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建築請負等会社懲戒解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 建築請負等会社懲戒解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成14年(ワ)第16917号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年07月07日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、建築請負工事、不動産売買、賃貸等を業とするZ社の子会社であり、原告(昭和10年生)は、平成4年7月に被告に雇用され、平成5年7月Z社に出向し、以後Z社の建設部に所属していた。
被告は、原告が仕事をせずに無断外出を繰り返す(解雇事由2)等の勤務懈怠があったこと、Z社の専務からの指示・命令を無視したり、社長に専務の悪口を言ったこと(解雇事由3)、監査法人や日本証券協会に対し、Z社の上場承認を妨害する目的で、Z社を誹謗中傷する発言をしたり、文書を送付したこと(解雇事由8、9、10)、日報への虚偽の記載(解雇事由4)、無断早退(解雇事由5)、同僚に対する不適切な発言(解雇事由7)、週刊誌などにZ社を誹謗中傷する記事を掲載するよう依頼したこと(解雇事由14)等を理由に、平成14年1月12日、原告に対し、同日をもって解雇する旨の意思表示をした(解雇1)。
また被告は、同年5月24日付けで、原告に対し、同日をもって普通解雇するとの意思表示をした(解雇2)ところ、本件解雇の理由は、原告がGに対しZ社との間における時間外賃金等の問題を処理するよう依頼したこと(被告は、Gが脅迫的文言を用いたことから、原告がGに恐喝を教唆したと主張、解雇事由12)、及びZ社長の妻宛にZ社を誹謗中傷する文書を送付したこと(解雇事由13)であった。更に被告は、同年10月16日において、原告が監査法人の公認会計士に対し、Z社の上場承認を妨害する目的でZ社を誹謗中傷したこと(解雇事由6)及び恐喝未遂(解雇事由12)を理由に、同日をもって懲戒解雇する旨の意思表示をした。
これに対し原告は、被告が主張するような事実はなく、被告は原告が労働基準監督署にZ社の労働基準法違反の事実を申告したことに対する報復として本件解雇をしたものであり、労働基準法104条2項に違反し無効であるとして、被告に対し地位確認並びに賃金及び賞与の支払いを求めるとともに、違法な本件解雇により多大な精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき慰謝料200万円を請求した。 - 主文
- 1 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、平成14年1月から本判決確定日まで、毎月25日限り、30万0440円(ただし、平成14年1月は18万4141円)及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 原告の請求中、本判決確定日の翌日以降の賃金の支払を求める部分の訴えを却下する。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第2項について、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件解雇に係る事実の認定
解雇事由(1)を認めるに足りる証拠はない。原告は、平成9年夏に2回、午前11時30分頃から午後1時過ぎまで昼食を摂った際カラオケをした事実が認められるが、その他に解雇事由(2)を認めるに足りる証拠はない。解雇事由(3)について、原告は平成13年7月29日、Z社社長宅を訪問し、専務の土地代金設定方法の問題を訴え、自分が辞めるようになったら専務のクビを切って欲しい旨の発言をしたことが認められる。解雇事由(4)の日報の虚偽記載を認めるに足りる証拠はない。解雇事由(5)については、時期、回数、程度などについて具体性に乏しく、原告が注意された形跡もないことに照らし、認めるに足りない。解雇事由(6)、(8)、(11)について、原告は、Z社従業員に対する時間外賃金の不払いについて労働基準監督署に調査を申し入れ、監査法人の公認会計士に対し、Z社を「平成のタコ部屋」、「奴隷的な扱い」などの過激な表現を用いて、同社が従業員に長時間の労働を強いたり、社内で嫌がらせ、差別待遇、退職強要が横行しているなどと主張したほか、Z社常務に対し、賃金不払いをマスコミに公表する準備をしていると述べ、公認会計士に対し、Z社上場に関する調査報告書の写を送付するよう求めた。解雇事由(7)について、原告は「頑張って仕事をしてもしなくても給料は変わらないぞ」と大声で話したということについては客観的裏付けがなく、仮に原告がこの発言をしたとしても、平社員の愚痴の域を出るものではない。解雇事由(9)、(10)について、何者かが「Z社の悪徳商法について」と題する文書を、監査法人、日本証券業協会、上場に関する主幹事証券会社に対し送付したが、この内容は「2チャンネル」のホームページの「Z社の悪徳商法について」として書き込まれた部分を印刷したものであるところ、被告はこれに書き込みしたのが原告だと主張するが、これを認める証拠はない。以上によれば、原告が監査法人ほか2カ所に「Z社の悪徳商法について」と題する文書の送付に関与したかどうかは不明といわざるを得ない。解雇事由(12)について、政治結社の塾頭であるGがZ社を訪れ、総務部長らに対し、「労働基準法違反の改善実施について」と題する文書の写等を示し、時間外労働賃金不払いの件について社長との話合いの場を求めるなどと述べたことが認められる。この事実に加え、Gが原告の性格や出身地を知っていることなどから、同文書等の写を原告から入手したように見えないではないが、原告は28名の従業員等に対し「労働基準法違反の改善実施について」と題する文書を送付し、賛同を呼びかけていることなどから、原告がGに時間外賃金の請求等を依頼した事実を推認することはできず、この他に原告がGに対し恐喝などの違法行為を依頼した事実を認めるに足りる証拠はない。何者かがZ社長の妻に対しZ社を誹謗中傷する内容の文書を送付したところ、原告がこの送付に関与したかは不明であり、解雇事由(13)の事実を認めることはできない。解雇事由(14)について、フリーライターJは、本件解雇1の後、Z社に取材を申込み、これを拒否されたが、Jの行為がZ社の社会的評価や信用を低下させることを目的としたものとは認められず、原告がJに対し違法な行為の実行を依頼した事実を推認することはできない。
2 本件各解雇の効力
Z社の上場に関する事務をしていた公認会計士に対する文書の交付などの行為(解雇事由(6)、(8)、(11))は、その方法や態様に照らすと、単なる情報提供にとどまらず、公認会計士としての業務遂行を著しく困惑させるものである上、監査法人はZ社の労働条件について関与すべき立場にないことに照らすと、従業員として不適切な行為といわざるを得ない。原告は常務から諫められても同様の行為を継続したことからすると、原告の行為は企業秩序維持の観点からも問題があるといわざるを得ない。しかし、原告は、当時労政事務所や労働基準監督署に相談したり、労働基準監督署に労働条件について調査を申し入れたりしており、監査法人に対する前記2回の文書の交付又は送付行為は、このような行動の一環として行われたものと認められる。そして、Z社は、その後労働基準監督署の調査を受け、従業員の労働時間の管理方法や時間外賃金の支払いについて改善指導を受けたことも合わせると、原告の行為は、主に労働基準法の遵守や労働条件の改善を目的としたものと認められ、その方法、態様が相当とはいえないことを考慮しても、相応の合理性を有するものと認められる。
以上を総合すると、本件各解雇は、客観的合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することはできないから、解雇権を濫用したものとして無効である。
3 本件懲戒解雇の効力
原告には、解雇事由(6)ないし(12)のうち、一部の事実が認められ、これがZ社の就業規則の懲戒解雇事由に該当するとしても、これを理由に懲戒解雇することは、客観的合理的理由を欠き社会通念上相当なものとして是認することはできないから、懲戒権を濫用したものとして無効である。
4 原告に支払うべき賃金等
原告は、使用者である被告の責めに帰すべき事由により労務提供が不能となったから、本件解雇後も被告に対し賃金請求権を有する。原告の請求のうち、本判決確定日の翌日以降の賃金の支払を請求する部分については、あらかじめその判決を必要とする特別の主張立証はないから、不適当というべきである。
被告が原告に対し、平成4年7月から平成11年9月までは毎年3月と9月に、平成11年12月以降は毎年6月と12月に、賞与としてそれぞれ30万円を支給していたことが認められる。しかし、被告及びZ社における賞与の支給基準を具体的に定めたものは証拠として提出されておらず、支給の可否や具体的支給額は、そのときどきに被告の裁量によって決定されていたという余地があるから、採用時から本件解雇時まで定額の賞与の支給が反覆・継続されたからといって、原告と被告との間に毎年6月と12月にそれぞれ30万円の賞与を支払う合意又は労働慣行が成立したと認めることはできず、原告の賞与請求は理由がない。
5 不法行為の成否及び損害額
本件各解雇は、解雇権を濫用したものであるから違法であり、被告には過失があるから、原告に対し民法709条に基づく不法行為責任を負う。
ところで、一般に、解雇された労働者が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるというべきである。本件においては、本件各解雇が無効であるとした上で、労働契約上の地位確認及び本判決確定日までの賃金の支払を命ずる以上、本件各解雇による原告の精神的損害は填補されると解される。
原告は、被告が本件訴訟及びこれに先立つ仮処分申立事件において名誉毀損、業務妨害等の解雇事由を主張したことが不法行為に当たるとも主張するようである。しかし、弁論主義・当事者主義の観点から、当事者の訴訟手続きにおける主張は、他人の名誉を毀損するものであるとしても、要証事実と関連性を有し、その必要性があり、表現内容、方法、態様が適切である場合には、正当な弁論活動として、結果的に真実であることの立証ができなくとも、違法性が阻却されるというべきである。 - 適用法規・条文
- 民法709条、労働基準法104条2項
- 収録文献(出典)
- 労働判例862号78頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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