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広島(税務署職員)くも膜下出血死控訴事件(過労死・疾病)
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 広島(税務署職員)くも膜下出血死控訴事件(過労死・疾病)
- 事件番号
- 広島高裁 − 昭和51年(行コ)第9号
- 当事者
- 控訴人個人1名
被控訴人地方公務員災害補償基金秋田県支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1978年03月22日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- Nは、大蔵事務官として広島南税務署に勤務し、昭和44年7月以降資産税相談係長として納税者に対する相談事務を主として担当してきた。資産税に関しては、昭和44年に法改正があり、同年度は新法旧法の選択適用が認められていたため、その確定申告の期間である昭和45年2月12日から3月16日までは例年以上に多忙であり、この期間中はほとんど残業するような状況であった。
Nは、同年4月6日、午前8時40分頃出勤し、午前11時から30分間納税に応じたが、格別トラブルもなく終了した。昼休み後の午後1時30分頃、食堂経営者Hら3名が税務相談に訪れ、Nがこれを担当したが、Hはこれまでにも税務相談に訪れ他の税務署員と口論したこともある所謂うるさい人物であり、税務相談としては極めて難しい種類に属するものであった。HらはNから言質を取り有利な取扱いを得ようと強い語調で発言し、これに対しNは理論的説明が苦手なためHらを納得させることができないでいたところ、Hら3名はNを取り囲んだ形で声高に詰問した。すると、午後1時55分頃、Nは突然頭に手を当て、休養室に運び込まれたが、意識が回復しないままくも膜下出血で死亡した。
Nの妻である控訴人(第1審原告)は、Nの死亡は公務に起因するものであるとして、国家公務員災害補償法に基づく葬祭補償金等の支払を請求したところ、第1審では請求を棄却されたため、これを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 原判決を取り消す。
被控訴人は控訴人に対し、金84万4000円及びこれに対する昭和47年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- Nの死亡当日の勤務状況は、午前、昼休み、午後の最初の納税相談に至るまでは平穏で精神的ストレスを生じせしめるものではないが、Hら3名の税務相談は、その相談者らの人柄、態度、相談内容にNの能力、性格を併せ考えるときは、Nに高度の精神的ストレスを生ぜしめるものであったと認められる。
ところで、公務上の死亡というためには、公務と死亡との間に相当因果関係の存することを要するものというべきであるが、特に公務員が高年齢による動脈硬化あるいは高血圧症等の基礎疾病を有する場合においては、公務の遂行が基礎疾病を急激に増悪させて死亡の時期を早める等それが基礎疾病と共働原因となって死亡の結果を招いたものと認められれば足るものと解すべきである。
これを本件についてみるに、Nの健康状態(高血圧症の進展状況)は高血圧症という基礎疾病を有するがその進展状況は緩慢であったものと認められ、右が急激な自然増悪の過程にあり、事故当時いつ頭蓋内出血があるやも知れぬほどに高度のものであったとは到底解し難いから、Nの死亡がその有する高血圧症が自然経過的に進展した結果生じたものと認めることは困難であり、一方N死亡当日の3名による税務相談においては、Nに高度の精神的ストレスを生じたことが認められるから、Nは右精神的ストレスにより基礎疾病たる高血圧症を急激に増悪させた結果頭蓋内出血を生じ、それにより死亡するに至らせたものと認めるのが相当である。そうすると、Nの死亡は公務に起因するものということができる。
Nの死亡が公務上のものである以上、被控訴人は控訴人に対し、葬祭補償として金17万8000円、退職手当金として金399万8000円の支払義務があるところ、控訴人は被控訴人よりNの普通退職金として金333万1762円を受領済みである。そうすると被控訴人に対し、金84万4000円及びこれに対する訴状到達の日の翌日である昭和47年10月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の本訴請求は理由がある。 - 適用法規・条文
- 99:その他 国家公務員災害補償法9条、18条99:その他 国家公務員退職手当法5条
- 収録文献(出典)
- 判例時報907号46頁
- その他特記事項
- 本件の第1審は、「広島地裁昭和47年(行ウ)29号、1976年9月30日判決」
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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