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T社中国人派遣労働者賃金請求事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
T社中国人派遣労働者賃金請求事件
事件番号
東京地裁 - 平成19年(ワ)第23290号
当事者
その他債権者 個人2名 A、B
その他務者 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年01月30日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
被告は、コンピューターのハードウェア、ソフトウェアの企画、開発、設計、製造、保守、輸入及び販売等を目的とする会社である。

被告は、平成13年10月、中国の会社(C社)との間で、(1)C社は技術者と3年間雇用契約を締結し、日本での全ての活動に関して被告が管理する、(2)C社は被告に対し、雇用契約の期間中、技術者の就労技術ビザの申請等の手続きを委託する、(3)技術者1人に対し、被告は毎月C社に35万円の派遣費用を支払い、もし技術者が個人的な理由で仕事をしなかった場合には、被告は派遣費用を支払わない、(4)技術者が個人的な理由で一方的に被告の仕事を辞める場合には、被告は直ちにC社に通知する、(5)基本契約の有効期間は1年間とするが、満期日の1ヶ月前までにいずれかから書面による終了の申込みがない限り同一条件で引き続き1年間延長されるものとする、との内容の基本契約を締結した。

原告Aは平成18年3月2日付け、原告Bは同月3日付けで、C社との間で、(1)契約開始日は平成18年4月1日とする、(2)雇用期間は3年とし、1年目は研修期間、2、3年目は作業期間とし、満期日の1ヶ月前までにいずれかからの書面による終了の申込みがない限り同一条件で引き続き1年間延長されるものとする、(3)原告らが日本で仕事をする手続きは、C社又は日本の協力会社が行う、(4)研修期間中に実際作業に参加する場合は、標準月額生活費をC社が支払い、実際作業のない場合はその60%を支払う、(5)初年度の標準月額生活費は、原告Aは17万円、原告Bは18万円とする、(6)雇用期間中に原告らが個人的な理由で一方的に雇用契約を解除し、C社が指定した被告から辞める場合は、原告らは雇用契約解除時の賃金の3倍の違約金を支払わなければならない、ことを内容とする雇用契約書を作成した。

原告らは、平成18年1月に来日し、被告の従業員という形で短期滞在ビザの発給を受け、ビザの更新後、同年4月から被告に指示された派遣先で働き始めた。派遣先は平成19年5月までで各原告につき延べ4社程だった。被告は、同月頃、原告らから辞めたいとの希望が出たので、派遣先には更新できない旨伝え、C社にもその旨伝えた。原告らは同月末日付けで被告からの派遣先の仕事を辞め、友人の紹介で日本国内の別の会社に就職したところ、C社は被告に対し、5月以降はC社への35万円は支払わなくて良いこと、原告らが違約金3ヶ月分を支払わない限りは原告らに対する4、5月分の賃金は支払わなくて良いことを通知したことから、被告は4、5月分の賃金を原告らに支払わなかった。

原告らは一旦帰国した後再来日し、被告代表者がC社との間に入って折衝したが、原告らは違約金を支払わないと主張した上、被告に対し4、5月分の賃金の支払いを請求した。
主文
判決要旨
1 原告らと被告との間の雇用契約の成否

C社においては、日本における派遣先の確保、被告においては人材確保と中国への発注確保という両者の利益が一致するところから、基本契約の締結に至ったと認められる。これによれば、少なくともC社との関係で見る限り、原告らの立場は、C社の従業員として被告に派遣されたものと認めるのが相当である。

被告の立場は、C社からの派遣先であったが、派遣先でありながら被告が雇用契約書を作成したり、源泉徴収票を発行したりしたのは、中国の会社からの派遣という形態では原告らが就労ビザで入国することができないため、被告の従業員であるとの形式を整えるためであったことが認められる。このように、被告が、原告らを受け容れるか否かの判断をしたり、派遣先を決定したり、仕事の内容についての報告を求めていたことに照らすと、被告は労働者派遣における派遣先にとどまらず、原告らに対して指揮命令をしていたと見るのが相当である。すなわち、C社と被告との関係は、派遣元と派遣先の関係にあるということができるが、被告と日本の派遣先企業との関係もまた派遣元と派遣先の関係にあるということができるのであって、原告らは、C社から被告へ、被告から日本の派遣先企業へと二重に派遣されていたということができる。そうすると、原告らと被告との間には、就労ビザの発給を得るために形式的に雇用契約書を作成した関係にとどまらず、現実の指揮命令を伴う雇用契約が存在したものというべきである。

以上のように、原告らと被告との間にも雇用契約が存在したと認められる以上、原告らの請求を妨げるものはない。被告は、原告らの平成19年4月分及び5月分の賃金を支払っていないこと及びその内訳について争っておらず、源泉徴収票及び退職証明書を交付していないことも争っていない。なお、仮に、原告らと被告との間に雇用契約が存在したとの認定ができないとしても、被告は原告らのビザの更新のために雇用契約書を作成した以上、これに伴う負担として原告らに対する賃金の支払義務並びに源泉徴収票及び退職証明書を交付すべき義務を負うことは当然といわなければならない。賃金の支払いについては、C社に求償するなりしてC社との間で決着を図れば良いことであり、このように解しても原告らと被告との間の公平は失われないと解すべきである。
以上によれば、被告には、原告らに対する賃金の支払義務があることは当然であり、被告は原告らの請求を権利の濫用と主張するが、原告らの退職の経緯に照らしてみても、これを権利の濫用という余地はない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例988号88頁
その他特記事項