判例データベース
E社雇止・仮処分事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- E社雇止・仮処分事件
- 事件番号
- 秋田地裁 - 平成21年(ヨ)第4、秋田地裁 - 平成21年(ヨ)第5、秋田地裁 - 平成21年(ヨ)第6号
- 当事者
- その他債権者 個人3名 A、B、C
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2009年07月16日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 債務者は、菓子、食料品の製造・販売を目的とする株式会社であり、債権者Aは平成5年12月に、債権者Bは平成11年6月に、債権者Cは平成16年5月に、それぞれ債務者にストアセールス(社有車を用い、直行直帰で各自が担当する店舗を訪問して営業活動を行う職務)として採用され、以来1年ごとに契約を更新してきた。
債務者の売上高は平成5年から減少傾向にあり、平成20年度には営業損失を計上するに至ったことから、債務者は効率的な営業体制の構築を目指し、ストアセールスの仕事量を客観的に表す指標として「標準コール数」という数字を算出した。これによると秋田における1人当たりの標準コール数は東北他県に比べて低水準であることから、東北総括支店長Pは、債権者ら5名に対し、従前通り契約更新できるかわからない旨告げた。
平成20年4月3日、Pは債権者らに対し、同年5月10日の契約期間の満了をもって契約の更新を行わないこと、代わりに新たなセールスを2名募集するから、これに応募することも可能である旨告げた。これに対して債権者らが債権者3名の中から2名を選ぶよう要望したため、債務者は同年5月11日から半年間、債権者らの雇用契約を更新し、その間に人事考課を行った上で、債権者らの中から雇用継続する2名を選定することとした。
債権者らは、労働組合に加入して2度にわたる団体交渉を行ったが、不調に終わり、労働委員会のあっせんも不調に終わって、同年夏以降、債務者の経営環境は更に悪化したことから、同年12月10日、債務者は債権者ら3名に対し雇止めを行った。なお、同年5月から11月までの人事評価は、A(21.3点)、C(19.8点)、B(18点)の順であった。
債権者らは、雇用契約の更新が繰り返された場合は、雇止めの意思表示は解雇の意思表示に当たり解雇に関する法理が類推適用されるところ、本件雇止めは整理解雇の要件を欠くから権利の濫用に当たり無効であるとして、債務者に対し地位保全の仮処分の申立てを行った。 - 主文
- 1 債務者は、債権者Aに対し、平成20年12月11日から本案判決確定に至るまで、毎月25日限り13万1570円を仮に支払え。
2 債権者Aのその余の申立て並びに債権者B及び債権者Cの申立てをいずれも却下する。
3 申立費用は、債権者Aと債務者との間に生じたものは債務者の負担とし、債権者Bと債務者との間に生じたものは債権者Bの負担とし、債権者Cと債務者との間に生じたものは債権者Cの負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件雇止めに解雇権濫用法理が適用されるか
有期の雇用契約において更新が繰り返されたときには、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になったと認められる場合、又は期間の定めのない契約と必ずしも同視できなくても雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性があると認められる場合には、雇用契約の反覆更新後の雇止めには解雇権濫用法理が類推され、合理的な理由のない雇止めは、解雇権の濫用に当たり無効となるというべきである。
債権者Aは、本件雇止めまで約15年間、合計16回にわたって債務者から雇用契約を更新されており、債権者Bは、本件雇止めまで約9年6ヶ月間、合計10回にわたって債務者から雇用契約を更新されており、債権者Cは、本件雇止めまで約4年7ヶ月間、合計5回にわたって債務者から雇用契約を更新されているのであって、平成19年までは債権者らと債務者との間で具体的な交渉もなく当然に雇用契約が更新されてきたこと、ストアセールスについて雇止めの前例はほとんどなかったことに照らせば、債権者らと債務者との間の雇用契約は、形式的には期間の定めのあるものであったが、更新を繰り返すことが当然に予定されており、雇用継続に対する債権者らの期待利益に合理性があると認められるから、本件雇止めの効力を判断するに当たっては、解雇権濫用法理が類推されるというべきである。
2 本件雇止めが整理解雇の有効要件を満たしているか
整理解雇が有効とされるためには、(1)人員削減の企業経営上の必要性、(2)整理解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)労使間における協議義務の履行等の手続きの妥当性が必要であると解される。
「標準コール数」で示される債務者秋田事務所におけるストアセールスの仕事量は、本件雇止めが行われた平成20年12月の時点では3名分程度の仕事量しかなかった。こうした状況に照らすと、本件雇止めの時点において、債務者秋田事務所におけるストアセールス5名のうち、2名については人員を削減する企業経営上の必要性があったというべきである。しかしながら、債権者ら3名の本件雇止めのうち1名については、人員削減の必要性が認められず、解雇権濫用法理が類推適用されてその雇止めが無効となると解される。
債務者は、平成20年4月頃には債権者らストアセールスに割り当てるための新たな訪問先や業務を探すべく努力しており、団体交渉において債権者らの労働時間を短縮することにより債権者ら3名全員の雇用を確保するワークシェアリングの方法を提案したり、債権者らに希望退職を促したりしており、本件雇止めを回避すべく真摯かつ合理的な努力を尽くしたと評価すべきである。
本件雇止めが行われた同年12月の時点では、秋田市及びその周辺を担当する債権者ら3名には、合計しても1名分に相当する業務量しかなかったのであるから、債権者ら3名のうちから2名の雇止め対象者を選定することには、十分な合理性が認められる。そして、債務者は、同年5月11日から半年間債権者らの雇用契約を更新し、その間に債権者らについて客観的な人事評価を行った上で雇用を継続する2名を選定する旨の方針を債権者らに告知し、半年間債権者らに対して人事評価を行った結果、債権者Aが1位、債権者Cが2位、債権者Bが3位となったものであって、上記人事評価の方法に特段不合理な点は見当たらないから、債権者ら3名の本件雇止めのうち、債権者B及び債権者Cの雇止めは、対象者の選定について客観的かつ合理的な基準を設定してこれを公正に適用したもので有効というべきであるが、人事評価の最も高い債権者Aの雇止めは無効となると解すべきである。
債務者は、債権者らに対する最初の雇止めの予告をした平成20年4月以降、2回にわたって債権者らとの雇用契約を更新し、その間に労働組合と2回にわたる団体交渉及び労働委員会の2回にわたるあっせんによる話合いを行い、本件雇止めを回避すべく合理的な解決案を債権者らに提案しているから、労使間における協議義務を誠実に履行しているというべきであり、本件雇止めの手続きは妥当であったと認めることができる。
以上の検討によれば、債務者による本件雇止めのうち、債権者B及び債権者Cに対するものは有効であり、上記両名については本件における被保全権利が認められないが、債権者Aに対する雇止めは無効であって、同人には本件における被保全権利があると認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例988号20頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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