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契約社員契約期間中解雇・雇止仮処分事件

事件の分類
雇止め
事件名
契約社員契約期間中解雇・雇止仮処分事件
事件番号
横浜地裁 − 平成21年(ヨ)第403号
当事者
その他債権者 個人7名
その他債務者 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2009年10月09日
判決決定区分
却下(抗告)
事件の概要
 債務者は、労働者派遣事業を主な目的とする株式会社で、債権者らは、平成18年6月以降債務者との間で有期雇用契約を締結し、S社の本件工場において化粧品の製造に従事していた。債権者らは、平成18年当時、派遣労働者として雇用契約を締結しS社に派遣されていたが、平成19年1月以降は、債務者とS社との間の契約が請負契約となったため、債務者の契約社員として就労していた。

 債務者は、平成21年4月上旬頃、S社から発注を減量するとの通告を受け、これを受けて同月10日頃から、債権者らを含め本件工場で働く全従業員との間で、順次個別に期間を同月1日から同年5月31日までとする雇用契約を締結し直し、債権者らも同契約書に署名・押印した。債務者は、同月17日、債権者A、同B、同C、同D及び同E(債権者Aら)を含む22人の従業員に対し、事業の縮小等を理由に、同年5月17日付けで解雇する旨通知した。また債務者は、同年4月13日頃、同年5月1日付けで債権者F及び同Gを一般作業員へと変更する旨通知したが、同債権者らは組合を通じて降格人事の見直しと、同年6月以降の労働契約については、同年1月1日から12月31日までの労働契約が有効と考えているため、新たに再契約することができない旨通告した。債務者は、5月分賃金の支払い時に未消化有給休暇の補償として、債権者Aらに2万9450円ないし13万2525円をそれぞれ支払った。

 債権者Aらは、契約期間の変更は、錯誤、詐欺、公序良俗違反に当たり、無効又は取消されるべきこと、有期契約期間途中の解雇は「やむを得ない事由」が必要であるところ、解雇の必要性、解雇回避努力、対象者の選定基準の合理性、事前の十分な説明・協議のいずれもないことから無効であることを主張し、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めて仮処分の申立を行った。また債権者F及び同Gは、本件降格は不当労働行為として無効であり、平成21年6月以降も従業員としての地位を失っていないとして、その地位の確認と賃金の支払いを求めて仮処分の申立を行った。
主文
1 本件申立をいずれも却下する。

2 申立費用は、債権者らの負担とする。
判決要旨
1 本件契約の有効性

 債権者と債務者は、当初平成21年1月1日から同年12月31日までの有期雇用契約を締結していたところ、債務者は、同年4月上旬頃、S社から同年5月分から夏頃までの受注を減量させる旨通告されたことを受けて、同年4月10日頃から、債権者らを含め、本件工場で働く全従業員との間で、順次個別に期間を同月1日から同年5月31日までとする雇用契約を締結し直し、債権者らも同契約書に署名・押印したことが認められる。

 債権者らは、契約期間が変更となったことを認識した上、署名・押印をしたことをいずれも認めており、債務者は必ず契約を更新する旨の説明はしておらず、本件契約締結について錯誤、公序良俗違反により無効とまでは認められず、詐欺により取り消されるべきものとも認められない。よって、債権者らと債務者との間の雇用契約は、本件契約により平成21年4月1日から同年5月31日までに変更されていると認められる。

2 解雇の有効性

 債権者Aらに対する5月17日付け解雇は、有期契約の期間途中の解雇に該当し、使用者は「やむを得ない事由」がある場合でなければ、当該労働者を有期契約の期間途中に解雇することはできない(労働契約法17条1項、民法628条)。

 この点、S社からの受注が平成21年5月から減量したというのみで、債務者の経営状態についての疎明資料はなく、かえって、債務者は同年2、3月頃には新規従業員3人を新規採用している。また、債務者は、S社からの減量受注の通告を受けて、希望退職の募集をしているが、募集期間が3日間と短期間であり、結局希望退職者がなかったとして、直ちに債権者Aら5人を含む従業員22人に対し解雇を通告しており、解雇の回避に向けた努力を尽くしたものとは認められない。更に債務者は、解雇対象者の選定の際の一定の合理性を有する基準を設けて解雇対象者を選定しているものの、事前に何ら従業員に対する説明がなく、解雇予告時に各従業員に整理解雇する旨伝えたのみであることからすると、債務者が行った解雇に「やむを得ない事由」があるとは到底認めることはできず、無効であるといわざるを得ない。よって、債権者Aらは、債務者に対し、平成21年5月18日から同月31日までの間の賃金請求権を有すると認められる。

 債務者の債権者F及び同Gに対する5月31日付けの雇止めの意思表示は有期雇用契約の期間途中の解雇とはいえない。また、債権者F及び同Gに対する降格処分は組合加入通知前に行われており、平成21年6月以降の労働契約については、同年1月1日から12月31日までの労働契約が有効と考えているため、現時点では新たに再契約することができないとの同債権者らの要望を受けて、債務者が雇用契約の締結に至らないと判断して行った雇止めが、労働組合の組合員であることを理由とする不当労働行為に該当し、無効であるとまで認めることはできない。よって、債権者F及び同Gと債務者との間の雇用契約は、債務者の雇止めによって平成21年5月31日に終了している。

3 保全の必要性

 債権者らの被保全権利は、債権者Aらの、債務者に対する平成21年5月18日から31日までの間の賃金請求権のみ理由があると認められるところ、同債権者らの個別事情を前提としても、債務者が同債権者らに対し、平成21年5月分賃金の支払いと併せて未消化有給休暇の補償を支払っていることなどを併せ考慮すると、14日分の賃金の仮払をする必要性までは認めることができない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例1000号30頁
その他特記事項