判例データベース
S社雇用契約申込事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- S社雇用契約申込事件
- 事件番号
- 名古屋地裁一宮支部 − 平成21年(ワ)第13号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2009年08月04日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、業務用クリーニングシステム等を製造販売する会社であり、原告は、平成10年10月、労働者派遣を業とするS社に雇用され、派遣登録された者である。原告は、S社に派遣登録された直後から一貫して被告の中部営業所においてセールスエンジニアの業務に就いている。原告は、平成20年9月11日、被告の社長及び人事部長と面接を行ったが、そこで雇用契約の申込みはなされなかった。原告は、派遣法40条の5では、派遣先は同一業務に3年以上従事した者に対しては雇用契約の申込み義務が発生するところ、原告は被告の同一事業場において約10年業務に従事しているにもかかわらず、雇用契約の申込みを受けていないとして、被告に対し雇用契約の申込みをするよう請求した。
- 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 派遣法40条の5は、派遣先に対し、一定の要件のもとで、雇用契約を申し込む義務を規定しているが、この規定から直ちに雇用契約の申込みがあったと同じ効果を生じさせ、派遣労働者に雇用請求権を付与したものとするには疑問がある。なぜならば、派遣法は、上記雇用契約の申入れを規定するに当たって、労働条件に関する実体的な規定や、当事者間における労働条件の調整に関する調整手続きを欠いているので、雇用契約の申入れがあったとみなしても、労働条件が確定せず、労働条件が定まった雇用契約の締結を認めることができないので、司法上の審理対象になじむとはいえないからである。しかしながら、この点を措いても、原告の本訴請求は、以下のとおり理由がない。原告が、S社の派遣社員として、遅くとも平成10年11月以降現在まで、被告の中部営業部においてセールスエンジニアとして派遣就業していることは当事者間に争いがないが、派遣法40条の5が規定する雇用契約申込義務が発生するためには、「同一業務に従事させるため、3年経過後、労働者を雇い入れようとする場合」であることが必要であるところ、以下のとおり、この要件を充たしていないからである。けだし、原告は、D、E、F、G及びHを挙げて上記要件の充足を主張するが、D、E、Fが被告の中部営業所の業務に従事するようになったのは、平成16年3月よりも以前のことであり、派遣法40条の5が平成16年3月1日から施行されていることに照らせば、同条に基づく雇用契約義務が生じるのは、平成16年3月1日以降に、被告が「労働者を雇い入れようとするとき」であることを要するのであるから、上記3名の上記業務の従事についてはこの要件を欠いている。更に、F、G及びHは、S社に在籍したまま、出向によって被告の中部営業所の業務に従事するようになったもので、いずれ出向元に戻ることが予定されているのであるから、派遣法40条の5に規定する「雇い入れ」とは言えない。以上のとおり、原告が指摘する5名のいずれも派遣法40条の5に規定する「雇い入れ」とはいえず、被告が原告を新たに雇用しようとしたことを認めるに足りる証拠はないので、被告が原告に対し、雇用契約申込義務は生じていない。
- 適用法規・条文
- 労働者派遣法40条の5
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2052号29頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|