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京都(信用金庫)諭旨解雇控訴事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 京都(信用金庫)諭旨解雇控訴事件
- 事件番号
- 神戸地裁尼崎支部 − 昭和53年(ワ)第682号
- 当事者
- 控訴人 信用金庫
被控訴人 個人5名 A、B、C、D、E - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1978年10月27日
- 判決決定区分
- 控訴一部認容
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審原告)らは、控訴人(第1審被告)の従業員で、かつ労働組合の執行委員である。控訴人は、不正集金事件を起こした従業員で労働組合の執行委員に対して諭旨解雇を行ったところ、被控訴人らがその取消しを求めて抗議行動を行った。控訴人は被控訴人らの就業時間における抗議行動を理由に、被控訴人ら5名を昭和40年10月13日から23日まで謹慎処分(第一次謹慎処分)に付したところ、被控訴人らは2日にわたって出勤し、更に控訴人の申請による立入禁止仮処分命令を発した京都地裁福知山支部に対しても抗議行動を行った。そこで控訴人は、被控訴人らに反省の色が見えないとして、同月26日から同年11月6日まで第二次謹慎処分に付し、裁判所から同様の立入禁止処分を得るとともに被控訴人らに対し誓約書の提出を求めた。しかし、被控訴人らがこれを提出しなかったため、就業規則「再度減給処分を受けて反省しないとき」に基づき諭旨解雇処分に付した。(なお、右誓約書には、「本日をもって謹慎処分を解除されましたならば、謹慎中に私の過去の職員としての行為について十分自己反省を致しました。今後は金庫職員として恥ずかしくない勤務に努め、労使関係につきましても、良識に基づいて合理的に行動することを誓約致します。尚万一この誓約に違背する行為をしました時には、如何なる処分を受けましても異議は申し立てません」と記載されていた。)
被控訴人らは、本件解雇は無効であるとして、雇用関係確認の仮処分申請を行ったところ、判決では、誓約書不提出の懲戒事由該当性については否定したが、将来も会社の秩序破壊や業務阻害を繰り返すおそれがあるとして、本件諭旨解雇を相当・有効とした。被控訴人らは、解雇の無効を主張して本訴を提起したところ、本訴第1審では、右仮処分とほぼ同様の判断をしながらも、諸事情からみて諭旨解雇は酷に過ぎ、解雇権の濫用に当たるとして無効と判断した。そこで、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 原判決中被控訴人らが控訴人に対して労働契約上の権利を確認した部分に対する控訴を棄却する。
2 原判決中主文第2、4項を次のとおり変更する。
控訴人は、
(一)被控訴人Aに対し、1673万3603円及び昭和53年6月1日以降毎月20日限り18万5200円の割合による金員を、
(二)被控訴人Bに対し、2016万5312円及び昭和53年6月1日以降毎月20日限り19万1700円の割合による金員を、
(三)被控訴人Cに対し、2278万7597円及び昭和53年6月1日以降毎月20日限り19万6500円の割合による金員を、
(四)被控訴人Dに対し、2039万0552円及び昭和53年6月1日以降毎月20日限り17万7800円の割合による金員を、
(五)被控訴人Eに対し、1726万5948円及び昭和53年6月1日以降毎月20日限り16万6900円の割合による金員を、
それぞれ、支払え。
被控訴人A、同B、同Eのその余の請求を棄却する。
右(一)ないし(五)は仮に執行することができる。
3 控訴人に対し、
(一)被控訴人Aは、306万1493円を、
(二)被控訴人Bは、164万1493円を、
(三)被控訴人Eは、164万6159円を。
それぞれ返還し、かつこれに対する昭和51年4月29日から返還済み迄年5分の割合の金員をそれぞれ支払え。
控訴人の民事訴訟法198条2項に基づくその余の申立を棄却する。
右(一)ないし(三)は仮に執行することができる。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人C・同Dと控訴人との間に生じた分は控訴人の負担とし、被控訴人Aと控訴人との間に生じた分はこれを10分し、その8を控訴人の負担としその余を同被控訴人の負担とし、被控訴人B・同Eとの間に生じた分はそれぞれこれを10分し、その9を控訴人の負担としその余を同被控訴人らの負担とする。 - 判決要旨
- 控訴人は、本件誓約書の提出を要求した時点で既に解雇事由があったと主張する。しかしながら、被控訴人らの第二次謹慎処分前の行動については、謹慎処分が減給より重い処分であり、かつ、本件の謹慎処分が通算して25日間という長期に及んだものであることを考えると、第一次、第二次の謹慎処分によって一応懲戒の目的を達し得ていたというべきである。そして、第二次謹慎処分中に被控訴人らのなした裁判所への抗議行動は勿論穏当なものとはいえないけれども、原判決認定の事実に徴すると、その態様において過激といえるほどのものでなく、時間的には裁判所の昼の休憩時間中におけるもので裁判所の執務の直接の妨げとなったものでもなく、その金庫に及ぼす影響もさして深刻なものとは認められない。そうだとすると、右行動を理由に被控訴人らを解雇し、職場より永久に放逐することは程度を超えた苛酷な処分とのそしりを免れず、被控訴人らの行動を第二次謹慎処分の前後を通じて総合的に観察しても、誓約書提出要求の時点で解雇を正当ならしめるほどの非違行為があったと認めることはできない。
控訴人の要求した誓約書には包括的な異議申立権の放棄を意味するものとも受け取れる文言が含まれていて、内容の妥当を欠くものがあったばかりでなく、そもそも本件のような内容の誓約書の提出の強制は個人の良心の自由に関わる問題を含んでおり、労働者と使用者が対等な立場において労務の提供と賃金の支払いを約する近代的労働契約のもとでは、誓約書を提出しないこと自体を企業秩序に対する紊乱行為とみたり特に悪い情状とみることは相当でないと解する。そうだとすると、本件においては、被控訴人らの本件誓約書の不提出並びにこれに関連する諸情状を考慮に入れても、解雇の正当性を基礎づけることはできず、結局本件解雇は懲戒権の濫用としてその効力を生じないものと判断せざるを得ない。
被控訴人A、B、Cは、本件解雇通知後、他で勤務して取得した収入があり、控訴人は、右被控訴人らが得た利益を「自己の債務を免れたことにより得た利益」として、右控訴人らに支払わなければならない賃金から、平均賃金額の4割を限度として控除することができると解する。 - 適用法規・条文
- 憲法19条、民法536条2項
- 収録文献(出典)
- 労働判例314号65頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
京都地裁舞鶴支部 - 昭和45年(ワ)第20号 | 認容(控訴) | 1976年04月28日 |
神戸地裁尼崎支部−昭和53年(ワ)第682号 | 控訴一部認容 | 1978年10月27日 |