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大阪運輸振興バス運転手雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
大阪運輸振興バス運転手雇止事件
事件番号
大阪地裁 - 平成19年(ワ) 第11104号
当事者
原告 個人1名
被告 外郭団体
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年11月28日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、大阪市の外郭団体で、市営バスの運行受託業務等を行っている企業であり、原告は、平成17年1月、被告に嘱託職員(運転手)として雇用され、F営業所等において市営バスの運転業務に従事していた。原告と被告とは、同月12日から同年3月31日までの第1契約、翌4月1日から平成18年3月31日までの第2契約を経て、翌4月1日から平成19年3月31日までの第3契約を締結した。第2契約には「更新しない場合の判断基準」として、「嘱託社員の能力、勤務成績」「交通違反等による累積7点以上の場合」等の条項があり、第3契約においても同様の条項があった。
 原告は、下記の事故を起こし、その都度指導を受けてきた。
 (1)平成17年3月8日、家屋触れ(物損) 口頭注意、(2)同年6月16日、泥はねによる衣服汚損 処分なし、(3)同年9月28日、構内安全柵、縁石触れ(物損) 口頭注意、(4)平成18年3月10日、構内安全柵触れ(物損) 口頭注意、(5)同年6月21日、ガードレール触れ(物損) 口頭注意、(6)同年10月9日、急止反動による車内客負傷(治療90日を要する右大腿骨頸部骨折) 停職7日間
 被告は、平成19年1月19日、路線バス運転手としての適格性を欠いているとして、原告に対し雇用契約を更新しない旨通知したところ、原告は同年4月以降の雇用契約上の地位の確認及び同月分以降の賃金の支払いを求めて提訴した。
主文
1 本件請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 実質的に期間の定めのない雇用契約か否か

 (1)原告と被告との間に交わされた嘱託社員(自動車運転手)労働契約書には、いずれも雇用期間が明示されていること、(2)就業規則にも同様の定めがあること、(3)更新日までに新たな契約書が作成されていること、(4)被告にあっては、更新は完全に自動的ではなく、前年12月に雇止めの対象となるかどうかを検討しており、実際に雇止めになった者もいること等の事実が認められることからすると、原告と被告の間の雇用契約が実質的に期間の定めのないものであったとまでは認められない。

2 解雇権濫用法理の類推適用の可否

 (1)原告は、被告の中心業務であるバスの運行を担っていたもので、恒常的に必要とされている業務に従事しているものであること、(2)嘱託社員労働契約書には、いずれも更新の可能性を示唆する条項が存すること、(3)約500名のバス運転手のほとんどを嘱託職員が占める中で、平成19年度の更新の際雇止めの対象とされた者は6名に留まること、(4)被告にあって嘱託社員を3年間継続した者の中から正社員に登用する制度が置かれていること等の事実が認められることからすると、原告が嘱託社員の雇用契約が継続されるものと期待されることについては合理的理由があり、雇止めに際しては、解雇権濫用法理を類推適用されるものと認められる。

3 雇止めの効力

 原告の雇止めについて、解雇権濫用法理が類推適用されるとしても、期間の定めのない雇用契約にあっても普通解雇もあり得ることからすると、懲戒解雇に準ずる理由がなければ雇止めができなくなるわけではなく、雇止めの合理性と必要性が認められるかを検討することとなる。

 原告の惹起した事故は、事故(6)を除いては、軽微な事故であるといえる。殊に、事故(2)については、処分すらされていないものであるし、その他のものも口頭注意にとどまるものである。しかしながら、事故(1)ないし事故(5)は、偶発的で単発的な事故というには回数が多く、原告のバスの運転技能の低さを窺わせるものである。また、事故(6)は、乗客が重症を負った事故である。確かに乗客の受傷そのものについての原告の責任という点からすると、汲むべき事情は少なくない。高齢者にありがちなバスの運行中の危険な移動があった可能性も否定できないし、当該乗客が最後部座席の中央に座っていたため、制動措置の反動に対処できなかった可能性もあり、被告の車内放送等による啓蒙活動があれば事故を防止できた可能性もある。しかしながら、原告は、大型二種免許を有してバスを運転していたものであって、乗客の危険な行動はある程度予想される出来事であり、自ら事前に制止に努めたり、危険な行動があったとしても傷害を負うに至らないように運転を心掛けたりして然るべきである。また、前方が解放された最後部座席の中央に高齢者が座った時点で、座席の移動を案内する、自ら車内放送で高齢者が座らないよう予め注意を促す等の対処をすべきものであった。

 しかるに、かかる注意を欠いた運転をした原告については、その余の事故歴も併せ考慮すると、バス運転手としての技能が不十分で、適性が不足しているものといわざるを得ない。また、重ねて口頭注意が行われてきたにもかかわらず、事故(6)のような重大な結果まで生じさせていることからすると、今後同様の事故の発生を危惧し、原告を使用してバスを運転させることに被告が躊躇を覚えるのもやむを得ない。
 以上の検討からすると、原告の雇止めについては、合理的で相当性があるものと認められる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
平成21年版労働判例命令要旨集68頁
その他特記事項