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鳥取(電機会社)脅迫等事件

事件の分類
その他
事件名
鳥取(電機会社)脅迫等事件
事件番号
鳥取地裁 − 平成19年(ワ)第128号
当事者
原告個人1名

被告個人2名 A、B

被告鳥取(S電機)株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年03月31日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 原告は、昭和51年4月に被告会社に入社し、長男の出産を機に昭和58年11月に退職した後、昭和59年6月、契約期間が1年の「準社員」として再就職した女性である。なお被告会社は、平成4年12月、従来の「準社員」制度を廃止し、「新準社員」制度を実施し、原告も新準社員となった。

 原告の所属するフォトニクスビジネスユニットは、平成16年頃から業績が悪化し余剰人員が発生したことから、他のユニットへの応援、異動を行う一方、一定の要件を満たす退職者に対して一時金の支給・転職準備の有給休暇の付与等を内容とする「転進支援制度」を導入し、原告は平成17年10月から18年6月までの予定で、被告会社のマルチメディアビジネスユニットでの生産応援として、携帯電話の製造作業に従事した。

 被告会社の従業員C、Dは、平成18年5月10日の勤務終了後、ロッカールームで原告が、Pは以前の会社で何億も使い込んで、今の職場に飛ばされた旨の発言を聞いた。PはC、Dからこの話を聞き、課長M及び人事課長である被告Aに身に覚えのないことと涙ながらに訴えた。Pは被害状況を課長Mにメールを送り、同課長は同月16日、C及びDから原告の発言について確認したが、原告はPの悪口を言ったことを否定した。

 原告は、同年6月16日、被告会社のE取締役に会い、サンプルの不正出荷している人がいる、自分を辞めさせようとしている、人事担当者が従業員に県外出向を強要しているなどと訴えた。被告Aは、原告がPへの中傷行為を2度にわたって否定するなど反省の態度が認められないこと、労使間で合意したことについて役員に直接電話を架け、脅迫的な言辞を用いて妨害・中止させようとしたことは従業員として不相当であるとして、原告を呼び出し、課長Mとともに面談した。本件面談の際、原告は終始ふて腐れたような態度を示したことから、被告Aがその態度に腹を立て、「会社の施策に対する妨害だ」、「何億円と使い込んだ証拠を持って来い」、「名誉毀損の犯罪だ」、「会社の秩序を乱すような奴は一切要らん」、「何が監督署だ、何が裁判所だ」、「俺は絶対に許さんぞ」などと感情的に大きな声を出して叱責する場面もあった。

 原告と被告会社は、平成18年6月21日、契約期間を同日から平成19年6月20日までとする労働契約書を取り交わしたが、その際被告会社は原告に対し、新準社員就業規則の懲戒事由に該当する行為があれば、譴責以上の処分を下し、懲戒解雇もあり得る旨の「覚書」への押印を求め、原告はこれに署名押印した。

 同月、被告会社では携帯電話製造業務が終了することに伴い、原告の新たな異動先を検討する必要が生じ、原告はかねてから義母の介護のため短時間の職場を希望していたところ、被告会社は同人の新たな就労場所として、清掃業務を主たる事業とするK社に同年7月11日付けで出向させることとした。K社への出向直前の同月3日、担当部長である被告Bは、出向までの待機期間に原告に行わせる通常業務がなかったため、原告に対して社内規程を精読するように指示し、原告はこれに従事した。また被告会社は、平成19年度の原告の人事評価を、総合評価「C」(5段階の上から4番目)とし、同年6月から1年間の原告の基本給を減額した。
 原告は、被告Aによる本件面談における罵倒行為、覚書への署名押印、被告Bが社内規程を精読させた行為、K社への出向、原告の評価を「C」としたことは、原告に対する不法行為を構成するとして、被告A及び被告B並びにその使用者である被告会社に対し、連帯して慰謝料800万円等を支払うよう請求した。
主文
判決要旨
 そもそも原告は、被告Bや被告Aに対し、Pに対する悪口を言っていないと述べていたのであり、被告Aとしても、それを直ちに虚偽と決めつける根拠などなかったのであるから、原告が「反省する様子を示さず、反抗的で、面談を一方的に切り上げようとした」という理由で、被告Aが原告に対し、声を荒げて根拠のない非難をしたこと、即ち罵倒したことは、それ自体不法行為を構成するというべきである。また被告Aは、客観的裏付けを伴わない自身の判断が、裁判所や労働基準監督署による規律よりも優先するという思い上がった考えを何度も強調しており、その言動の内容自体も不当である。その上、被告Bを含む人事担当者らは、原告の言動に関する誤った理解を前提に、原告をK社に出向させ、被告会社の本来職務とは全く異なる清掃業務に従事させており、その後K社による勤務成績の評価にまで介入している。これらは全体として、原告の勤務先ないし出向元であることや、その人事担当者であるという優越的地位に乗じて、原告を心理的に追い詰め、長年の勤務先である被告会社の従業員としての地位を根本的に脅かすべき嫌がらせ(パワーハラスメント)を構成するというべきである。
 こうして原告は、被告Aや被告Bから、被告会社の従業員として有する法的利益を違法に侵害されたのである。そして、被告Aや被告Bは、これらの行為を、被告会社の人事担当者として行ったのであるから、その使用者である被告会社も、原告に対し不法行為による損害を賠償する責任を免れない。そして、原告が被告らの前記不法行為により被った精神的損害は、それが長年の勤務先である被告会社の従業員としての地位を根本的に脅かすべき嫌がらせであったことをも考慮すると、慰謝料300万円を下らないというべきである。
適用法規・条文
02:民法709条,715条
収録文献(出典)
労働判例987号47頁
その他特記事項
本件は控訴された。