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M社偽装請負上告事件

事件の分類
解雇
事件名
M社偽装請負上告事件
事件番号
最高裁 − 平成20年(受)第1240号
当事者
上告人 株式会社
被告 個人1名
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年12月18日
判決決定区分
一部破棄・一部棄却
事件の概要
上告人(第1審被告・第2審被控訴人兼控訴人)は、プラズマディスプレイパネル(PDP)を製造する会社であり、P社と業務請負契約を締結し、被上告人(第1審原告・第2審控訴人兼被控訴人)は、平成16年1月20日、P社との間で雇用契約を締結して2ヶ月毎に契約を更新し、上告人に派遣されていた。

 被上告人は、平成17年4月、就業形態が労働者派遣法に違反するとして上告人に直接雇用を求めるとともに、大阪労働局に同法違反の是正を申し入れたところ、上告人は同労働局からの指導を受け、被上告人と平成18年1月31日までの雇用契約を締結した。上告人は同日をもって被上告人との雇用契約を打ち切ったところ、被上告人は、雇用契約上の権利の確認、リペア作業の就労義務の不存在の確認、雇止め及びリペア作業命令による精神的苦痛に対する慰謝料として、合計600万円の支払を請求した。

 第1審では、違法な就業状態は雇用契約の直接申込みにより解消しており、雇用契約は期間満了により終了したとして、地位確認請求及び賃金請求を棄却したが、リペア作業の業務命令を違法として、慰謝料45万円を認めた。これについて、被上告人(原告)、上告人(被告)双方が不服として控訴したところ、第2審では、本件労働者派遣は違法であって、上告人・P社間、原告・P社間の各契約は当初から無効であること、上告人と被上告人との間には事実上の使用従属関係が認められ、両者の間には黙示の労働契約の成立が認められることと判断した。その上で、本件雇止めの意思表示は解雇権の濫用として無効であり、また被上告人はリペア作業に就労する義務はないとして、その就労による慰謝料90万円の支払いを命じたことから、上告人はこれを不服として上告に及んだ。
主文
1 原判決中主文第1項(1)ないし(3)の部分を破棄し、同部分につき上告人の控訴を棄却する。

2 上告人のその余の上告を棄却する。

3 訴訟の総費用はこれを6分し、その1を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。
判決要旨
請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当するというべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。

しかるところ、被上告人は、平成16年1月20日から同17年7月20日までの間、P社と雇用契約を締結し、これを前提としてP社から本件工場に派遣され、上告人の従業員から具体的な指揮命令を受けて封着工程における作業に従事していたというのであるから、P社によって上告人に派遣されていた派遣労働者の地位にあったということができる。そして、上告人は、上記派遣が労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しないというのであるから、これは労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない。しかしながら、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等に鑑みれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。そして、被上告人とP社との間の雇用契約を無効とすべき特段の事情はうかがわれないから、上記の間、両者間の雇用契約は有効に存在していたと解すべきである。

上告人と被上告人との法律関係についてみると、上告人はP社による被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり、被上告人がP社から支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず、かえって、P社は被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど、配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって、前記事実関係に現れたその他の事情を総合しても、平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約等が黙示的に成立していたものと評価することはできない。したがって、上告人と被上告人との間の雇用契約は、本件契約書が交わされた同年8月19日以降に成立したものと認めるほかない。

上記雇用契約の契約期間は原則として平成18年1月31日をもって満了するとの合意が成立していたものと認められる。しかるところ、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、当該雇用契約の雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときは許されない。しかしながら、上告人と被上告人との間の雇用契約は一度も更新されていない上、上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人及び本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。そうすると、上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたはいえないことはもとより、被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にも当たらないというべきである。したがって、上告人による雇止めが許されないと解することはできず、上告人と被上告人との間の雇用契約は、平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない。

もっとも、上告人は平成14年3月以降行っていなかったリペア作業をあえて被上告人のみに行わせたものであり、このことからすれば、大阪労働局への申告に対する報復等の動機によって被上告人にこれを命じたものと推認するのが相当であるとした原審の判断は正当として是認することができる。これに加えて、被上告人の雇止めに至る上告人の行為も、上記申告以降の事態の推移を全体としてみれば、上記申告に起因する不利益な取扱いと評価せざるを得ないから、上記行為が被上告人に対する不法行為に当たるとした原審の判断も、結論において是認することができる。
適用法規・条文
民法709条、労働基準法104条、職業安定法4条、44条、労働者派遣法2条
収録文献(出典)
その他特記事項
(注)本件は、「大阪高裁平成19年(ネ)1661号、2008年4月26日判決」の上告審である。