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JR西日本吹田工場(踏切確認作業)控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- JR西日本吹田工場(踏切確認作業)控訴事件
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成14年(ネ)第264号
- 当事者
- その他控訴人兼被控訴人(第1審原告) 個人2名 A、B
その他被控訴人兼控訴人(第1審被告) 個人1名 C、西日本旅客鉄道株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年03月27日
- 判決決定区分
- 各控訴棄却(確定)
- 事件の概要
- 第1審原告A及び同Bは、いずれも平成12年4月より第1審被告吹田工場車両管理係に配属されている者で、国労の組合員であり、被告Cは、平成11年6月より吹田工場で安全衛生業務を主管する総務科長の地位にある者である。
従前、吹田工場では社員の安全意識に問題があると指摘されていたことから、平成12年6月に吹田工場の各職場で点検が実施されたが、踏切通行において安全確認が励行されていない事象が報告された。このような中、同年7月9日、原告らは午前約4時間、午後約4時間本件炎天下での本件作業に従事したところ、被告Cは、警報機が稼働中に、原告Aらが踏切を渡って来るのを見て、原告Aらに対し「渡るな、危ないやろう、止まれ」、「何しとるんや、アホか、お前らは」などと言って制止しようとしたが、原告Aらはこれを無視して横断した。そして踏切を横断した後、原告Aは操車担当の許可を取っていたことを主張し、被告Cと言い合いになり、被告Cが原告Aを事務所に同行すべく同人の腕を掴み、強引に事務所へ引っ張って行こうとして原告Aは左手首に擦過傷を負った。そして事情聴取の際、被告Cは注意の仕方に好ましくない点があったとして、支社長より口頭注意を受け、被告Cは傷害を負わせた点について原告Aに謝罪した。その後、同年8月に、原告A、原告Bは数日にわたって炎天下での本件作業に従事させられた。
原告Aは、炎天下での作業を強要されたこと、手首を負傷させられたことを理由として、被告らに対して165万3115円、原告Bは原告Aと同様に炎天下での作業を強要されたことを理由として、被告らに対し110万円の損害賠償を請求するとともに、原告Aが会社の温度計を無断で所持し、その事実を隠匿したとして行われた訓告処分の取消しを求めた。
第1審では、被告Cによる原告Aに傷害を負わせた行為及び炎天下で原告らを本件作業に従事させたことにつき、被告Cと被告会社に対し連帯して22万円の損害賠償を認める一方、原告Aに対する訓告処分には相当性があると認めたことから、原告、被告双方がこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 原告A及び原告Bの控訴をいずれも棄却する。
2 被告C及び被告会社の控訴をいずれも棄却する。
3 控訴費用のうち、原告A及び原告Bの控訴に係る費用は同原告らの、被告C及び被告会社の控訴に係る費用は同被告らの各負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件作業の違法性の有無
吹田工場では、平成12年4月以降、踏切事故ではないものの労災事故が多発し、また京都支社から厳重注意を受け、特別な施策の実施を求められていたものであって、特に安全確保が要請されている状況下にあり、その必要から本件作業が指示されたものであると認められる。そして指差確認は安全の確保のための最も基本的な動作であり、踏切における指差確認のために定点観測を実施することは、踏切横断だけではなく、吹田工場全体における安全確保のための有効な方法であるということができる。
しかしながら、本件作業は、最高気温が摂氏34度から37度という真夏の炎天下で、日除けのない約2メートス四方の白線枠内に立って、終日、踏切横断者の指差確認状況を監視、注意するという内容のものであって、1時間に5分の休憩が与えられ、随時トイレに行ったり、水を取りに行くこと等が可能であったとはいえ、肉体的、精神的に極めて過酷なものであり、労働者の健康に対する配慮を欠いたものであったといわざるを得ない。身体障害者であるFは、本件作業に従事して半日で足がしびれ作業の継続が困難となり、また原告Aも立っていることが困難となったことがあること、原告Bも4、5時間経つと紫外線で目が痛くなって頭がぼんやりとしたことが認められるが、これらは本件作業が労働者の健康に対する配慮に欠けるものであったことを裏付ける。そして上記の過酷さに、本件作業が、従前吹田工場内で行われていた定点監視作業とは、監視時間の長さや白線枠の設定の点でその内容を異にするものであること、原告らが従事した本件作業の実施については、本来京都支社に報告されるべきものであるにも関わらず、実績は報告されていないことを併せ考慮すれば、本件作業は、その内容が単に肉体的、精神的に過酷であるのみならず、合理性を欠き、使用者の裁量権を逸脱する違法なものであったといわざるを得ない。
被告Cは、上司に対する原告Aの態度を質すため事務所へ連れて行こうとしたものであるが、嫌がる同原告の腕を3回も引っ張って事務所へ連れて行こうとする被告Cの行為は、正当な業務指示とはいえず、暴行行為として違法であるというべきである。
原告Aについては、まず被告Cの本件暴行により負った傷害の治療に要した治療費等2465円は、本件暴行による損害と認められる。慰謝料については、本件暴行に至る前の原告Aと被告Cの言い争いは被告Cが「事実上の取扱い」を知らずに横断を制止しようとしたことに端を発しており、被告Cの原告らに対する注意の方法も適切さを欠いていたが、本件暴行は、直接には原告Aの「あんた」という上司に対し用いるには不相当な発言に被告Cが憤激したことから発生したものであること、本件傷害は全治5日の擦過傷であり傷害の程度は比較的軽いものであること、被告Cは本件暴行の違法性を争っているが、事情聴取の際に被告Cは原告Aに対し「事実上の取扱い」を知らなかったこと及び傷害を負わせたこと自体は謝罪していることなどを総合考慮すれば、本件暴行による慰謝料としては5万円が相当である。また本件作業に従事したことによる慰謝料としては、本件作業内容が過酷で合理性を欠くものであること、原告Aが本件作業に従事した期間等を総合考慮すれば、15万円が相当である。更に弁護士費用としては2万円が相当である。
原告Bについても、本件作業の内容に加え、原告Aよりも1日多く本件作業に従事していることなどを総合考慮し、慰謝料額としては20万円が相当であり、弁護士費用としては2万円が相当である。
本件作業は、被告Cの提案により、吹田工場内の安全意識向上のための被告会社の施策として行われたものであるが、被告Cは総務科長として本件作業を提案してその実施に当たり、原告らに本件作業を行わせたものと認められ、私怨によるものとは認め難いものの、被告Cの行為は故意による不法行為を構成し、この行為は原告らの主張している不法行為の範囲内の行為と解され、本件暴行は被告Cの総務科長としての職務に関連して行われたことが明らかである。したがって、被告Cは不法行為責任を、被告会社は使用者責任をそれぞれ負う。
2 本件処分の有効性
本件温度計は、売却が予定されていたことからコンテナで保管されていたものであり、原告Aは同僚に頼んで本件温度計を持ち出したこと、助役が問い質しても原告Aはこれを否定し、「耳悪うなったんか」などと発言し、真面目に応答せず、その後係長が、原告Aが温度計を所持しているのを発見し、これを取り上げたことなどの態様等に鑑みれば、就業規則「職務上の規律を乱した場合で、懲戒を行う程度には至らないもの」に該当するといえるから、処分としての相当性を欠くものとはいえない。したがって、被告会社が原告Aに対して課した訓告処分は有効である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、715条
- 収録文献(出典)
- 労働判例858号154頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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大阪地裁 − 平成12年(ワ)第11854号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2001年12月28日 |
大阪高裁−平成14年(ネ)第264号 | 各控訴棄却(確定) | 2003年03月27日 |