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治試験コーディネーター懲戒解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
治試験コーディネーター懲戒解雇事件
事件番号
大阪地裁 - 平成18年(ワ) 第451号
当事者
原告 個人1名
被告 治験会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2008年03月07日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、病院等の医療機関側に立って治験業務を支援する会社であり、原告は、平成16年4月、被告に職務等級2級で採用され基本給は33万円であって、臨床開発本部大阪事務所における試用期間を経て、同年5月には職務等級3級(リーダー)に、同年9月には職務等級4級へ昇任した(基本給38万9000円)。以後大阪事務所において、既存医薬品の再評価に係る製薬会社と病院間の業務調整や被験者のアフターケア等を行うプロジェクトを、シニアCRCとして担当していた。

 被告では、特別の許可なしに製薬会社からの接待に応ずることを厳に禁ずる旨の社内通達を出していたところ、平成17年1月13日、原告は、部下らとともに、A製薬会社社員との新年会に参加し、部下らに対し、A社の招待を受けよう、目立たないように行こうといった趣旨のメールを発信した。

 原告は、特定の部下を排除しようとしたこと、部下らに対し、架空のミーティングを数回開催したこととしてタイムシートに記入するよう指示したこと等があったことから、被告は、平成17年3月14日、原告に対し、職務等級を2級に降格し、大阪事業所CRCに降職し、基本給を33万5000円に減給した。

 原告は、同年4月中旬、抑うつ神経症により2週間の休業加療を要する旨の診断書を被告に提出し、その後更に1週間の休業加療を要する旨の診断書を提出したところ、被告は、会社指定の病院の診断書の提出を指示し、面談を行う予定である旨通知した。原告は、同月25日、就労可能の旨の診断書を送り、出勤しようとしたが、被告は、病状や治癒が確認できるまで自宅で有給待機(本件待機命令)するよう命じた。

 原告は、被告に対し、(1)原告の疾患は会社のいじめによるものである、(2)被告指定病院での診察には応じられない、(3)本件待機命令は不当な出社拒否であり、いじめである等の内容の通知をした。被告は、同年5月中旬から下旬にかけて、原告との面談を求め、日程調整の申し込みをしたが、原告は被告からの面談の申し入れを拒否した。被告は原告に対し、面談指示に対し何らの回答も出頭もしない場合は業務命令違反として扱う旨通知したところ、原告は、次男の交通事故による被害のために直ぐの面談には応じられないと主張したほか、面談は大阪で行うことを主張し、被告の指示する東京での面談をあくまでも拒否した。

 被告は、同年8月25日、原告に対し、被告の100%出資の子会社(東京都)に出向を命じたが、原告は突然の出向命令と資格認定試験受検阻止のためショックを受けて出勤不能となったとの診断書を出し、本件出向命令に従わなかった。被告は、事情聴取のため原告に出社を指示したが、原告がこれに応じなかったことから、同年9月7日、原告に対し、(1)被告の承認を得ることなく、A社から2回にわたって接待供応を受けたこと、(2)(1)について被告への報告義務を遵守せず、虚偽の記載や報告を行ったこと、及びB社の要請を装ってそのプロジェクトから特定のCRCを排除しようと会社に虚偽の進言をしたこと、(3)(1)の接待供応を受けたことを「プライベート」なものであるとするよう口裏を合わせるよう同僚に働きかけたこと、(4)同年4月から8月までの各出社命令などに従わなかったことを理由として、原告を懲戒解雇した。

 原告は、本件降格及び解雇は無効であるとして、被告に対し、地位の確認と解雇後の賃金を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告に対する大阪から東京への転居を伴う出向命令については、(1)就業規則上出向権の根拠があること、(2)原告は勤務地を限定して採用されたものではないこと、(3)原告が降格等に不服を申し入れていたこと、かねて抑うつ神経症である旨の診断書を提出し、休みがちな原告に対して会社が指定する複数の病院のいずれかの診断書の提出を指示していたが、次男の交通事故の発生を理由としたり、面談における「代理人」の同席等を要求したり、最終的には抑うつ神経症である旨の診断書を提出するなど、不合理な条件を付して、業務命令である面談にすら応じようとしなかったこと、(4)原告は当時の上司の対応を非難するなどしており、当時の職場からの転勤を要したこと、(5)大阪には大阪事業所に代わる適切な事業所が存しなかったこと、(6)従前の賃金処遇が維持される予定であったこと、(7)転居にまつわる費用についても相当程度配慮されていたこと、(8)出向先の業務(医薬品開発業務受託機関のモニター職)と出向元の治験施設支援業務には一定の類似性があったこと等からすると、原告が主張する家族の状況(大学受験を目前とした長男と翌年中学に進学する次男の家庭環境の激変)等転居が困難な事情を考慮しても、当該出向命令は有効である。

 原告が、(1)部下のCRCとともに製薬会社の接待を受け、(2)実際には開催されていないミーティングを数回開催されたこととして部下のCRCにタイムシートへの不実記載を指示し、(3)自己の責任を虚偽の弁解によって部下に転嫁する姿勢が認められ、これらは会社の主要業務の信頼性を損ないかねない問題であり、あるいはCRCのリーダーであるシニアCRCとしての適格性がないことを窺わせる事情であることから、減給が伴うことを考慮しても、原告の降格には合理的理由があり、また電子メールなど信用するに足りる証拠が残っていることからすると、原告から個々の事象について個別具体的に詳細に聴取する機会がなかったとしても、原告の降格・減給には違法はない。

 原告は、(1)被告の承諾を得ずに取引先製薬会社から接待供応を受けたこと、(2)(1)の接待が発覚しないようにして接待を受けており、少なくとも、上司が接待の有無を確認したにもかかわらず、何らの報告もしていないこと、(3)上記接待を「プライベート」などと口裏を合わせるよう部下に働きかけたこと、(4)依頼者の製薬会社の要請を装って、そのプロジェクトから特定のCRCを排除しようと被告に虚偽の進言をしたことがあること、(5)その後、休みがちになり、被告から面談の申し入れがあったが、代理人の同席や、大阪での面談要求という不合理な条件を付して、実質的に面談を拒否していたといわざるを得ないこと、(6)有効な出向命令に従わなかったことからすると、原告は懲戒事由に該当し、かつこれら原告の行為の態様からすると、同人を懲戒解雇に付したことはやむを得ない。また、原告には弁明の機会が与えられていたと認められる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
平成21年版労働判例命令要旨集319頁
その他特記事項