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化工機会社脳出血事件

事件の分類
過労死・疾病
事件名
化工機会社脳出血事件
事件番号
札幌地裁
当事者
原告個人1名

被告個人1名 A

被告化工機Y社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年03月26日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告会社(Y社)は、機械器具装置の設計、製作等を業とする会社、被告AはY社の産業医であり、原告は昭和41年にY社に入社し、本件発症当時は技術営業部の課長の職にあった者である。

 原告は、平成4年12月にY社の幹部会議に出席したところ、その席上で左脳出血のため倒れて入院した。その後原告は、右上下肢機能の全廃及び体幹機能障害により身体障害1級の認定を受け、平成6年11月末にY社を退職した。
 原告は、Y社に対し安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求したほか、産業医である被告Aに対しても、労働安全指導契約の義務を怠り、原告の病的症状の医学的解明や適切な治療行為を施さなかったとして損害賠償を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 業務の過重性

 労災保険における業務起因性に関する認定基準「脳血管疾患および虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」(平成13年12月12日付基発1063号)では、(1)発症直前から前日までの間における異常な出来事への遭遇、(2)発症に近接した時期(概ね1週間前)の過重業務、(3)症前の長期間(概ね6ヶ月間)の過重業務が挙げられている。

(1)について、原告は、本件幹部会議はワンマンである社長以下の幹部が全員参加するもので、年数回しか行われず、社長が原告以下を名指しで個別に報告させるもので、原告は年間営業成績が低いことを指摘される恐怖を有していたから、認定基準にいう「異常な出来事」に該当すると主張する。しかしながら、本件幹部会議は、例年12月の忘年会直前に行われるものであり、その内容も、業界の動向や業績見通し等の一般的な話が社長からされるほか、担当業務の来年度の予定等を出席者が発言するもので、個別の案件を検討したり、個別の営業成績を比較するようなことはなく、発言を求められる出席者としても特段の準備を要する会議ではなかったのであるし、実際にも予定終了時刻の午後4時よりも30分ほど早く終了したものであって、これをもって、極度の緊張、興奮、恐怖、驚愕等の強度の精神的負担を引き起こす事態ということはできない。

(2)について、原告は本件発症前の1週間程度については、1度1泊の出張に行っている

ことが認められるが、その出張から戻った後は通常の事務所内の業務に従事していたと考えるのが相当である。そして、出張以外の勤務については、1日当たり1、2時間の残業をする場合があり、毎日2時間の残業があったと仮定しても、その所定外勤務を加味した業務について、業務量や業務内容、作業環境といった点で過重に精神的、身体的負荷をもたらすものということはできず、過重労働であったとはいえないと解する。

 (3)について、原告の発症前6ヶ月間の労働時間は、1日当たり1時間の所定外労働、出張時は1日当たり1時間の所定外労働がされていたと仮定し、その他休日勤務、深夜勤務として認められた時間を併せて算定すると、平成4年6月が24時間、7月が27時間、8月が59時間、9月が120.5時間、10月が44時間、11月が40時間、12月(4日まで)が4時間となっている。

 原告の業務内容を含めた作業環境を見るに、出張の占める割合は所定労働日数の60%余であり、出張の多い業務であったともいえる。また、納期等との関係で作業が深夜になることもあったと認められる。他方、出張先は概ね3カ所であり、現場監督として、1カ所の現場に長期に滞在することが多く、特に出張期間、労働時間が長い平成4年8月、9月はその傾向が強かった。しかし、原告が指揮監督する下請業者は、例年依頼する業者も含まれ、信頼関係も構築されており、常に新規業者と接触するような状態ではなかった。これらの諸事情を考慮すると、原告の置かれた作業環境が、恒常的な精神的、肉体的負荷を生じせしめ、疲労を蓄積させるものであったとはいい難いから、発症前の長期間についても、過重業務があったと認めることはできない。

2 原告の健康状態
 原告は、遅くとも昭和63年から血圧が高い状況にあり、平成2年の健康診断時に高血圧と診断され、同年5月から6月にかけて産業医の診療所において降圧剤の処方を受けるなどし、平成4年度においても血圧については治療を要する旨指摘されていることが認められ、原告の高血圧が増悪して本件発症に至ったことが考えられるものの、業務が自然的な経過を超えて高血圧を増悪させたとはいえず、その他業務と本件発症との因果関係を認めるに足りるような証拠はない。
適用法規・条文
02:民法415条、民法709条、
収録文献(出典)
その他特記事項