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倶知安労基署長(K社)脳出血死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 倶知安労基署長(K社)脳出血死控訴事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 札幌高裁 - 昭和56年(行コ)第7号
- 当事者
- 控訴人 倶知安労働基準監督署長
被控訴人 個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1984年02月22日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- Aは、K生コン社の工場長として勤務していたが、昭和53年10月1日、同社の業務命令により、地域のコンクリート協同組合が加盟会社の従業員らの親睦を目的として開催したソフトボール大会に参加したところ、その競技中に、数度にわたり頭部から転倒したり、他の競技者と衝突したため、同日午後1時50分頃呼吸困難に陥り、病院に搬送されたが、同日午後2時10分、脳出血で死亡した。
Aの妻である被控訴人(第1審原告)は、控訴人(第1審被告)に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、控訴人はAの死亡には業務起因性が認められないとして、右給付をしない旨の処分(本件処分)をした。そこで被控訴人は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたことから、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
第1審では、業務命令によって参加したソフトボール競技中の転倒等が死亡の原因になったとして、Aの死亡を業務上と認め、本件処分を取り消したことから、控訴人がこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第1・2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 認定事実によると、Aはソフトボール競技に出場した当時には、運動疲労によって生命の危険を招くような特段の疾病を有する状態にはなかったものと考えられ、その死亡の約1時間余の前までは意識清明な情況にあり、その死亡原因となった疾病は全く突発的に発生したものと推認するほかはない。
被控訴人は、Aが試合出場中に数度にわたり転倒した際に頭部を強打して頭部に損傷を生じ、これがため外傷性脳出血又は急性硬膜外血腫を惹起して死亡したものである旨主張するので案ずるに、一般に外傷性脳内出血は、脳実質そのものの外傷によって生じた出血の増大によって脳内出血を惹起するもので、受傷直後から意識障害を伴うことが多いとされ、また急性硬膜外血腫は、その出血の原因として、(1)硬膜動静脈及び分枝の破裂、(2)頭蓋内静脈洞外壁の破壊、(3)頭蓋骨骨折部の板間静脈からの出血、(4)骨と硬膜との間のずれが挙げられ、このうち(4)の場合は幼少児に見られるもので骨折は認められないが、(1)ないし(3)の場合はいずれも頭蓋骨骨折があって、それに伴って右各血管の破裂等を生ずるものとさの場合はいずれも頭蓋骨骨折があって、それに伴って右各血管の破裂等を生ずるものとされるところ、本件において、Aは球技中に転倒したことは明らかであるところ、背中から転倒したはずみで1回転して立ち上がり、そのまま競技を続けた事実が認められるから、その際脳損傷若しくは頭蓋骨骨折等脳内出血、急性硬膜外血腫を惹起するような傷害を生じたものとは到底認め難い。
そうすると、Aの死亡に至る経緯、情況と証人の証言によれば、Aの死亡は、脳血管障害の如き急性の意識障害を惹起する何らかの疾病の突発に因るものとみるほかはないところ、それが直接又は間接に本件ソフトボール競技に出場したことによって誘発されたと認めるに足る証拠はないから、Aの死亡を業務と因果関係があるものとはいえない。
以上の次第で、控訴人が、Aの死亡は業務起因性が認められないので被控訴人に対し遺族補償給付及び葬祭料を支給しないとした本件処分は相当である。 - 適用法規・条文
- 労災保険法16条の2、17条
- 収録文献(出典)
- 労働判例427号49頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
札幌地裁 − 昭和55年(行ウ)第11号 | 認容 | 1981年11月27日 |
札幌高裁 - 昭和56年(行コ)第7号 | 原判決取消(控訴認容) | 1984年02月22日 |