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泉大津労基署長(建材会社)脳内出血事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 泉大津労基署長(建材会社)脳内出血事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 昭和62年(行ウ)第53号
- 当事者
- 原告個人1名
被告泉大津労働基準監督署長 - 業種
- 分類不能の産業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1992年02月24日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 原告(昭和13年生)は、昭和51年6月、A建材会社に入社し、主として10トンの大型ダンプカー運転手として、生コンクリート用の砂及び砕石の運搬に従事し、またダンプカーの配車、生コンクリートの運搬、土木工事の補助等にも従事していた。
原告は、昭和54年5月、職場の一般健康診断において、血圧が156/84を示して医師の注意を受け、翌年には高血圧のため、職場団体生命保険への加入を拒否されたが、原告は高血圧の治療を受けなかった。
原告は、昭和56年1月14日、午前3時から午前6時頃まで砂運搬5往復した後、砕石運搬3往復し、午前11時30分頃から午後0時30分頃まで昼食休憩を取り、その後午後2時頃、洗車場において洗車していた際、体調に異変を生じ、同日午後8時過ぎ、脳内出血の救急手術を受けた。原告の疾病は本態性高血圧に基づく脳内出血であった。
原告は、右疾病は業務に起因するとして、被告に対し、労災保険法に基づき療養補償給付及び休業補償給付の請求をしたが、被告は右給付を支給しない旨の処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却されたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 労働者災害補償保険法上の「業務上の疾病」とは、業務と疾病との間に相当因果関係のあること、即ち、医学経験上、業務が疾病の相対的に有力な原因と認められることを指すのであり(労働基準法施行規則別表第1の2の9号)、使用者に被用者に対する健康管理義務違反があるからと言って、直ちに右相当因果関係を認めることはできない。
原告は、A建材に入社前にもダンプカー運転手として稼働しており、同社における日常的なダンプカー運転業務それ自体、原告に対し、精神的、肉体的に過度のストレスをもたらしたとは認め難く、配車係の業務は配車割当を連絡する役目に過ぎないから同様である。原告の勤務形態は変形、不規則ではあるが、過度の長時間労働を強いられるものではなく、休日、休養も確保され、業務から生じた疲労の回復を図ることができ、早朝出勤も特に日常生活行動に支障を来すものではなかった。原告は、A建材入社以来、同一労働条件の下に、格段の支障もなく稼働してきており、慢性的疲労を窺わせる徴候はない。したがって、A建材における業務が原告の高血圧発症の有力な原因となり、また症状増悪を促進したと認めることはできない。
本件疾病は、多く加齢や一般生活における諸種の要因によって自然経過的に発症するが、急激な血圧変動や血管収縮をもたらす過重負荷が加わると、自然経過を超えて発症することがあり、寒冷暴露は血圧変動等の要因となり得る。右急激な血圧変動や血管収縮をもたらす過重負荷が業務に起因する時、業務が本件疾病発症につき相対的に有力な原因となったと認めるべきである。業務に起因する過重負荷は通常の業務を超えた過重な業務によって受ける負荷であり、通常の業務によって受ける負荷は自然経過の範囲内である。本件疾病は過重負荷を受けてから発症に至るまで、通常は24時間以内、稀に数日を要し、発症前1週間以前の負荷と発症との関連は希薄である。故に、本件疾病発症に最も密接な関連を持つ業務上の過重負荷は発症前24時間以内のもの、次いで発症前1週間のものである。
原告の本件疾病は、正月休みを含む比較的長期の休養の後、日ならずして発症しており、原告は、本件疾病発症前24時間以内、発症前1週間以内、何れをみても、通常の業務を超えた過重な業務に従事していない。寒冷期において脳血管障害は日常生活の自然経過によって発症する例も多いことに照らすと、本件疾病発症日の稼働が特に右疾病に関与したと即断することもできない。原告の通常の業務が、それ自体過重であり、慢性疲労による精神的負荷を蓄積したと認められないことは前説示のとおりである。原告は高血圧について医師の治療を受けていなかったから、日常生活における自然経過によって症状が増悪したことも優に考えられる。したがって、原告の業務が本件疾病発症の相対的に有力な原因であると認めることは困難である。 - 適用法規・条文
- 99:その他 労災保険法13条99:その他 労災保険法14条
- 収録文献(出典)
- 労働判例609号77頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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