及び大阪営業所長の職場安全会議の実施方法は、労働基準法の規定ないしその理念に違背するということになり、申請人が会社管理職のやり方とこれを受け入れている従業員仲間に対する不満をぶちまけたとしても非難することはできず、ただ上司に対するその言葉遣いに配慮を欠き、あるいはその言動にゆきすぎが認められるというに留まり、当日の申請人の行動は、いまだ本件懲戒処分を是認するに足る事由とはなり得ないといわなければならない。
企業において一般的に行われている始末書提出というのは、被処分者に、自らその非違行為を確認し使用者に対して謝罪の意思を表明すると共に将来非違行為を繰り返させないことを誓約する旨を書面に認めて提出させるものであって、これが懲戒処分として行われるときは、被懲戒者はその提出義務を負うという法的効果を生ずると解される。
ところで、所長が申請人に始末書の提出を要求したのは、単に所長としての管理監督権に基づくものとみるべきところ、一般に業務管理者が不始末をした従業員に対し始末書の提出を求めること自体は、違法とまでは言えないと解される。しかし、この場合、任意にこれに応じない従業員に対しては、もはや業務命令という形で提出を強要することや、不提出を理由に更に不利益な取扱いはできないといわなければならない。
本件についてこれをみるに、所長が申請人に対して求めた始末書提出は、「申請人が業務命令に反して職場安全会議を欠席し、かつ職場秩序を乱したこと」についてであるが、これは始末書提出の理由に乏しい上、所長の提出要求は単なる事実行為であって、業務命令として法的効果を伴うものとはなり得ないから、申請人がその提出要求に応じなかったことをもって業務命令違背ということはできず、また懲戒事由とすることもできない。
懲罰委員会の不出頭について、6月4日の出頭指示は、当日午後2時から岡山市で開かれる委員会へ当日午前10時前に大阪営業所で伝えたもので、余りに性急かつ一方的な喚問であり、申請人が当時置かれた情況に鑑みると、申請人が喚問に応じなかったとしてもこれを非難することはできない。同月7日については、申請人が専ら書面を要求して口頭で事情説明できる事項についてまでこれを拒んだという点を捉えれば、頑なに過ぎあるいは誠実さに欠けると評することができるが、本件懲罰委員会は会社の懲戒権の行使が適正公平に行われることを目的とし、その限りで調査権が認められているが、事柄の性質上委員会で処分対象者に対し陳述を強制する権限はないといわなければならない。
懲罰委員会は労働協約に根拠を置く会社の諮問機関として会社とは一応独立した機関であるから、出頭を指示した主体である懲罰委員会への不出頭又は同委員会における陳述拒否等の調査に対する非協力をもって直ちに会社又は上長に対する反抗ということはできないはずである。また申請人も右労働協約を遵守すべき義務を負い、懲罰委員会が十全に機能するよう協力すべき義務を負っているということは一応言えるとしても、証人的立場で喚問を受ける場合と懲戒対象者として喚問を受ける場合とでは、その対応の仕方が全く異なって来ることも事柄の性質上当然のことであり、会社が解雇通告書でいうところは、これらの区別を認識しない議論といわなければならない。かようにして、会社のいうところは、懲戒処分事由とはならないと言うべきであろう。
会社が、申請人を本件諭旨解雇処分にしたのは、上記事実だけに限らず、過去の非違行為をも併せて考慮し、各事由を総合考慮したものであることは明らかである。確かに車両に無線機を取り付けて容易に外さなかった行為、積荷にシートを2枚掛けるべく命じられてこれに反抗した行為については、申請人の行為は上長の命令に反抗したということができるが、被申請人が本件懲戒処分の主要な理由とした職場安全会議以後における申請人の各所為がいずれも本件解雇処分事由となり得ない以上、これら過去の業務命令違反だけでは本件処分を肯認し得る事由となり得ないと言わざるを得ない。
ただ、以上の申請人の過去の行状と職場安全会議以降の言動に加えて、昭和52年5月中旬の時点で申請人は既に大阪営業所の他の従業員仲間から疎んぜられ、あるいは申請人の解雇を希望されるようになっていた事実を総合すると、申請人のこの非協調的性格を会社が改善困難とみ、また雇用関係の継続が職場の調和を乱しひいて業務の円滑な遂行を阻害すると判断して「当社の従業員として不適格」と結論したものだとすれば、それはそれなりにわからぬではないが、仮にそのような理由によって申請人との雇用関係を解消しようというのであれば、本件のような根拠に乏しい懲戒処分という形で解雇することは許されないといわざるを得ない。
以上を要するに、本件諭旨解雇処分は、労働協約及び就業規則上の懲戒規定の解釈適用を誤ったものとして無効と解されるから、申請人は依然として会社大阪営業所の従業員たる地位を有し、賃金請求権を有しているということになる。 - 適用法規・条文
- 労働基準法36条、37条
- 収録文献(出典)
- 労働判例304号61頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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