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葬儀請負会社配転・解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
葬儀請負会社配転・解雇事件
事件番号
東京地裁 − 平成10年(ワ)第17721号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1999年11月05日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
被告は、葬儀の請負を業とする株式会社であり、原告は平成元年1月、被告に雇用され、営業部第二課長として勤務し、平成5年6月に開発営業部次長に任ぜられ、その後被告の組織改正により営業部と開発営業部が営業部として統合されたのに伴い、平成9年5月に営業部次長に任ぜられた。

原告は、組織改正により直属上司となったM部長が営業活動の経験がないこと等から、その部下になることに不満を抱き、M部長の指示する方法では売上げ増加は困難である旨申し入れていた。被告はこうした原告の言動を放置すると業務に支障が生じると考え、原告に対しM部長に協力するように説得したが、原告がこれに応じようとしなかったため、被告は代表者、M部長、原告の3名で話合いを持ったが結論は出なかった。その後被告は、原告の言動は業務に支障を与えると判断し、同年11月25日、原告を営業活動から外し、担当を当直業務に限定する業務命令を発した。被告は、その後業務マニュアルの完成及び売掛金の回収を原告の業務とし、新たに営業管理部を設け、原告を同部次長に就けることとして平成10年6月1日に原告に内示をしたが、原告はこれを拒否した。被告は原告の回答から、配転命令を発しても拒否することが予想されたことから、原告の再考を促すため、同月16日から22日までの間原告に自宅待機を命じ、同月23日本件配転命令を発令したが、原告がこれを拒否したため、翌24日、原告に対し、本件配転命令拒否を理由に本件懲戒処分を行った。

本件懲戒処分の後、被告は原告に対し、再度本件配転命令に従うよう説得したが、態度に変化はなかったため、被告と原告は双方とも弁護士に依頼して話合いを行ったが進展せず、原告は本件配転命令無効確認の訴訟を提起し、結局話はまとまらなかった。そして、話合いが決裂した後も、原告は本件配転命令に従わなかったので、被告は同年10月21日、原告を解雇した。

原告は、被告に対し、従業員としての地位の確認、配転命令及び懲戒処分の無効の確認並びに出勤停止中の給与及び解雇後の給与、賞与・昇給の不当な査定による減額分の支払いを求めるとともに、被告の数々の嫌がらせによって原告は過大な精神的ストレスに晒され、多大な苦痛を被ったとして、慰謝料1000万円の支払いを請求した。
主文
1 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有することを確認する。

2 被告が平成10年6月1日付けで原告に対してした営業管理部次長として勤務する旨の命令は無効であることを確認する。

3 被告が平成10年6月24日付けで原告に対してした同月25日から同年7月1日までの7日間出勤停止に処する旨の懲戒処分は無効であることを確認する。

4 被告は、原告に対し、金13万5786円及びこれに対する平成10年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5 被告は、原告に対し、金621万0050円を支払え。

6 原告のその余の請求を棄却する。

7 訴訟費用は被告の負担とする。
8 この判決は、第4、第5項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件配転命令の効力

 配置転換は、労働者の勤務場所又は職場を将来にわたって変更する人事異動の1つであるところ、使用者が労働者に対して配置転換を命じることができるのは、雇用契約その他の両当事者間の合意として、使用者の配置転換命令権が認められている場合と解すべきであり、原告と被告は、雇用契約締結の際、被告の配置転換命令権を認めることに合意していたものと解するのが相当である。ところで、使用者が包括的な配置転換命令権を有する場合、業務上の必要等に応じて自由な裁量により労働者の職務を決定することができるが、それは無制限に許されるものではなく、右裁量権の行使が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものと認められる場合は、例外的に権利の濫用に当たり無効となるものと解すべきである。そして、当該配置転換命令が権利の濫用に当たるかどうかは、業務上の必要性の程度と当該配置転換によって労働者が被る不利益の程度とを比較衡量して判断しなければならない。

 本件組織改正に伴い、M部長の部下になったことや開発職手当が廃止されたことについて、原告は強い不満を持ち、そうした原告の不満がM部長に対する言動にも現れていたことは明らかで、被告が原告のこうした言動が業務に支障を及ぼすことを懸念したとしても、あながち理由がないこととはいえず、取りあえず原告を従前の営業活動から外した平成9年11月25日付けの被告の業務命令は不当とはいえない。しかし、原告は特に異議をとどめずこれに従事し、その後は本件組織改正に反発するような言動をとった証拠はなく、マニュアルは既に完成しており専従の従業員を配置する必要性は見出せない。また売掛金の回収についても、現在の額は6万円ないし7万円程度であって、原告に売掛金回収業務を行わせる必要性は全くないというべきである。右によれば、本件配転命令は、そもそも業務上の必要性を欠いており、被告に裁量権を付与した目的を逸脱した配転命令権の行使といわざるを得ず、したがって権利の濫用に当たり無効である。

2 本件懲戒処分及び本件解雇の効力

本件配転命令は前記のとおり無効であるから、本件配転命令に従わないことを理由とする本件懲戒処分は、懲戒事由を欠き、懲戒権の濫用であることが明らかであるから、無効である。本件解雇も、原告が本件配転命令に応じなかったことを理由として行われているところ、本件配転命令は無効であるから、本件懲戒処分と同様、権利の濫用に当たり無効である。そうすると、被告は、原告に対し、本件懲戒処分を理由として支給しなかった給与12万0703円及び本件解雇後である平成10年10月25日支給分から本件口頭弁論終結時までに支払期の到達した平成11年8月25日支給分の給与(11ヶ月分)621万0050円の支払義務があることになる。

3 賞与の減額等

被告においては、給与規程2条、3条が、給与及び賞与は会社の業績と社員に割り当てられる職務の質並びに社員の年齢・経験・勤務成績及び勤務条件等を総合勘案して決定すると規定しており、従前支給していた給与を減額する場合と異なり、賞与及び昇給については、被告の査定が著しく不当で合理性を欠くような場合は、そのような賞与や昇給の決定が権利の濫用として許されないことがあるとしても、そうでなければ、原則として被告の裁量に属する事柄であるというべきである。そして本件においては、被告の原告に対する査定が著しく不当で合理性を欠くことを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の主張を認めることはできない。

その他手当の名目で支給されていた開発職手当については、原告が開発職手当に相当する業務を行わなくなった平成9年11月25日以降は支給の根拠はない。したがって、開発職手当との差額についての原告の請求は理由がない。しかし、本件配転命令は無効であるから、その直前までその他手当名目で原告に支給されていた当直手当及び通夜手当については原告に支払われるべきものである。

4 慰謝料

本件配転命令、本件懲戒処分及び本件解雇については無効であるから、右は不法行為に該当するというべきであるが、本件配転命令、本件懲戒処分、本件解雇の各無効が確認され、未払いの給与の支給を受けることにより、原告の精神的苦痛は相当程度に慰謝されたというべきで、更に慰謝料を認めるだけの損害を被ったということはできない。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
労働判例779号52頁
その他特記事項
本件は控訴された。