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福岡東労基署長(塗装店従業員)脳出血事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
福岡東労基署長(塗装店従業員)脳出血事件【過労死・疾病】
事件番号
福岡地裁 − 平成2年(行ウ)第19号
当事者
原告個人1名

被告福岡東労働基準監督署長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1991年03月27日
判決決定区分
却下
事件の概要
原告は、昭和41年10月からH塗装店の従業員として塗装業務に従事していたところ、昭和60年8月25日午前、社内で会議中に脳出血で倒れ、右片麻痺、言語障害等の後遺症を残すに至った。原告は同疾病が業務上の疾病に当たるとして、被告に対し、労災保険法に基づき療養補償給付及び休業補償給付の支給を求めたところ、被告はこれを支給しない旨の決定(本件処分)をした。原告はこれを不服として審査請求をしたが、3ヶ月を経過した後に棄却の裁決が出されたところ、原告は行政事件訴訟法8条2項1号「審査請求があった日から3箇月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができる」に基づき、再審査請求を経ることなく、本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
主文
1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
労災保険法35条1項は、保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる旨規定し、また同法37条は、同法35条1項に規定する処分の取消訴訟について、労働保険審査会に対する再審査請求前置主義を採っているところ、右の取消訴訟に関する限り、行訴法8条1項の「審査請求」とは、右労働保険審査会に対する再審査請求の意味であり、また同条2項の「審査請求」には、労災保険法35条1項に規定する審査請求及び再審査請求を包含するものというべきであり、したがって、右再審査請求前置が採られているものの、例外的に、審査請求後3ヶ月を経過しても決定がない間は、再審査請求を経ることなく、また再審査請求後3ヶ月を経過しても裁決がない間は、その裁決を待つことなく、いずれの場合にも取消訴訟を提起することができると解されるのであるが、審査請求後3ヶ月を経過したが取消訴訟を提起しない間に右再審査請求に対する決定があった場合には、再審査請求前置の本則に立ち返って、適法な再審査請求を経ていなければ、保険給付に関する決定に対する取消訴訟は提起することができないと解すべきである。そうすると、本件訴えは、訴え提起の前提要件である適法な再審査請求を経ていないことが明らかであるから、行訴法8条2項3号の正当理由が認められない限り、不適法なものとして却下を免れない。
 原告のいう「過労死」事件について、一般的に再審査請求を経ることなく取消訴訟を提起することができると解するときは、労災保険法37条が保険給付に関する決定の取消訴訟について労働保険審査会に対する再審査請求前置主義を採った趣旨(行政の統一を図る必要があること、処分が専門的知識を要するものが多いこと、保険給付に関する審査請求及び再審査請求の審理が第三者機関が当たること等を考慮し、再審査請求前置主義を採ったとされる)を没却することになるし、しかも原告は本件訴えを再審査請求期間内に提起しているわけではなく、再審査請求を徒過したのは、行訴法8条2項1号の解釈について誤解していたことが窺われるのであるから、本件訴えについて、行訴法8条2項3号の正当な理由があるということはできない。
適用法規・条文
労災保険法13条、14条、35条1項、37条、38条1項。行政事件訴訟法8条
収録文献(出典)
その他特記事項