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2チャンネル書込名誉毀損事件

事件の分類
その他
事件名
2チャンネル書込名誉毀損事件
事件番号
東京地裁 − 平成13年(ワ)第25246号
当事者
原告個人2名

原告A株式会社

被告個人2名
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年09月02日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(確定)
事件の概要
 原告会社は、貨物運送等を業とする株式会社、原告Aはその代表取締役、同Bは原告Aの妻で専務取締役であり、被告Xは、平成13年9月以降、原告会社に雇用されて運送業務に従事していた者であり、同Yはその父である。

 被告Yは、原告会社との間で、平成13年9月3日、被告Xが原告会社の就業規則及び諸規定を遵守して忠実に勤務することを保証し、被告Xがこれを不履行又は規則を乱し、故意又は重大な過失により原告会社に損害を与えた場合は、被告Xと連帯して損害賠償義務を負う旨の身元保証契約を締結した。

 被告Xは、平成13年10月25日、インターネット掲示板ホームページ「2チャンネル」内に、「不当解雇」というスレッドを作成し、同日以降、「業務は多忙で休日はほとんどなく」、「朝7時から夜中の2時、3時もざら」、「いきなりの解雇通知」、「自己啓発セミナー行きを断ったのが社長と専務の癇に障ったらしい。ただそれだけの理由だけで解雇して良いのか」、「平均3、4時間の睡眠での運転手で精魂尽き果てる」、「税引き後18万そこそこの給料で34万の請求…16万の赤字」、「社長は2代目のボンボン、奥さんは学習院短大出でお嬢様」、「従業員を奴隷と思っている節がある」などの書込みを行った。
 原告会社らは、本件書込は虚偽の内容を含んでおり、被告Xが故意に原告らの名誉、信用を毀損する目的を持ってしたのであり、本件スレッドの中の書込みの中には本件書込みを信じていると思われるものもあり、書込みを見た人物に、原告らに悪印象を植え付けるものであるとして、本件書込みによる名誉等が毀損されたことに対し、原告会社に300万円、同A、B各200万円を、被告らが連帯して支払うよう請求した。
主文
判決要旨
 インターネットを利用する一般の閲覧者の視点からすると、本件書込は、閲覧者に対し、原告会社が運転手に休日を与えず、睡眠時間平均3、4時間で長時間酷使し、低額の賃金しか支払わず、従業員の生き方を強制的に変えるようなセミナーへの参加を求めるなど理不尽な要求をした上、従わないときは解雇するような会社である、その経営者である原告Aもその資質に問題がある上、研修の参加を強要し、それに従わない者は解雇するような者であり、原告Bは、従業員を人間として尊重せず不合理な服従を強いるような人物であって、いずれも経営者として不適格であるかのような印象を与えるものであることが認められる。そうすると、被告Xがインターネットに本件書込みを行った結果、原告らの名誉、信用等について社会から受ける客観的評価が低下したことは明らかであり、被告会社の信用及び名誉並びに原告A及び同Bの名誉が毀損されたと認められ、被告Xの前記行為は不法行為に当たると解すべきである。

 名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、当該行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であると証明されるか、その事実が真実であると信じるについて相当な理由があるなどの事由が立証されない限り、仮にその表現が名誉毀損目的で行われたものでなかったとしても違法性を欠くとはいえず、名誉毀損の不法行為の成立を妨げるものではない。

 本件書込みは、原告らの社会的評価を低下させるもので、その信用、名誉を毀損するものであり、本件書込みが行われたのはインターネットの掲示板という、不特定多数の人間が閲覧する可能性がある場所であり、またインターネット上ではその伝播力が大きいため、文書等に比して、原告らの名誉、信用をより大きく損なう危険性を有していることが認められる。しかも、原告会社の住所やホームページのアドレスも本件掲示板上に公開したため、原告会社に対して第三者からいたずらメールが送信されたり、社内においても、原告A及び同Bと従業員との関係に悪影響が生じるなどの事態が発生したことが認められる。

 他方、本件書込みを実際にどの程度の人間が見たかは不明であり、実際にどの程度伝播したかは明らかでない上、インターネット上の掲示板においては、意見表明の容易さ、匿名性が相俟って、信用性の乏しい情報も少なからず見受けられる。そして、原告A及び同Bについては、原告会社の経営者としての名誉を毀損されたのであるから、原告会社についての損害を賠償することにより、その被害は相当程度回復されるものと認められる。

 以上本件に現れた全事情を総合強慮すると、原告会社が本件によって被った損害を100万円、原告A及び同Bの被った損害を各30万円と認めるのが相当である。

 被告Xは、平成10年10月13日、原告会社が依頼された配送の仕事を割り当てられていたにもかかわらず、無断欠勤のためそれを行わなかったこと、同月23日には、原告会社が依頼されていた病院に紙おむつを配送する業務を割り当てられていたが、それを配送しないまま帰宅したことが認められ、これらの被告Xの行為は懲戒解雇事由に該当し、よって、原告会社は同年10月25日に被告Xを懲戒解雇したものと認めることができ、被告Yは、本件身元保証契約終了後に行われた本件書込みによって原告会社に生じた損害について賠償する責任を負わないというべきである。
 なお、使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理性を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解すべきところ、被告Xの業務命令違反行為の態様、原告会社の信用に与えた影響に加え、被告Xが平成13年10月中に少なくとも3回無断欠勤をし、また無断遅刻を1回している上、同年9月27日には、荷物の配達先の家で、冷蔵庫を無理矢理運び込んで壁紙を破損し、同年10月19日には二日酔いの状態で出勤し、運転もできない状態であったので早退させられた事実を併せ考えると、被告Xに対する懲戒解雇は、客観的に合理性を欠き社会通念上相当として是認できないものであるとはいえず、懲戒権の行使としての懲戒解雇が権利の濫用に当たるとはいえない。
適用法規・条文
02:民法709条,719条,723条
収録文献(出典)
労働判例834号86頁
その他特記事項