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大分労基署長(電気工事会社)心筋梗塞死事件

事件の分類
過労死・疾病
事件名
大分労基署長(電気工事会社)心筋梗塞死事件
事件番号
大分地裁 − 昭和63年(行ウ)第1号
当事者
原告個人1名

被告大分労働基準監督署長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1992年11月10日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 T(昭和3年生)は、M商会の屋号で電気及び配管工事をしていた者である。Tは昭和58年8月15日頃から流通センターの配管工事に従事していたが、その工事内容は大型冷凍冷蔵庫の設置に伴う電気工事であり、納期は同年9月10日であったが、試運転の必要上同月7、8日までにはこれを完成させることになっていた。しかも建物建築工事が遅れていたため、同年9月初旬頃は多忙となっていた。Tは、同年8月30日、31日は、午前9時頃から昼食・夕食の各1時間を除いて午後10時頃まで仕事をしていた上、同月30日は帰宅後午前零時頃からスーパーマーケットにおいて電気系統の修理に従事し、同月31日は午後11時頃から翌1日午前2時頃までの間に宇佐まで工事のため往復した。同月1日も、Tは午前9時頃から翌日午前零時頃まで、翌2日も同様の仕事をした。

 Tは、同月3日も午前9時頃流通センターへ出掛け、昼食は自宅に戻って食べ、再び現場に戻り、単車で材料を運搬中に転倒した。Tはその直後胸部通を訴え、午後3時過ぎ頃病院に搬送され、その後転院して各種治療を受けたものの、翌4日午前9時31分頃心筋梗塞により死亡した。
 Tの内縁の妻である原告は、Tの死亡は業務上の事由によるものであるとして、被告に対し、労災保険法による療養補償給付、遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したが、被告はいずれも支給しない旨の決定(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 本件事故が発生した前日から当日にかけての業務は、長年携わって習熟していた作業であり、養魚場での作業も深夜ではあったが僅か15分程度で終わったものであること、本件事故前日の夕食は、仕事の関係者らとホルモンを食べに行き、ビールを少し飲む程度の余裕があったことに照らすと、本件事故の前日から当日にかけて、Tが突然困難な業務に従事したことや、同人にとって精神的な衝撃を受けるような出来事が発生したとは認められない。

 流通センターでの作業は長年従事し習熟した電気工事であって経験のない業務に従事したわけではないこと、同センターの工事に携わってから本件事故が発生するまでには約3週間が経過しているが、8月中の稼働状況については、労働時間や労働密度、休日の有無、同センター以外の仕事の有無や内容について明らかではなく、その間Tに長期にわたる疲労の蓄積があったと認めることはできないし、却って、同年9月初旬頃多忙となったのは同センターの建設工事が遅れた影響もあったためで、これは仕事開始当初は仕事ができない状況にもあったものと推認されるなどTの労働密度が継続的に非常に高いものであったとは認められないことなど、その間Tに長期にわたる疲労の蓄積があったとは認められない。
 更に、8月30日以降はかなりの長時間労働ではあるが、不慣れで困難な作業でもなく、9月1日が翌2日の午前零時頃までの作業になったのも他の業者の作業が遅れた影響によるもので、労働密度の格別高い状態が続いていたとは認められないこと、納期に追われることはこれまでもあったと思われること、借金は遅くとも昭和57年9月頃から始まっており、その頃から資金繰りが順調ではなかったと推認され、本件事故発生当時に特に困難な状況が発生したものとは認められないことなどの事情に照らすと、本件事故前約1週間の業務が重労働であったとは認められるものの、量的、質的に特に過激な業務に就労したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、Tの死因である心筋梗塞について業務起因性を認めることはできない。
適用法規・条文
99:その他 労災保険法13条,16条の2,17条
収録文献(出典)
労働判例624号47頁
その他特記事項